「娘の将来詰むかも」どう切り出す?彼氏との仲直り
頭の中将が夕霧と雲居雁の仲を引き裂いてから既に6年。18歳になった夕霧には縁談が舞い込み、それを聞いた雲居雁は激しく動揺。夕霧は他の女性と結婚する気はないものの、未だに我慢の一手を崩そうとはしません。
ここでもし夕霧に捨てられたら、いよいよ娘の将来が詰んでしまうかも……。当時は怒りのあまり夕霧にキツく当たった頭の中将も、今となっては弱腰です。「グズグズしていては縁談を進めてしまうかもしれん。ここらが潮時だ。夕霧に婿になってくれと言おう」。自分を曲げるのが大嫌いなこの人も、ついに娘のために折れることを決断します。
でも長年気まずい仲なので、今更どのタイミングで切り出せばいいのかわからない……。あれこれ思案しているうち、大宮の1回忌の法事がありました。頭の中将も息子たちとともに亡き母の冥福を祈ります。
誰よりもおばあちゃんに可愛がられていた夕霧は心を込めて、法事の準備から当日の仕度を手伝います。堂々と落ち着いて対応する様子、まさに見た目も中身もイケメンです。頭の中将も「立派になったもんだなあ、こいつも」としみじみ。
法事が終わった夕方は雨が降り出しそうな空模様。頭の中将は一人ぼんやりしている夕霧を見つけ、チャンスとばかりに話しかけます。「まだ怒っているのかね。お祖母さまの縁にかけても、そろそろ私のことを許してほしいが……」。怒ってるのかねって、怒ってたのおたくでしょ!
夕霧は急に声をかけられ、とっさに返事をしますが、バーっと雨が降り出したため別れ別れに。帰宅した夕霧は部屋で伯父の言葉を反芻します。「今日、伯父上は何が言いたかったんだろう。いつもとは違った感じだったけど」。彼女とのこと、許してくれるって意味?
雲居雁のことはいつも考えているだけに、伯父の発言に過敏になる夕霧。結局、ああでもないこうでもないと、悶々としたまま朝を迎えます。
パーティーのお誘いにドキドキ!パパの衣装を借りていざ出陣
法事からしばらくして、頭の中将の家では藤の花が見頃になりました。春の花が儚く終わった後、晩春から初夏に咲く藤の花は、彼の大好きな花。せっかく綺麗に咲いた花を楽しまずに終わるのもつまらないと、ガーデンパーティーを企画します。
夕霧には長男の柏木を使いに出し、きれいな藤の一房を添えてご招待。「法事の時はゆっくり話せなくて残念でした。もしよろしければ、我が家の藤を愛でる夕べをご一緒に」。えっ!?やっぱりそういうこと?
夕霧は頭がぐるぐるして、返事も緊張してしまい「何かヘンになった。おかしい所を直してくれ」と柏木に言う始末。柏木はこのまま一緒に行こうと言いますが「面倒なお供はいらないよ」と、とりあえず返事を持って帰ってもらいます。
こういう時に頼りになるのは父・源氏です。夕霧が相談しに行くと、源氏は「あちらに思うところあってのご招待だろう。これで気まずい関係も解消ということかな」とドヤ顔。「ほら見ろ!うちの息子、立派になったろ?お婿さんにしたいだろ?」とでも言いたそうです。
夕霧は「でも今は忙しい時期でもないし、ただ単に綺麗に咲いた藤の花を楽しもう、というだけかも」。もしかしてと期待する一方、全然関係ないただのパーティーだったら……と思うとモヤモヤ。今ひとつ確信を持てない夕霧です。
そんな息子に源氏は「お迎えまでよこして下さったのだから早く行きなさい。今着ているのは色が濃くて軽薄に見えるから、もう少しいいのを着なさい」と、自分用にあつらえていた特製の衣装一式を出してあげます。
コーディネートが苦手な息子のファッションチェックをさり気なくして、自分の上等のを貸してあげる父。今ならパパのブランドスーツみたいな感じですかね。何にせよ、源氏パパの見立てなら百人力です。
藤の花の下でついに和解!6年越しの恋が実ったゴールイン
入念におしゃれした夕霧がパーティーに顔を出したのは、すっかり夜になってからでした。まだかまだかと焦れていた頭の中将も、バッチリ決めてきた夕霧に大満足。室内にいる奥さんや若い女房たちにも声をかけます。
「覗いてごらん。夕霧は本当に立派になった。父君によく似て美しいが、堂々と落ち着いた所は父親以上に見える。
源氏の君は見ているだけでこっちが笑顔になるような、辛いことがみんな忘れられるような気持ちがしたものだ。一方、政治の面ではややソフト過ぎて、謹厳さには欠けていた。
その点、夕霧は頭もよくて真面目で、芯もしっかりしているようだね」若いときから源氏をよく知る頭の中将のレビュー、なるほどという感じです。
堅苦しい挨拶は少しだけ、あっという間にお酒が入り、2人はついに和解。藤の花の下で、夕霧は晴れてこの家のお婿さんになりました。「まだ信じられない、こんな日が来るなんて」。従兄弟たちにからかわれつつ、彼は深夜に雲居雁の部屋を訪れます。
彼女との久しぶりの対面は嬉しいのに恥ずかしい。お互いにぎこちなくなってしまったけど、こうして2人は6年越しの恋を実らせゴールイン。“顔もろくに見たことがない人と三日三晩共ににしたら結婚”という当時からすると、かなり珍しい恋愛結婚。玉鬘の結婚が悲壮だっただけに、こちらは心から「おめでとう!よかったね!!」という結婚話でホッとします。
夫婦のやり取りに熱視線!新婚さんのラブラブ無双ぶり
初夜のあと、夕霧は長々と朝寝し、すっかり明るくなってから寝癖をつけて帰ります。本来なら夜明け前に帰り、すぐさま女性に後朝の文を送るのがセオリーですが、まあ、やっと結ばれたんだから、今日くらいいいですよね。
夕霧から後朝の文は来たものの、却って気恥ずかしい気がして、雲居雁は返事がなかなか書けません。女房たちが「どうしてお書きにならないの?」「お早く」などと囃し立てている所に、パパがやってきました。
「婿どのはしたり顔で朝寝していたね。手紙も随分遠慮がないなあ。それにしても字が達者になった」。頭の中将の言葉にも、以前のようなトゲはありません。パパに見られているとますます書きづらい娘。ああ、夫とのやり取りがこんなに注目されるなんて、勘弁してほしい。
パパはそっと席を外してやり、夕霧からの文使いに立派な褒美を取らせます。今までは人目を忍んでコソコソ手紙を持ってきた彼も、晴れてもてなしを受ける立場になってとても嬉しそう。良かったね。
六条院に戻ってきた夕霧に源氏は「今朝はどうした。もう後朝の文は差し上げたか。女性のことでは頭のいい人でも失敗することがあるが、焦らず、ヤケも起こさず辛抱したのは本当に偉かったね」。痛みに耐えてよく頑張った、感動した……ってところでしょうか。同じ状況でも源氏はこんなことをしないでしょうからね。
「でもこれで「自分の勝ちだ」と図に乗ってはいけないよ。彼は豪気でまっすぐに見えるが、一筋縄ではいかないところがある。案外に付き合いにくい人なのだ」。白黒ハッキリ、竹を割ったような性格に見えて、それ以上に負けず嫌いで意地っ張りなのが頭の中将。お互いのことをよくわかっているなと思いますが、子供の結婚から、父親同士の関係も浮かび上がってきて面白いです。
ここで源氏と夕霧の容姿について、“夕霧は源氏の息子と言うよりは、ちょっと年上のお兄さんのように見える。二人が別々にいる時は「そっくりだ」と思えるのだが、一緒にいるのを見るとそれぞれ異なる美しさがある”とコメントがあります。
息子(18歳)より若く見えるお父さん(39歳)もなかなかですが、夕霧がよっぽど落ち着いているのでしょう。
こうして夕霧と雲居雁はラブラブ新婚ライフを謳歌。頭の中将も(自分が折れたのは悔しいが)夕霧が他の女に乗り換えたりせず、娘への愛を貫いたことを高く評価し、今はこのお婿さんが可愛くて仕方ない様子。再婚した雲居雁の母も、娘が幸せになったと聞いてとても喜びました。
暗く沈んでいた雲居雁の部屋は、今はすっかり明るくなって、お姉さんの弘徽殿女御のところよりも賑やかに見えるほどです。お姉さん側の女房たちはその事を嫌そうにしていますが、ラブラブカップルにそんな嫌味はどこ吹く風。新婚さんの無双ぶりを存分に見せつけたところでこの話は終わります。
簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/