怪しいネットワークビジネスを追え! ~12 最終回

  by mexicona  Tags :  

 

この連載で取り上げてきた「ねずみ講になる疑いの強い」ネットワークビジネス組織のNtBカレッジ(仮称)の最後は、どのようなものだったのでしょうか?その約二年半に及ぶ活動の最後のあがきの部分に注目して追いかけてみましょう。
 
 
■セミナーの開催に失敗
 
 マルチ商法では、「ラリー」と呼ばれる大規模な決起集会を繰り返し行う事が珍しくありません。多くの参加者を集めることで高揚感を演出し、マインドコントロールの再構築を行うわけです。NtBカレッジでも新規事業説明会やセミナーと言った形で動員が繰り返し行われてきた経緯があります。
 新たに30万円の「アルティメット」の販売というコンテンツを立ち上げ、「新生」を謳ったNtBカレッジもコンテンツの立ち上げにあわせて決起セミナーを企画していたのですが、突如それを取りやめます。予想以上に参加者数が見込めなかったのか、既にサクラを動員する体力も残っていなかったのかもしれません。

 もちろん違法性を別にしたとしても、そもそもの問題として「アルティメット」自体が、まともに売れるような代物では無かったという点も指摘出来るでしょう。
 決起集会を取りやめたNtBカレッジは、当初Top3%の会員しか参加できないとしてプレミア感を煽っていたアルティメットを、限定版アルティメットとして「月50人限定」として、セミナーなどで一般の人への勧誘販売をおこなおうとします。
 この「限定」という所も本当かどうかも判りませんが、ここで少し数字の方面から考えてみましょう。名目上この「アルティメット」という商品は50人にしか売れないことになっています。会員に対して「稼ぐ事を教える」を目的としているNtBカレッジですが、このコンテンツ販売事業で、利益を得られる会員と言うのは月に最大50人しかいないと言うことです。この程度の規模にしかならない物を「ネットビジネスで稼ぐ」コンテンツの柱として出してきたことは、既にビジネスモデルが崩壊している事を物語っています。
 
一時は会員数5000人という規模を謳っていたNtBカレッジですが、この時点でかなりの会員数を減らしており今までの手法では新規獲得もままならない状態だった様子です。少なくとも経営が順調な状態ではないことが推察できるでしょう。
 
 
■さらに怪しい情報商材の販売へ
 
 当初NtBカレッジは公式サイトで活発にセミナー開催の情報を発信していたのですが、2016年の10月のリニューアルの後は、掲載するセミナー数も少なくなり、半ば放置されているような状態でした。リニューアル時点では、無在庫転売などを提供するコンテンツとして掲載していたのですが、ついに最後まで「ユーザー会員」や「ビジネス会員」と言った話や、NBFA、限定版アルティメット等の説明は表に出ることはありませんでした。

 2017年に入ると公式サイトにあった問い合わせフォームも無くなり、掲載されているのがS氏のWebセミナー動画へのリンクが一つだけでという状態になってしまいます。勧誘のためのセミナー情報も掲載されなくなった事は、セミナーと絡めて動いていた新規勧誘方法を諦めていたようにも見受けられます。
 
 その一方で、2017年5月に改定された概要書面を見ると、提供するサービスの内容が随分と過疎化されて『NtBカレッジ会員サイト』の使用権と、『マーケティングコンテンツ』と『ビジネスコンテンツ』のサービス利用権の三つだけになり、『入会金』を税込み4万9800円に値下げしています。当時のNtBカレッジは、NBFAをはじめコンテンツが頓挫していますから、もはや新規会員獲得の為には価格を下げるしか手が無かったのかもしれません。

 この後7月に入るとNtBカレッジは、突如再び、東京、大阪、福岡、名古屋といった全国各地でセミナーを開く動きを見せます。そこで打ち出されたのが「ネットビジネス×投資」というものです。NtBカレッジが各地で会場を用意し、そこを「アトリエ」と称して人を集めて投資セミナーを行うというものでした。その「アトリエ」教えられていた投資というのは「バイナリーオプション」です。のちにNtBカレッジから名称変更する組織の代表となるY根やK野氏らのグループが主導する形で、ある海外FX業者を使い、口座開設の方法から取引のやり方などを教えていたようです。
 このバイナリーオプションというのはFX投資の一つで、相場が「上昇する」か「下落する」のかを予測して投資を行うもので、国民生活センターでは「一見すると簡単な取引に見えますが、リスクの高い取引である」という説明があり、国内無登録FX業者との取引でトラブルが多発している現状から、注意喚起が行われています。
 NtBカレッジが「アトリエ」で紹介していた海外業者も国内無登録で金融庁が名指して警告を出している業者でした。どうしてこの業者を紹介していたのかというと、実はこの業者は高額な紹介手数料を設定している所として知られてお乗り、勧誘して口座開設までおこなわせると1人当り最大で4万円もの紹介手数料が支払われる仕組みがありました。
 つまりこの投資セミナーでは、呼び込んだ顧客がバイナリーオプションで勝とうが負けようが関係がなく、紹介報酬の高い怪しい無登録の海外業者の口座を開設させる事で高額な紹介手数料報酬を獲得するのを目的としていたのではないかという疑惑があります。
 
