「田中圭と春田は限りなく近い」『劇場版 おっさんずラブ』瑠東東一郎監督&脚本・徳尾浩司インタビュー

  by ときたたかし  Tags :  

現在『劇場版 おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』が大ヒット公開中ですが、その最大の功労者こそ、同シリーズの生みの親である瑠東東一郎監督と脚本家・徳尾浩司、そして主演の田中圭さんにほかならない。誰もを魅了してしまう田中圭さんの魅力の核心について、おふたりに話を聞く。

●主演の田中圭さんが、このシリーズで人気が爆発しましたよね。おふたりは、この現象をどうみていますか?

徳尾:田中圭さんは、ご本人もすごく無邪気で真っ直ぐで、人に愛されるキャラクターですよね。パリッとしたスタイリッシュな役柄もやられるけれど、その等身大な感じも魅力的だなと思っていました。今回で言うと「おっさんずラブ」主役の春田というキャラクターに、彼が持っている素質が入り込むことによって、観ている方々が「田中圭もこういう一面があるのかもしれない」と思ってしまうリアリティーがある。

監督:書き手の徳尾さんとの相乗効果も大きいんですが、春田は限りなく田中圭さんに近いと思っていますし、あの誰もが好きになってしまう雰囲気は彼にしか出せないと思っています。当然、表現をデフォルメすることはありますが、無理にキャラクターを作り込まず、春田という役を圭さん自身と非常に近い距離で演じてくれています。

徳尾:言いたいことを真っ直ぐに言う、泣く時は泣く、笑う時は笑うみたいなストレートな感情を出す役柄が似合っていて、そういう一面がご本人に近いとも思っています。オリジナルのキャラクターですし、それならこう演じるみたいな、本人のキャラクターの延長上でできたのかなとも思いましたね。

監督:すごく聡明な方なので、その場に応じた芝居を作り込むテクニックも当然持っている。ただ、僕自身も春田というキャラクターをご本人の持つ魅力が、そのままあふれ出てしまうように作りたかった。春田のピュアさや、真っ直ぐさ、ふりまわされて戸惑う可愛らしさなど魅力のすべては、田中圭さんが持っている魅力と完全にリンクしている。なるべくそこを切り取りたいと思っていました。

●すごく生々しいというか、田中さんの魅力が存分に出ていますよね。

徳尾:バラエティーなどでいろいろな田中圭さんを目にした時に、ご本人が魅力的だから役柄も魅力的になったと思うし、それがお互いにいい影響を与えたのかなと個人的には思っています。

監督:当然ながら作品ありきではあるんですが、「おっさんずラブ」のよかったところは、演じ手の魅力を徹底的に描くことが、作品自体の魅力につながると制作陣も圭さんも信じてやり切ったことだと思うんです。どうしても作品づくりでは俳優部を役柄にハメていく作業ってあると思うんです。動きも含めて。でもそれでは解放し切れない部分がある。ハズれないように、でも狭めないように彼の魅力を理解して信じて、いかに仕掛けていくかが、この作品の肝になっていました。制作陣がしっかりとした土俵を用意し、圭さんをいかに爆発させるか意識していました。

●かわいくて、何度も観たくなるようなキャラクターです(笑)。

監督:そうなんです。魅力的で、本当に人間らしい!

徳尾:作品によりますが、「おっさんずラブ」に関しては、どこからが役柄で、どこからが本人なのかわからないことが僕はいいと思っています。境目があいまいなくらい、そこにいそう、そこにありそうというものは、僕と瑠東監督が目指すものでもありますね。

監督:それは徳尾さんとはいつも意識しています。心情的なものであっても笑いであっても、その境目の曖昧なリアリティーに人の心は動くと思うんです。

●役作りをガチガチにする方もいますよね?

監督:そもそも芝居ってウソじゃないですか。極端なことを言うと、殺人者の役柄を演じるとして、それは往々にして自分の経験からでは補えないですよね。それを何かの映画で観たような殺人者の感じで演じても、そこにリアリティーはないと思うんです。それは誰かのマネだから。そもそも殺す理由も熱量も人それぞれまったく違う。ちょっとやばい感じの話になってますけど(笑)。

徳尾:殺す熱量(笑)。

監督:つまり、状況を想像するにしても経験から引っ張るにしろ、その人
本人の延長というか、その人自身の心が動いたり、その人自身の柔らかい部分をさらけ出さないと、リアリティーにならないと思うんです。それはコメディーをやると顕著に出る気がしてて。つまり自分自身を切り出さずに表面的にやってもなかなか笑いは起きにくい。

●よくある劇中の漫才が面白くないのと意味は一緒ですよね。

監督:笑いの部分は表層的に演じてもダメで、本人の身体と心をもって、
きちんと笑わせられるところまで持っていかないといけない。狙って持って行くと本質的な笑いにならないというか。その人自身が滲み出てこそなんですよね。それがズレた時に笑いになるし、真っ直ぐに届けば感動的になる。

徳尾:型にはまったキャラクターを作りたくない思いは、僕も同じなんです。学級委員長の女の子が牛乳瓶の底のようなメガネをかけて、「(クイッ)わかりました」みたいなことは、僕らは絶対にやりたくない。

●テレビ局のカーディガンをはおっているプロデューサーみたいな。

徳尾:キャラクターがあったほうが楽という役者さんもいるんですけど、それって与えれば誰だってできちゃうから、そうじゃないんですよね。分かりやすい記号がないなら、自分の中で必死に考えるしかない。だから圭さんも自分の中で探して、自分の魅力と向き合って演じてくださった。だから「おっさんずラブ」の春田は、多くの人の心に残っているのかもしれません。

●それにしてもここまでの大ヒットは、予測していましたか?

監督:いえ、まったくです(笑)。

徳尾:予測していないです。だから、あまり浮かれ要素がないんです。でもSNSなどで「面白かった!」と話題にしてもらっていると、すごく感謝します。ただ、やっぱり実感はあまりありません。

監督:実感はないですよね。むしろ映画のイベントや舞台あいさつで皆さんと直接顔を合わせることで改めて実感しました。これだけの方たちが「おっさんずラブ」を愛してくれてたんだなぁと。本当に育ててもらった作品なんで。

徳尾:流行語大賞で10位以内に作品名が入った時に、「あっ、そうなの
? うれしい!」みたいな感じにはなりました。

監督:僕らが作って終わりではなく、観てくれる人たちによって、手の届かないところへ巣立って行くのが不思議な感覚でした。場合によっては作り手以上に考えてくれていたり、その人のものになっていく実感がありますよ。あれ? 違います?

徳尾:いや、自分の、育たなかった作品のことを考えていました(笑)。

監督:あはは。それはあるでしょうね。やめなさい(笑)。

大ヒット上映中!

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo