日本の夏の味覚といえばハモ。
丁寧に骨切りされてホロっとなった舌ざわりは他に比べるものがなく、淡白であるにもかかわらず深みのある味わいと併せて食材の最高峰とされている。産地は数多いが、中でも“瀬戸内産のハモが一番”という意識は多くの人が持っているものではないだろうか。しかし意外なことに、当の料理人の世界では韓国産のハモが珍重されているらしい。そのあたりの事情を専門家にたずねてみることにした。
奈良県生駒市の割烹『旬菜や』のご主人、森本強さんは断言する。
「僕は京都の料亭での修行時代もふくめて10000本以上のハモをさばいてきましたが、美味しさに関しては韓国産のハモが一番だと実感しているんです。韓国産のハモは国産にくらべて骨や皮がやわらかく、身に脂ものっていてビタミンAも豊富です。また、捕獲されてからの流通にも大きな違いがあるんです。
韓国では500g前後の最高級のハモは、捕獲されてすぐにプサン港などから関西国産空港へ輸出されるんですが、国内では捕獲されてから蓄養(養殖)したり流通時間のロスがあったりしてまちまち。評価が価格に影響するのか、仕入れ価格は2倍ほども違います。」
実際に国産のハモ、韓国産のハモを霜降り焼にして梅肉をつけて食べくらべさせていただいた。
※画像左が国産、右が韓国産。
国産のハモも十分に上品なうまみがあり舌ざわりもここちよかったが、韓国産はそれにくらべてはるかに豊潤、高貴な味わいととろけるような食感があった。冷酒とあわせると五臓六腑と舌先が幸福感でつながったかのような心地にさせられる。
一般に知られることこそ少なかったが、そもそも韓国からのハモ輸出は日本統治下の1910年代からはじまったそうだ。“夏の味覚といえばハモ”という意識自体、韓国産ハモの存在なしでは今ほどでありえなかったかもしれない。政治の面では難しい点の多かった両国の近代史だが、より人間的な味覚の面でむすびついていたとすれば嬉しい話ではないか。みなさんもこの夏、ハモを食べる機会にはその産地に気を配ってハモのつなぐ歴史ロマンに思いを馳せてみてはいかがだろうか。
※ハモの画像は上が国産、下が韓国産。表情や針の形の違いにも違いがみられる。