和食の名料理人がたどり着いた創作肉料理の新境地……大阪・北新地に「きっしゃん 松 永楽町店」がオープン!

7月1日、大阪・北新地に焼肉店「きっしゃん 松 永楽町店」がオープンした。

同店は高級焼肉チェーン「きっしゃん」の新店舗で「和食料理人が作る肉寿司と焼肉」がコンセプトとなっている。他の焼肉店では見られないバラエティーあふれる肉寿司に加え「白いユッケ」など創意工夫をこらした創作肉料理の数々が味わえるということだ。

和食の技法やセンスが焼肉にどのように活かされているのか……。その魅力に迫るため、今回僕は食通としても名高い三枝雄子(さえぐさ ゆうこ)さんを伴い同店を取材させていただいた。

「きっしゃん 松 永楽町店」には常連の方に隠れ家的に利用してほしいという意図から、看板が設置されていない。代わりに松をかたどったロゴマークが入り口のそばにあしらってあるので、初めて訪れる方はそれを目印にするといいだろう。

店内の内装、インテリアは上品な和風モダンで、カウンター、4つある個室それぞれが異なるデザイン。

これなら日常的に訪れてもその時々で違った気分を楽しめそうだ。

そんな北新地らしい気の利いた空間の中で、まず我々がいただいたのは「ローストビーフ」と「白いユッケ」。

「ローストビーフ」はこの上なく柔らかで、しっとりしていてパサつきがない。舌触りが生肉と焼肉の絶妙な中間地点にあるのだ。サシが入っている分、牛脂独特の甘い香りもたまらない。食事の始まりには絶好のオードブルだろう。

「白いユッケ」は白和え風のソースがかかったユッケにほうれん草、白髪ねぎ、茗荷、くるみなどを混ぜていただくのだが、これがまた滋味あふれていてたまらない。口にふくんだ途端、白和えソースの甘やかでまったりとした味わいが広がり、一口、二口と歯をかみしめるごとにその中から肉のうまみと各食材の個性が顔をのぞかせる。韓国風のユッケとは発想は同じだが、結果としてのテイストはまったく異なり、郷愁あふれる「日本の肉料理」として仕上がっているのだ。

お次の「肉寿司」もあなどれない。

僕はこれまで風味の調和の面で肉に酢飯を合わせるのは難しいと思っていたのだが、こちらのシャリは赤ワインを使った特製の酢飯で握られているということ。たしかにこれなら酸味が少なく甘みも穏やかで肉の味と喧嘩することが無い。またワインや日本酒など醸造酒とあわせるにしても幅広くマッチできるだろう。

いろいろいただいたが、特に「和牛白タンの昆布締め握り」「和牛の雲丹キャビア寿司」は絶品だった。品名だけ見ると「えっ!」と思ってしまうような突拍子の無さなのだが、これが実に和食料理人ならではのセンスあふれる絶妙加減なのだ。

締めは「すき焼きロース」。

最近よく見る一口すき焼きかと思えばそうではない。薄切りのロース肉をロースターでささっと炙るまでは同じだが、つけるのは甘辛いすき焼きのタレではなく、メレンゲにした卵白と、卵黄と大根おろしを混ぜ合わせた「黄身おろし」のソース。生臭みやどぎつい主張は一切なく、肉の味わいや質感を静かに補完しつつ、上品にさっぱり喉に送ってくれる絶品ソースだった。

斬新で練りに練られた、されど押しつけがましくなく静かな感動を与えてくれる肉料理の数々……。「きっしゃん 松 永楽町店」の肉料理たちはどのような思いのもと創られているのだろうか。総料理長の武輪泉(たけわ いずみ)さんにお話をうかがった。

武輪さんはこれまで40年以上のキャリアの中で「竹葉亭」、「春帆楼」など名だたる名店で腕をふるってきた知る人ぞ知る和食界の名料理人だ。

--:こちらは和食の要素を焼肉に取り入れるというコンセプトということですが、初めの「白いユッケ」からそのセンスの高さにノックアウトされました。

武輪:ありがとうございます。今日はいい塩が入ったのでそれを使わせてもらいました。発想は白和えからですが、いろんな味と香りの要素を楽しんでもらえたと思います。

三枝:ローストビーフもとても美味しかったです。こんなにしっとり柔らかいローストビーフは初めてです。

武輪:肉は58度を超えると火が通り過ぎて固くなってしまうので、低温で長時間かけて調理するんですよ。また、こういう料理の場合「先に肉の表面を焼いてうま味を閉じ込める」という人もいますが、うちでは先に手を加えてから最後に焼くんです。そのほうが香ばしさも残りますしね。

