【武道便所】番外編~便所魂を磨く苦労~

  by 千徒馬丁  Tags :  

かつて中学生だった息子に一度、男子便所内部の撮影をチャレンジさせてみたことがある。
これで私の便所記事にも男子便所内部が登場させられるとワクワクして画像をチェックすると、それはそれはひどい有様だった。
私が要求した通りに撮れている写真が1枚もないばかりか、何をどう撮影するかのポイントが絞れておらず、何を撮ったのかがハッキリもせず「わからないけどこれでいいですか」と写真が嘆いているではないか。

私の要求をクチで伝えることがこんなにも難しく、理解させることもまた口頭説明だけでは難しいのだということを知り、愕然とした。
便所撮影をすることには、適性が要るのである。
公衆便所を利用する男はごまんといるのに、便所に注目する男も、便所内部の写真撮影を買って出る男もいないのだ。
もちろん、男だけではなくそんな女にも出くわさなかった。
病床に伏す私の代わりに便所の写真撮影をしてくれるという助手の女も。
女に関してはよしとしよう、私が動けさえすれば自分自身で要求を満たす写真は撮れるのだから。
しかし、男子便所内部や個室を撮影するためには性別の違う助手が必要で、それも単なる助手ではなく私の要求に従順な助手である必要があるのだ。

【写真撮影にはいつでも苦労がつきもの】

武道便所の記事に着目し必要な画像を要求通りに撮るという偉業を成し遂げていった助手ハチもまた、便所ライターである私が苦境に立たされるのと同じく家庭内で理解を得ることはなかったようである。

「トイレを撮ってる、て言ったんだよね。そしたら『そういうことなら、言ってくれたらいいのに』て」
「・・・ん?」
曰く言い難き沈黙。
「何を?何を言ってくれたらいいのに、って?」
「そういう趣味だってことを」
「ま、仕事じゃないからねぇ」
「じゃなくて。」
曰く言い難き、沈黙。
「・・・へ?」
「そういう性癖だと思われたみたい」
「オッサン、イタい人やな~。否定しとかないとソコは」

しかし否定したところで、この便所ライターに捧げる画像が副業として成立しているわけではないので、そうなると結果的に『そういう趣味』となってしまうのだ。
そうか・・・そういう趣味のオッサンが、便所ライターのオバチャンにトイレの画像を送る変態行動を繰り返している、そんなところだろうか。
しかも私のスパルタ指導とハチの物覚えの悪さが相乗効果をもたらし、奥様の中ではおそらく、何十年と連れ添った夫がとうとう我慢出来なくなってヘキを解放に向かわせたということになっているのだろう。
いけませんなぁ、そのうち犯罪者になりはしないかという妄想にまでいきつき、夜も眠れない日々を過ごすことになりかねない。
そんなわけで、便所カメラマン言いなりハチ公を事実上のクビにして数か月が経った。

便所ライターという仕事があればいいのに、便所カメラマンという収入源があればいいのに、堂々と仕事ですと言えればいいのに、そしたら私は旅行先で便所にこもるのに疑われることもないのだろう。
「あ、ちょっとソコの便所寄って…ひどい下痢で。」
「ウソやろ。オマエまた便所の写真やろ。寄らん!いい加減にしろ!」
「いやいやいや、ほんまに下痢やねんから。言うとくけど寄らんかったら漏らすで」
朝からキンキンに冷えた牛乳をたっぷりかけたシリアルを食べ、計画下痢を目論んでお出かけに挑む、そこまで便所魂を磨くライターなのである私は。
誰よりも早く、いつか漏らすと思う。

【写真撮影の苦労それは映り込みにアリ】

「このドア、開けたままの状態に出来るタイプ?」
『無理だね』
「何かない?木の棒とかそんなやつ」
『傘ならあるけど』
「んじゃ、それで。」

「ハチ、傘が見えとる」
『あらー』
「撮り直しね」

「だから傘だってば」
『あらー』
アラーの神かオマエは。
「撮る時に見えてるやんな、傘?撮り直ぉ~~~~~し!」

ガッツはあるんだけどな・・・技術がなぁ。

「ハチ・・・これ本気かなぁ・・・真面目にココからかなぁ」
ハチの写真撮影の技術は本当にひどいものだった。
「写ってはいけないモノが写ってるで」

「足。」
『あらー』

「指。」
『あらー』

「指。」
『あらー』

だからアラーの神か、オマエは。
鏡や銀色の部品への写り込み、ラミネートやタイルへの写り込み、これらに気を付けて撮影をするようにと送り出したハチがまさか、自分自身がフレームインしてしまう写真を送ってくるレベルだとは思ってもいなかった。
「ココからなのか・・・まさかの」
これはスパルタにもなるだろうよ。

2009年、私が便所ライターを始め、唯一やらかしたレベルの画像は以下のみである。

さすがに反射でバッチリと写り込むレベルであって、私自身がフレームインするという失態は無い。
万に一つあったとしてもその場で消去確定。
自己判断で即消去とわかるので送っては来ないだろう、普通は。
それを送って来やがるハチに、私の指導方法はスパルタで決まりであった。

【この苦労を長文にしたためる番外編を書こうぞなもし】

「写り込みすぎな」

『あらー』

「腕な」

『あらー』

「足な」

『あらー』

「足」

『あらー』

「頑張ったけど腕」

『あらー』

「カバン」

『あらー』

「カバン、腕、体」

『あらー』

「ピントもおーてないわ、写り込むわ、何がしたいねんっ」

このような感じで50枚ほどダメ出しを重ねてやっと、ようやく私がチェックしてから判明する写り込みレベルにまでクオリティを上げてくるハチ。
自己判断で捨てられる写真を50枚も送ってきたということである。

よくもまぁこれだけクリアに写り込めるもんやな。

ほぼ全身入っとるやないか。

写り込みのない所を探せない。
このレベルが一定期間続いたが、なぜ自己判断できなかったのかが不思議でならない。

このくらいの写り込みであれば編集で消すことは簡単なのだが、心を鬼にしてダメ出しをする。

「銀色ね、写り込み意識して」

銀色を目にしたら写り込むと思え。

私にはハッキリとハチの写り込みが確認できるが、きっと記事中に挿入した際には問題ないレベルと思われる。

しかし私の記事に挿入する画像のクオリティではないので、心を鬼にしてダメ出し。
このレベルは本気で逃げ場のない写り込みである場合のみ使用する。
この空間は、十分に逃げ場がある。
写り込みを避けられる姿勢を取ることが出来るのだ。
私がどれだけアクロバティックに撮影をしていることか。
便所カメラマンは撮影技術の他に身体能力も求められるのである。

さて、この画像にも記事中に使用できない写り込みがあるが、おわかりだろうか。

勘のイイ読者ならおわかりのことだろう。

花瓶の傷かと思ったよ。

【私の予想ではこのくらいから始まるのじゃないかと思っていた影の写り込みでしたが】

「影も意識して。自分の立つ位置ね」

「立ち位置ね」

影の写り込みもこっから始まる感じかぁ。

「立ち位置」

「真正面に立つの好きやな」

「立ち位置、てあと何回言うたらええ?」

立ち位置。

登場人物のキャラが濃いわ。

「カメラ構えてます、も好きやな」

どうせこのシリーズもしばらく送ってくるのだろう。

カメラ構えてます、案の定。

カメラ構えました。

カメラで撮ってます。

構えました構えました。
ハチの影画像も何十枚チェックしたことだろう、いいや、何百枚。

「オシイねぇ」

薄くなった。

少なくなった。
こうしてアホほどの写真撮影の枚数を経て、ハチは使える助手になっていったのである。
誰でも最初は出来ないが、ずっと出来ないままでも育てる価値があるかどうかの判断基準となるのは『どれほど耳を傾ける人間か』というところにあると思う。
ハチはずっと耳を傾け続けた。
その根底に『興味』というものがなければ、きっと続くことではないだろう。
私が9年間便所ライターを続けている根底にも『興味』がある。

【君の風景を撮る腕は認めよう、その感覚と同じように便所も撮りたまえ。】

クビになってからのハチはどうやら、危険な便所ではなく安全な風景を撮るカメラマンと化していたようだ。
ハチよ、いつの間に効果的なアングルで魅力的な写真を撮れるようになったんだ。
その腕を便所カメラマンとして活かせないのが惜しいと思えるほどである。
心が惹かれ魅力を感じるということ。
それが撮影がうまくなる一番の理由だと、私は思う。
どうやら君はもう、十分に育ったようだ。
短期間でスパルタ指導をやったことが結果的には功を奏したようで何よりだ。

【武道便所】の最初で最後の編集長である君に、特権を与えよう。
便所ライターとして【武道便所】の記事を書くことを許す。
いわば暖簾分けのようなものだが、私が君に教えた数々の技術はすべて捨てることをおすすめする。
それは私が指定したアングルやポイントであるから、君の画像にはならない。
君は君の着眼点と特色でオリジナルの記事を書き、オリジナルの写真を使いたまえ。
長文は向かないから、画像を多くして短く効果的なフレーズで記事を書くとよいだろう。
便利な言葉は決して使うな。
私の助手にしておくにはもったいないその行動力は、特筆すべき点である。
便所ライターが一番持ち合わせておかないといけないチカラは、文章力ではなくガッツなのだ。

君ほどのガッツも君ほどの行動範囲もないから私は、スパルタで鍛え上げてきた最中の君の写真のストックをチマチマと編集して消費しながら、撮影も編集も文章もひとりでこなしていた初心に返って精進してゆく所存である。
便所ライターがかように過酷であることを思い知る覚悟があるならば書きたまえ。
きっと後にも先にも【武道便所】に興味を持つ変人はハチしかいないだろう。
読める人間は書けもする、その魂は壊さないようにキレイに磨け。

※全画像:編集長ハチ撮影(一部筆者撮影分を含む)

サルコイドーシス(以下:サル)を患うこと早5年目。そろそろ人間になっているかと思いきや直近の経過観察でもまだサル。しつこいぞ、サル。いつまでだ、サル。 プロフィールのイラストは、入院中の暇つぶしに院内をウロチョロしていた時に知り合った職業が元美少女エロ漫画家の山田課長が、サルの病名普及のためペペペーと描いてくれました。 そんなわけでね、今日はよかったら名前だけでもおぼえて帰ってくださいね、特定疾患『サルコイドーシス』略してサル、難病です☆

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