 ただ、この手数料ビジネスはS氏が得意としている『情報商材』、『セミナー商法』とは毛色が違うように思えます。実際に登記簿を確認すると、9月には創業者であったS氏が役員から離れますので、組織を少しでも高値で別グループに売却する為に、駆け込みで動員をかけた様に見えます。 
 その一方でS氏は8月に『ファイナル』(仮称)という情報商材の販売を開始します。販売方法としては、ネットワークビジネス組織を使ったものではなく、これまでS氏が情報商材の販売で繰り返してきた手法で、派手な宣伝文句と、高額な成果報酬を設定したアフィリエイトを主体に行っていたようです。
 基本的にNtBカレッジのネットワークビジネス組織から離れた事業展開だったようですが、販売元を調べるとNtBカレッジという記載がありました。ただ、この辺りの記載も、いい加減な可能性があるので関係を断定するのには慎重になるべきかも知れません。

 この『ファイナル』という情報商材において、S氏は1万人限定で「参加者全員に毎月必ず20万円を現金で分配する」というのを全面に押し出していました。広告から飛ばされるランディングページでは、「何もしなくてもよく、無料でただ20万円受け取るだけ」といった内容が書かれています。もちろん、そんなムシの良い話はあり得ません。この商品の実態は高額なマーケティングツールの販売で、購入者した人の話によると、当然20万円の支払いも無く国民生活センターに相談を行ったというケースも聞いています。その中には、なんとか発売元の株式会社A社に連絡を取れたものの、開き直られて「お金を配るなんて話を信用しないで下さい!」という調子で逆ギレされたという話です。
 その後S氏は、この情報商材を発展させる形で『ファイナル PT』(仮称)というアフィリエイト系の情報商材の販売を続けているようです。
 
 
 ■NtBカレッジのビジネスの変遷

 これまでのNtBカレッジのビジネスを順に追ってみると、当初ヤフオクの「無在庫転売」という不正なビジネスモデルは数ヶ月というごく短期間で崩壊し、その後「キュレーションサイト」や、「性格診断」、「アフィリエイト」など次々に新しいコンテンツを立ち上げるのですがどれも上手くいかなかった様子が見えてきます。
 そしてスタートから二年後には、会員に対して「アルティメット」という高額商品を売りつけて最後に会員からお金を搾り取ろうとして、そこから半年ほどで崩壊していった形のように見えます。
 
 こうした行き当たりばったりのビジネスモデルでも、この約二年半ほどの間に、NtBカレッジはマインドコントロールの手法を用いて、数千人の会員から推定で二十億円以上集め、ピラミッド状の組織の中で分配していたという点は驚くべき事でしょう。結局はネットワークビジネスとしてはNtBカレッジは成功する事無く、代表のS氏は元の怪しげな情報商材販売者に戻ったと言えるのですが、その間にもごく一部の手厚い配当分配を受けた上位の会員がいた事は見逃せません。もしかすると、彼らはそれを成功体験のように語り、また別の「ビジネス」に人を引きずり込もうとしているかもしれません。
 
 
■元会員のNtBカレッジの評価

 NtBカレッジ崩壊後の2017年の11月。NtBカレッジの開校当時から、おそらく最後までNtBカレッジで活動をなされていた会員の方のブログに「NtBカレッジは詐欺だったのか?」というエントリーがありました。
 この方は、自分の責任を回避する立場から「ネットビジネスをしっかりと学ばれている方からすると詐欺集団であるとは一概には言えません」という風にして、色々と書かれているのですが、その最後はこう締めくくられています。

 
最後にNtBカレッジは詐欺だったのか?というご質問にお答えをすると、断片的な意見になってしまいますが、口コミ優先でリクルート活動をされていた方からの勧誘でNtBカレッジに入られた方に取ってはネットビジネスを学ぶ環境に無かったため詐欺になったと考えます。

※元会員と思われる方のサイトより名称を差し替えの上で引用 
 
 NtBカレッジが提供していたネットビジネスというのは、様々な違反行為を前提とした反社会的な内容を含んだ、およそ価値がないものであることは、これまでに詳細に指摘してきました。その上で、この方の主張を検証してみると、その言い訳の唯一のよりどころとしている「ネットビジネス」の部分でさえ、いい加減であったわけですから、終始一貫して詐欺であったという事になってくるでしょう。
 
