犯罪者インタビュー:「高齢者の金をパクる悪徳介護職員」に話を聞いてみた

  by 丸野裕行  Tags :  

どうも特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。

超高齢化社会が進む日本には、全国に介護職に従事している人口が180万人程度と言われています。しかしその平均年収は35歳で約300万円弱と低賃金。高齢者の生活を見守る介護職員の数は、まったく足りていないといいます。

給料が安いうえに慢性的な人手不足にある介護の現場にも、悪事に手を染める人間がいるのは容易に想像ができることでしょう。豊かな経済活動を見込めないという彼らの中には、ワル知恵を働かせる輩もいるようで……。

今回取材したのは、施設介護職員のF氏(35歳)。彼は、介護施設内で給料とは違う稼ぎを手にしていると言います。それはどのような手口なのでしょうか? 今、介護の現場で起こっている不正利得の実態を今日は話してもらいます。

将来のためにFX投資をスタート

丸野(以下、丸)「いつぐらいからこのお仕事をはじめられたのですか?」

F氏「14年前ですね。福祉系の専門学校を卒業して、介護福祉士と医療事務の資格を取得していたので、特別養護老人施設『いのちの里』(※仮名)へ就職しました。多少給料が安くても将来の安定を求めたわけです。人手不足の施設では、多くの資格を持つ21才の僕を大歓迎してくれました」

「何人くらいの高齢者が入所されているんですか?」

F氏「入所者は52名、その他デイサービスで30名ほどの老人たちを受け入れています。当初は、給料が安くても毎日の食事介助や入浴介助、洗濯、四季を通じたレクレーション(花見、納涼大会、紅葉狩り)で高齢者たちとふれあって感動を味わえ、仕事にヤリガイを感じていたのですが、やっぱり給料が安すぎますね。初任給13~15万円では何もできません。薄給のうえに、ワガママな入所者や入所者の家族に現場職員のうっ憤も溜まってきますよ」

「やはりそういうものですか?」

F氏“うるしゃいぃぃ~! 今日はご飯は食べたくないぃぃ~!”って言われて、“いい加減にしろぉよぉ~、ババアァ!! 殺っすぞ!!”って、普段は温厚だったヘルパーさんがいきなりキレて退職するケースもイヤというほどありますよ」

「なるほど」

F氏「でも介護の仕事は好きだったので金銭的な余裕を持つために、少ない蓄えでFX(外国為替保証金取引)をはじめました。これが、“地獄の入り口”でした」

投資で惨敗

「それで、どうでした?」

F氏「当初は、ビギナーズラックで儲けが出たんですが、ポジション(取引口座)を失うほど負け込みました。気がついたときには、貯金を失い、消費者金融2社から200万の金を借りていました。仕事にも身が入らず、まさに生ける屍です。借金のことしか考えられない思考回路に飛び込んできたのは、蓄えがあると自負する目の前の老婆でした」

マズいですね

F氏「三上トミ子(80才・仮名)さんは若いころから手広く商売をしていたらしく、裕福だと評判の要介護者でした。親族も信用できず、面会者もいない。僕は緊張しながら彼女に近づいていきました。他愛もない会話で、彼女が保有している金品や資産を聞きだそうと思ったわけです。土地は昔から世話になってる弁護士で、預金は自分で管理しているそうです。高齢者はどんな会話でも話しかけられるとうれしくなり、何でもしゃべります。ということは、彼女が毎日を過ごしている居室に預金通帳はあるということです」

「それで……」

F氏「当直の機会を狙って、深夜のうちに介護職員室に置かれたスペアキーを使い、寝静まった三上さんの部屋へ潜り込みました。彼女が肌身離さず持っていたカードと通帳をみつけ、中を確認すると、預金額が2,000万円。他にも通帳があるようでした。カードの裏面には忘れたときのことを考えて、マジックで4桁の暗証番号まで記してあります。昼から夕食の時間まで談話室で過ごす三上さん。僕は大きな罪悪感を押し殺し、遂に決行しました。記入にもひとりではいけない彼女の目を欺くため、通帳記入などはせず、近くのコンビニから毎回10万円ずつ計200万円の金を引き出し借金の返済に充てました。自分がやったことに後味の悪さを感じながら、やってしまったわけです」

ついにやってしまったわけですか……

F氏「数ヶ月間施設で過ごしたがまったくバレることはありませんでした。そんな折、施設内で突然のご指名がかかります。医療事務の資格を持つ僕は、定年退職する事務員の代わりに、提携する病院や介護用品の業者との折衝係りに任命されました。施設と病院は提携を結び、入居者をすすんで来院させる介護職員には口添え料の意味も含めてのリベートが渡されるということを先輩から聞きました。“おまえは提携先病院からの謝礼を受け取れる立場になったんだ”と……」

「責任者として、どの病院を提携先にしてもいいということですか」

F氏“今度からお宅の病院に当施設の入居者を通院させます”というだけで、僕のポケットには、5~10万の金が入ってくるようになったわけです。患者が増えればレセプト(※保険者に請求する際の医療報酬の明細書)を適当に書くだけで病院も潤いますから……。介護ビジネスの現場で金を生むのはチョロいと思いました。それから僕は堰を切ったように介護職員ならでは不正行為に走りました

入所順番を早めたければ謝礼をよこせ

F氏「事務の仕事を進めると不正の手法がかなり理解できるようになってきました。例えば、【オムツなどの日用品を入れる業者を指定してリベートをもらう】【入所者の家族から備品の購入や食事負担費などを水増し請求して差額を着服する】【入所者にどんどん酒を飲ませ、病院と組んで“慢性アルコール中毒”との診断を下し、架空入院させて、リベートをもらう】【慰問歯科医と組み、不必要な義歯を入所者に購入させる】などがあります」

「そんな方法まであるんですか」

F氏「一番手がかからない手口が【入所順番の操作】です。共働き夫婦などが抱えてしまった親の介護の問題。金がかかっても施設に入所させたいが、入所者の順番待ちは数十番待ちというのがザラです。そこで僕の出番です。順番待ちを割り込む術があることを匂わせると、だいたいの家族が謝礼を用意してくれます。金額は平均10万弱多いときで30万円ほどを封筒に忍ばせてきます」

「そんなに?」

F氏「事務作業に関わった頃から1年半の間に200万円程度の不正利得を得ました。この頃になると、介護職万々歳という感じでしたね」

遺言状を書かせ、遺産相続する

F氏「それでも僕の欲望は止まりませんでした。次に頭に浮かんだのは、身寄りのない元商店主の入居者である河合ミチ(83才・仮名)さん。旦那に先立たれてから、ずっと独りです。それに認知症の初期症状も見受けられました。なんとか遺産相続できないだろうか……。僕は仕事そっちのけで、次の日から河合さんに憑りつきました。積極的に食事介助や散歩に連れ出し、誕生日にはプレゼントまで……。“僕のこと息子と思ってください”と涙を誘って、家族としての絆を深めることに集中しました」

「それ、ヒドいですよ」

F氏「そしてそれから半年後、情に流された河合さんは遺言状を書いてくれました。土地建物含めた総資産……9,000万の遺言状を達筆でしたためてくれました。まぁ、まだ未だに河合さんは死を迎えていないんですがね。ホームの窓際で庭を眺め、まるで息子でも呼ぶように僕にむかって声をかけてきます。まぁそのうち死んじゃいますから、気長に待ちますよ

いかがでしたか?
老いの弱みにつけ込んだ悪行の数々を語ってもらいましたが、最後にニヤリと笑った顔は非常に恐ろしかったです。
しかし、恐らく彼のような人間を頼ることになると思います。これを読んだあなたも、年老いたときには……。

(C)写真AC
       

丸野裕行

丸野裕行(まるのひろゆき) 1976年京都生まれ。 小説家、脚本家、フリーライター、映画プロデューサー、株式会社オトコノアジト代表取締役。 作家として様々な書籍や雑誌に寄稿。発禁処分の著書『木屋町DARUMA』を遠藤憲一主演で映画化。 『アサヒ芸能』『実話ナックルズ』や『AsageiPlus』『日刊SPA』その他有名週刊誌、Web媒体で執筆。 『丸野裕行の裏ネタJournal』の公式ポータルサイト編集長。 文化人タレントとして、BSスカパー『ダラケseason14』、TBS『サンジャポ』、テレビ朝日『EXD44』『ワイドスクランブル』、テレビ東京『じっくり聞いタロウ』、AbemaTV『スピードワゴンのThe Night』、東京MX『5時に夢中!』などのテレビなどで活動。地元京都のコラム掲載誌『京都夜本』配布中! 執筆・テレビ出演・お仕事のご依頼は、丸野裕行公式サイト『裏ネタJournal』から↓ ↓ ↓

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