先月末、カリフォルニア州の裁判所がスターバックスなどのコーヒー販売業者に対し「コーヒーにがんを引き起こす可能性のあることを示す警告文の表示」を命じた。判決の根拠については、コーヒー豆を焙煎する時に発生し、コーヒー中にも含まれるアクリルアミドの量が“州法”に照らして低水準であることを証明できなかったためとしているが、この“州法”が実はとんでもない法律らしい。
“Prop65”と呼ばれるその州法は、がんまたは生殖障害を引き起こす恐れのある化学物質を規定し、企業が飲料水源や個人に対して有害物質を曝露しないように定めたもので、1986年に州民投票を経て成立した。ディーゼル排気ガス、タバコの煙、アルコールなど施行当初30種類ほどだった規定物質リストは、毎年更新されるたびに新たな有害物質が追加されていき、現在ではおよそ1000種類もの化学物質が規定されている。そして、それら有害化学物質に接触する恐れのあるものには警告を表示するように求めているのだが、指定有害物質が広範に渡るため対応の難しいことで知られている。なんせ世界保健機関(WHO)が“安全宣言”したコーヒーのアクリルアミドについても訴訟を起こされてしまうのだから、よく分からない。
そのややこしさと、違反した場合には“1日あたり”2500ドル以下という高額の罰金が科せられることから、“Prop65”対策の甘い企業を狙い撃ちする法律事務所もあるという。昨年、州検事総長室に報告された“Prop65”関連の訴訟は688件で、和解金額は総額2580万ドル(約28億円)にのぼり、そのうち76%は弁護士費用に充てられたそうだ。
一方、企業側は“賞金稼ぎ”に隙を見せないようにするため、あらゆるものに“ぼんやりした”警告を表示することで対抗している。試しに『Google』で「カリフォルニア がん 警告」で画像検索してみよう。
ディズニーランド、ホテル、マクドナルドのフライドポテト、金属製の爪切り、陶磁器、車のヘッドライトのプラスチックレンズ、綿製品、洗剤、除草剤など、あらゆるものについて警告文が見られる。当局の指針としては文中に具体的な化学物質名を記すよう求めているのだが、ディズニーランドやホテルの警告文を見てもどの物質が危険なのか判然としない。駐車場の車から出る一酸化炭素や、手すりの鉛、園内で販売されるアルコール飲料や喫煙所から漏れるタバコの煙などが有害物質に該当する可能性があるため、最低限の警告だけは表示することで予防線を張っているのだ。
このような過剰な警告表示についてネット民は「ギター用の金属製スライド・バーを買ったらがんの警告文が入ってた」「スマホケースにも付いてた」「砂袋にも付いてる。ありふれすぎていてもはや何の意味もない」「ブロッコリーにもがんの警告がある。ジョークじゃないぞ」と違和感を訴えている。確かに、ブロッコリーに限らず高温で加熱するとアクリルアミドを生成する食品は多いが、そんなことを気にしていたら何も食べられなくなってしまう。元々は「消費者の知る権利を守る」という理念に基づく法律だったのに、行き過ぎたリベラルによって歪められていると感じている人が多いようだ。
悪徳弁護士と官僚が食い扶持を得るための悪法だと批判を浴びた“Prop65”は、ようやく濫用を制限する方向で修正されるようになってきた。アメリカ人の大好物であるフライドポテトや特産のブロッコリーを食べる時にも発がん性を意識させられるに至っては、やはり物申さずにいられなくなった有権者が多かったとみえる。
画像とソース引用:
タイトル:A vague Prop 65 warning sign at Disneyland Resort/著作権者:Patrick Pelletier[リンク]
『Google』画像検索[リンク]
『reddit』[リンク]
https://www.p65warnings.ca.gov/[リンク]
http://www.conklelaw.com/tag/proposition-65-reform[リンク]