「変わることを恐れない」「進化って成長」 声優・新田恵海さんが語る恐竜の魅力

  by ときたたかし  Tags :  

オランダの児童文学「ぼくとテスの秘密の七日間」を原作に、ひと夏の冒険を経て、人生の宝石を見つけたサムとテスの姿を描く映画『恐竜が教えてくれたこと』が公開中です。美しい海とその風景をバックに展開する“秘密の計画”は、子どもたちだけでなく、多くの大人たちのかけがえのない思い出や記憶を呼び、生きていくことの豊かさを心に刻みます。その感動作を、大の恐竜マニアとして知られる声優の新田恵海さんが鑑賞。作品に恐竜こそ登場しないものの、“教えてくれたこと”はあったそうで……。

●この作品は恐竜こそ登場しないですが、恐竜マニアから観ていかがでしたか?

童心に戻って観てしまいました。素直に成長やセリフを受け入られるような気がして、子どもって、自分もそうでしたが、子どもだけれど子どもだから全部が全部わからないってことでもないですよね。子どもだからこそ思っていることがあり、大人が思っている以上にいろいろなことを考えていて、感じやすい時期。わたし自身も改めて考える機会になり、とてもよい出会い、人間ドラマだったなあと思っています。

●主人公だけでなく、彼を取り巻く人々のキャラクターも豊かですよね。

主人公のサムに共感する方もいれば、テスに共感する人もいますよね。それがヒューゴなのかおじいさんなのか、お父さんお母さんという方もいると思うんです。それはそれでいいわけですよね。今の時期に出会った映画だから今だけという、そういう映画ではないなって思いました。

●子ども目線も、新鮮な視点でした。

何がどうっていうところまでは詳しく説明できないのですが、そういう気持ちになるっていうことは、そういう作り方の映画だったなと思います。大人の方たちが、すごく大人に見えるんですよね。どちらかというと、お父さんお母さんのほうに自分の年齢が近いし、そこに共感してもよさそうなものなのに、登場人物がすごく大人だなって思うことは、自分が子どもになっているわけですよね(笑)。

●あれ不思議ですよね。なんか気持ち悪い感覚というか(笑)

映画を観終わった後、鏡を見たら「わたし大人だった!」みたいな(笑)。だから泥に埋まって動けなくなるシーンとか、すっごく怖かった。でも子どもの頃って、ちょっと無茶をして「これヤバいかも!」っていう瞬間があるじゃないですか。わたしにも身に覚えがあるし、あの瞬間の恐怖がすごくフラッシュバックしたりして、やっぱり子ども目線。ノートに書いたりすることも「やったやった」って思いますよね。

●恐竜に関係なく、映画はよく観られますか?

最近観た映画は流行を追っていて申し訳ないのですが、『パラサイト 半地下の家族』がよかったです。語弊がある表現かもしれませんが、わたしは面白かったです。いい悪いではなくて、面白かったなと(笑)。目が離せないというか、何を面白いと考えるかは人それぞれだと思いますが、救いがないことがこの映画の答えなのかなと思いまして。生きていくのに、こうすればいいというものがないので、それを見せつけられたような感覚ですね。自分だったらどうしよう、すごくもやもやするということについて、観終わった後まで考えてしまいました。あのシーンはどういうことだったのかとか、あれがあそこにつながっていたのかとか、いろいろと考えてしまったので、そうやって感情をかき乱されてしまったということは、面白かったということですよね。

●この『恐竜が教えてくれたこと』も、いろいろと考える映画でしたね。

そうですね。ただ、『パラサイト』と違う点は、かき乱されるということとはまた違って、最後に「ああ、いいものをもらったな」という気持ちになることだと思います。すごく純粋な気持ちになりましたね。それはサム目線で物語を追っているからなのか、サムの目線で描かれているなと思うことが多かったので、わたしは大人だけれど自然と少年の気持ちで観ることができたような気がします。

●タイトルにもありますが、<恐竜が教えてくれたこと>って何かありますか?

悪い意味ではなく、弱肉強食の世界ですね。強いことだけが正解じゃないなとは思いますが、やはりそこにはあらがえないものがあったりもするわけじゃないですか。柔軟に生きていくことということは、すごく恐竜からヒントを得ていたりしますね。進化が多様だからこそ自分には何ができるのかつねに模索しているとうか、体を長い時間かけて変化させていくことは、自分の気持ちひとつではできないことを意味している。仕事のジャンルにしても、新しいことのへのチャレンジも、自分の考え方や気持ちひとつで、いろいろなことを変えていけるなと思っていて、長い時間かけて恐竜が変化していけるように、変わることを恐れないというか、進化って成長だと思うので、そういうことを教えてもらった気がしています。

●すっごい学びですよね。絶滅した恐竜も本望でしょう。

隕石の衝突で恐竜がすべて滅びたわけではないそうですが、いつ終わりがくるかもわからないですよね。その時までに自分は自分らしく何ができるだろうと模索しながら、その瞬間にいい人生だったなと思いたいじゃないですか。でも、この映画の場合、このタイトル<恐竜が教えてくれたこと>って、この映画では何ですかって聞かれたら、きっとみんな答えが違うと思うんですよ。だから、いろいろな人に観てもらって、それぞれの気持ちで考えてほしいですよね。

●なかなか鋭いタイトルですよね。

そうなんですよね(笑)。恐竜が直接教えてくれるわけじゃないというか、そもそも恐竜が出てこないですからね。なんなら恐竜のフォルムも出てこないし影も形もない。でも、大切なことが最後に残るはずです。この映画のサムが恐竜に教えてもらったことについて、いろいろな人の気持ちを知りたいなと思いましたので、たくさんの方々に観てほしいです。

●今日はありがとうございました!

『恐竜が教えてくれたこと』
公開中
配給:彩プロ
(C) 2019 BIND & Willink B.V. / Ostlicht Filmproduktion GmbH

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo