ホメオパシーが日本で広く知られるようになったのは、2009年に山口県で起きた乳児がビタミンK欠乏症で死亡した事件が契機でした。ホメオパシーは19世紀にドイツで考案された代替医療の一種で『レメディ』と呼ばれる自然界の毒素を希釈した水を浸透させた砂糖のかたまりを使用します。山口の事件では助産師がホメオパシーの効用を信じて乳児にビタミンKを投与せずレメディを投与したことが死亡原因とされ、2010年には日本学術会議が「治療としての有効性がないことは科学的に証明されている」として医療現場から排除されるべき疑似科学の一種である、とする会長声明を公表するに至っています。
日本でも2000年代から複数の普及団体が立ち上がり一時は芸能界にも広がりを見せていたホメオパシーですが、日本学術会議の会長声明が発表されたことを契機に活動が下火となっていました。最近ではなんとホメオパシー関係団体のメンバーが犬の飼い主に対し、狂犬病の予防接種を拒否してレメディを投与するよう薦める動きが出ているというのです。例えば、ロイヤル・アカデミー・オブ・ホメオパシー( http://www.rah-uk.com/ [リンク])の掲示板では飼い犬にレメディを投与しているという女性に対して、管理者名義で次のような返答がなされています。
犬は、ワクチンも薬もない時代から生き続けてきたのですから、
健康な個体なら、本来は人工的なものは不要なはずです。
ただ、動物の住む環境も変わっているので、自然のままというのが、なかなか難しい面もあります。
早くからホメオパシーが動物に使われていたイギリスやアメリカでは、ホメオパシーで伝染病に負けないように自己治癒力を上げるような対処をしてきた獣医師もいます。
そうして育った動物は、アレルギーなどになることも少なく性格も安定していると言う人もいます。
ただ、ホメオパシーは自己治癒力を触発して病気にかからないようにするものです。ホメオパシーをつかえば100%その病気にかからないというものではありません。またそれは、ワクチンでも言えることで、接種していても、その伝染病にかかることもあります。(以下略)(ソース:http://www.rah-uk.com/case/wforum.cgi?no=3595&reno=no&oya=3595&mode=msgview&list=new [リンク])
この掲示板でのやり取りがTwitter上で紹介され、議論となりました。
しかし、もとの体験談ページの『犬は、ワクチンも薬もない時代を』生き続けてきた時には、もっと立派な体格で、自分の獲物くらい自分で獲ってるよ。その時代にはパルボウイルスだって今みたいな強毒型でもなかっただろうよ。(@Hornet_Bさん発言。ソース:https://twitter.com/Hornet_B/status/228460856785113088 [リンク])
新潟など外国船が入る港があるところでは、海外から狂犬病などの病気が入って来ることも考えられなくもないので、その注射だけはきちんと済ませるよう獣医さんに言われています。(@nekoyamamiyaoさん発言。ソース:https://twitter.com/Hornet_B/status/228461181973716992 [リンク])
※議論の詳細はまとめ( http://togetter.com/li/345685 )を参照してください。
日本では1950年に狂犬病予防法が制定され、飼い犬に狂犬病の予防接種を投与することが犬の飼い主に義務付けられました。狂犬病は感染した犬やその他の動物に噛まれることで人間にも感染し、発症した場合の治療法は確立されておらず致死率はほぼ100%とされています。1956年を最後に日本では人間も犬も発症例は確認されていませんが(海外で感染した3例を除く)、流行地域から日本へ持ち込まれた犬やハムスターなどを経由して感染するおそれは常に存在しています。
正当な理由無く予防接種を行わなかった場合は狂犬病予防法や家畜伝染病予防法に基づき飼い主に20万円以下の罰金が命じられ、ペットは例外無く殺処分されます。犬は自由に飼い主を選べるわけではありません。飼い主の不安に付け込んで薦められたホメオパシーが原因で犬も飼い主も不幸になったということが無いよう、飼い犬には予防接種を必ず受けさせるようにしましょう。
画像:Togetterまとめ「狂犬病とホメオパシー」(作成者: @skepticmania さん)
http://togetter.com/li/345685