 ちなみにこの方は、ご自身のサイトで2015年の6月頃から、継続してNtBカレッジの様々なビジネスの優位性を訴えてこられた方です。その間にはヤフーの無在庫転売アカウント凍結の対応などがあったり、スタートしては直ぐに有耶無耶になっていく数多くのコンテンツを見てこられたはずです。NtBカレッジが提供していたネットビジネスのいい加減さを全く知らないというはずはありません。厳しい言葉で言えば、無責任な言い訳でしかないのですが、実は未だこの方ように「正しい部分もあった」「〇〇さんは、良い人だった」「有益な部分もあった」といったふうに肯定的に考えてしまっている元会員も珍しくありません。
 
 
■自己弁明のロジック

 ネットワークビジネスを信じて熱心に活動していた人の多くは、そのビジネスが破綻したり立ちゆかなくなった途端、宙に放り出される形になってしまいます。それまで信じていたものが否定される形になるので精神的なバランスを崩すという人も珍しくありません。また、自分も騙されていたとはいえ「人を騙す行為」を行っていたという事は、中々認めたくないものです。
 ですから少々無理なこじつけや論理展開をたり、「一部の悪い人の責任」「失敗したのは運が悪かっただけ」といった形で上手くいかなかった理由を作ったり、「言っている事は正しかった」「経験になった部分もあった」などといった形で、無理にでも「肯定できる所」を作り出して、自己弁明をしようとしてしまうケースも珍しくありません。
 もちろん精神状態を保つ為にそうした事が必要なのであれば、一概には否定できないものかもしれません。ネットワークビジネスの組織から離れて、徐々に一般社会の価値観に触れていくことで、大抵の場合はマインドコントロールが解けて、ごく自然に過去の間違いに気がつき精神的に消化していく事になります。
 
 しかし問題なのが個人の内面だけでは終わらないケースです。未だマインドコントロールが解けきらない中で、無理をして自己弁明を懸命に探している状態に、再度ネットワークビジネスや悪徳商法に勧誘されるというケースが非常に多くあります。
 自己弁明の一環として「自分は経験者である」というおかしな自負が芽生えている場合もあります。期待感を煽るネットワークビジネスの勧誘で「次こそは」という思いを抱いてしまうかもしれません。結果的に、より深みにはまってしまう危険性もあるのです。
 
 実際にNtBカレッジでも「アルティメット」の販売にも行き詰まっていたと思われる2017年の7月頃に、S氏は多くの元会員に対して「資産を4000倍にするセミナー」といった名目で、千代田区のイタリア文化会館で開催されるセミナーへの勧誘を行っています。
 このセミナーには思いの他、多くの人が参加したようで、そこで語られた話は先程取り上げた「アトリエ」の話でした。続いて「無料事業説明会」の日程なども発表されたそうです。実際に参加した人の話によると、後日NtBカレッジ事務局から、直接その無料説明会に勧誘する電話が何回もかかってきたそうです。もはや会員が勧誘活動をして拡大していくネットワークビジネスの基本の形も取れていない状態だったようですが、その時の会場には異様な熱気が有ったそうです。
 
 
■おわりに
 
 今回我々が取り上げたNtBカレッジは非常にいい加減で、ある意味「判りやすい」組織でしたが、世間にはもっと巧妙で危険な組織も存在しています。就職活動で苦労している時や不景気やリストラの噂などで不安を感じているタイミングで忍び寄ってくる事もあります。名前や実体を隠して近寄ってこられると、普段は「騙されない」という自信を持っている人でも、巧妙に誘導されて、あっさりと深みにはまってしまうこともあります。最初は「カルチャースクールのつもりで」という感じの軽い気持ちで参加したそうで、その後、徐々に深みにはまってしまった人もいるかもしれません。
  
 世の中には悪質なネットワークビジネスを始め様々な悪徳商法が存在しています。恐ろしい事ですが、生活を破綻させたり人間関係を壊してしまうようなものも珍しくはありません。ネットワークが発達した現代では、ターゲットへの接触方法も多彩に巧妙になってきています。悪徳商法に関して多少の知識があったとしても油断は出来ないと思います。実際、私自身にしても何かの拍子に騙される事があるかもしれません。誰しもが悪徳商法の被害者になってしまう可能性があると考え、警戒しておく必要があると言えるでしょう。
 
 最後に取材や調査に協力して頂いた方々に対して謹んで御礼申し上げます。 
 
 
 
トップ画像: 自主制作
 
 
※本稿でとりあげている『NtBカレッジ』は、既に活動を停止していると言えますが、S氏を始め、その後の引き継いだ団体は、未だに様々な懸念がある活動を続けているようです。読者の皆様には賢明なご判断をして頂ければ幸いです。
 
 
 
キャンペーンへご協力。
大変有り難うございました。
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消費生活アドバイザー めきし粉書房代表。 電子書籍とか出してます。 オカルトから文芸、その他。 最近のメインテーマは「プロパガンダ」とか「マインドコントロール」 貧乏オーディオ愛好家。

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