--:肉寿司自体は珍しいものではありませんが、こちらのものはシャリもネタも独特ですね。まずシャリが普通の酢飯じゃないし、ネタにしてもタンの昆布締めというのは初めて聞きました。

武輪:酢飯には赤ワインを使ってるんです。肉に合うし、こうすれば普通の酢飯のように酸味がたちすぎません。昆布締めは赤身をタタキにする時に香りづけでやることはあるけど、タンはあまりしないでしょうね。まず塩と昆布で締めて、寝かして、真空パックして……こうやって料理にするまでに3日、4日かかるんですよ。魚と違って染み込みにくいですし加熱する加減も難しい。うちはこういうコンセプトなので出来ますが、普通のお店で扱うには手間がかかりすぎるんです。

--:こちらならではの味ということですね。しかしこれは日本酒に合いそうですね。最近、焼肉店のドリンクというとビールやワインに力を入れる傾向にあると思いますが、こちらは「梅の宿」や「獺祭」、ほかにも季節ごとにいろんな日本酒を置かれるようですね。

武輪:和食の要素を大切にしているので、やっぱり美味しい日本酒は欠かせないですね。また北新地という場所柄、お客様の好みに幅広く対応しなくてはいけませんから。

--:「すき焼きロース」はお肉自体も良かったですがつけダレも手の込んだものでしたね。

武輪:生卵が苦手な方が一定数いらっしゃるんですよ。それに鍋で食べるならまだしもこの量にしたら卵一つは多すぎます。かと言ってうずらの卵では物足りない。そこで考えたのがこのタレです。すりおろした大根に黄身を混ぜたもの、白身をメレンゲにしたものを合わせているんですが、これなら肉の味わいを引き立てつつ、よりさっぱりと食べていただけると思います。

--:焼肉屋さんでここまで手の込んだお料理をいただくのは正直初めてでした。和食料理人として長いキャリアをお持ちだからこそ考え付く新しいジャンルの肉料理だと感じました。一つ一つどの料理をとっても、武輪さんのセンスと腕前には脱帽です。

武輪:そう思っていただけると嬉しいですが、僕はそんなに自分に自信があるほうではないんです。それに自信を持って「どやっ!」と出す料理よりも、お店の方針やお客様の求めに応じて試行錯誤しながら作る料理の方が面白いと感じます。特にこのお店はオープンしたばかりです。これからもいろいろ悩むことがあると思いますが、お客様にとっての美味しさのストライクゾーンを狙っていけるよう頑張りたいと思います。

近年大きな広がりを見せる創作肉料理の世界。日本中で数多の店舗がその新境地に挑んでいるのだろうが、特に武輪さんのような経験と優れた技量を持った料理人を擁する「きっしゃん 松 永楽町店」が今後どのような展開を見せてくれるのか楽しみでならない。

撮影モデル「三枝雄子」プロフィール
1969年生まれ、兵庫県出身。MC企画所属の女優。
「お父さんは森に隠れる」(NHK)、「まんぷく」(NHK ※方言指導も)「水戸黄門」(TBS)、「ドラマ30「いのちの現場から4・5」(MBS)など出演作多数。ラジオDJ、MCとしても活躍する。

「きっしゃん 松 永楽町店」店舗詳細

所在地:大阪市北区曽根崎新地1-7-19 えすぱす北新地21 1階
電話番号:06-4797-8129
営業時間:17時~23時(ラストオーダー:フード22時、ドリンク22時30分)
定休日:日曜日

中将タカノリ

■シンガーソングライター、音楽・芸能評論家 ■奈良県奈良市出身 ■1984年3月8日生まれ ■関西学院大学文学部日本文学科中退 2005年、加賀テツヤ(ザ・リンド&リンダース)の薦めで芸能活動をスタート。 歌謡曲をフィーチャーした音楽性が注目され数々の楽曲提供、音楽プロデュースを手がける。代表曲に「雨にうたれて」、「女ごころ」(小林真に提供)など。 2012年からは音楽評論家としても活動。さまざまなメディアを通じて音楽、芸能について紹介、解説している。

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