実在の政治家を演じたヒュー・ジャックマン「専門家の話では無く、100万フォロワーのブロガーを信じる時代だよね」

『グレイテスト・ショーマン』の熱狂も記憶に新しいヒュー・ジャックマンが、スキャンダルにより失脚した実在の政治家ゲイリー・ハートを演じた『フロントランナー』が2月1日より公開中。

『フロントランナー』ストーリー
史上最年少の46歳で民主党の大統領候補になった若きカリスマ政治家ゲイリー・ハート。ジョン・F・ケネディの再来と言われた彼は1988年の大統領選予備選で最有力候補《フロントランナー》に一気に躍り出る。しかし、たった3週間後、マイアミ・ヘラルド紙の記者が掴んだ“ある疑惑”が一斉に報じられ、急展開を迎える……。勝利を目前に一瞬にして崩れ去る輝ける未来。その時、ハートは? 家族は? 選挙スタッフは? スクープを求めるジャーナリストは? そして、国民はどんな決断をしたのか?

先日、映画のインタビューの為に来日したヒュー本人にインタビューを敢行。映画について、ゲイリー・ハートという人物自身について、色々聞いてみた!

●ゲイリー・ハートの資料を数多く読まれたそうですが、この映画に活かされていないものも含めて、驚いたことはありますか?

政治的な意味でもプライベートな意味でも、彼の人生にまず驚いたよね。実はゲイリー・ハートのことはあまり知らなくてね。とはいえモンキー・ビジネスやドナ・ライスという名前は知っていたけれど、ゲイリー・ハートのあの事件は、どこかジョークみたいに語られていたからね。でも、知れば知るほど、彼はアメリカの大統領になれなかった偉大な男と言われているけれども、僕には追い出されたような気がする。

その一方で、彼は自分の意思で退いている。そして、三週間の間でいろいろなことが起きている。彼は圧倒的な人気も誇っていた。政治家ってもちろん権力がほしい人たちだと思っているけれど、こういうスキャンダルがあったとしても、彼はおそらく勝利していたと思う。でもどうして彼は自分で辞退したのか、すごく興味深かった。先見の明も持っていた人だったからね。

●記者会見のシーンでは当日セリフを渡されて、なんの質問が飛び出すかもわからないまま撮影していたそうですが、サプライズ演出はほかにも?

たくさんあったよ! リアルを目指したいということで、記者会見のシーンでは関係ない人が入ってきて耳元でささやくので、それに対応しなくてはいけないということもあったよ。急にコーヒーを持ってきてくれたり、サプライズばっかりだったよ(笑)。

●(リアルガチですね!)

その記者会見のシーンでは、ジェイソン・ライトマン監督はエアコンをわざと切ってしまった。だからみんな汗だくでね。たくさんのカメラがあるけれど撮っているカメラを気にしないでとか、誰かが電話で話したりコーヒーを飲んだり、別室から誰が来るかもわからない、そういう状況を作っていたよ。

●ところで最近、二面性があるキャラクターを多く演じていると思いますが、それはどうしてですか?

ほかの人は知らないけれど、僕は退屈な男でね!(笑)。だから、僕と同じ人は演じたくないわけだ。自分が常に演じているからね。僕はいままで聞いたことがないようなストーリーに惹かれるし、今回の作品も非常に重要なことを示している作品だと思う。そして、挑戦することに恐怖を感じたい。できるかどうかわからないというような恐怖をね。もう50歳なので怖いことはなくなっているけれど、毎日ちょっと怖いことに挑戦しようという言葉は聞いたことがあると思う。普通は会社に行って何が起こるかがわかるところ、僕はラッキーなことに、いろいろなチャレンジができる仕事に就いている。

●ちなみに、どういう時に幸せを感じますか?

家族といる時だよ。今回は娘と一緒に来たけれど、7歳で来日して以来なのでとても時間が経っていて、いろいろと学ぶことがあるそうだ。世界で一番好きな国が日本だと言う。今度ワンマンショーでワールドツアーをする予定だけれど、歌って踊ってね、そういう時が一番幸せかな。

●政治家と俳優は似ていると思いますが、オンとオフの境界線は設けていますか?

僕はそれほど気にしてはいないけれど、俳優にはパパラッチなどをすごく嫌がる人もいるよ。人気というものは、フェラーリのようなものでね。正直に言うと、かなり交通渋滞にも巻き込まれ、ガソリン代もかかり、洗車も保険も必要だ。それでも、その鍵がほしくなるものだ。でも政治家の場合、鍵をもらってフェラーリを運転したら、交通渋滞どころじゃないよ。二度と走れないようにしてやるみたいな人たちが、あらゆる方向から大勢やってくる。僕は、その鍵は受け取りたくないね!

●政治家にはならないのですね。

そうだね(笑)。でも、けっこう聞かれる。いま政治の世界で一番重要なことはマーケティングを理解して、自分のブランディングを確立することが大事だよ。SNSとかね。自分の政策や思想よりも大事なことだ。俳優にとってもイメージ作りは大事でね。でも人気がある、有名だからは、政治家になる理由にはならないよ。税金の問題、世界情勢、そういうことについて僕は詳しくはないのでね。たとえば1960年代、ケーリー・グラントに政治家になるか、大統領になるかって絶対聞かなかったと思う。レーガンの後だよ。知名度があって100万人のフォロワーがいたら、もしかしたら当選するかもしれないよね。

ゲイリー・ハートはものすごい知識人で、自分以上にオーストラリアの政治について詳しい。すべての分野に詳しいが、いまは誰も耳を傾けない。100万のフォロワーがいるブロガーには耳を傾ける世の中だけれど。

●最後にうかがいますが、大学時代にジャーナリズムを専攻していたということで、当時の自分にかける言葉はありますか?

ジャーナリズムは、それほど頑張らなくていいよ、だね(笑)。僕の先生や周囲の学生ほど、ジャーナリズムに関しては情熱が持てなかったよ。アマチュアの演劇をちょうどやっていたころだけれど、90パーセント以上の時間を費やしていた。ドラマスクールに移って以後は、1回も休みはなかった。演劇はさまざまなストーリーを語りながら世の中を見ていて、ジャーナリズムは真実をあらわにすることで世界を知る。だから究極的には、両方とも世の中を知るということになるよね。

僕は人に興味があったし、今回のような役柄を演じることになれば、ものすごくリサーチすることにもなる。演じるためにすごく知ろうとするので、こっちのほうが自分に合っていたと思う。ただ、ジャーナリストたちは、すごくリスペクトしている。難しい職業だし、大変だと思う。一番大きな声で言う人を称賛するような側面もなくはないし、僕には無理な仕事かな。本当は聞きたくない質問もしなくちゃいけなさそうで、編集者に絶対聞いてこいと言われてね。だからほかの俳優よりは、みなさんに同情的だと思うよ(笑)。

『フロントランナー』公式サイト
http://www.frontrunner-movie.jp/

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo