エスティー・ローダの『金』とクリムトの絵

  by あおぞら  Tags :  

先日、ムンクの『叫び』が史上最高額で落札された。毎度のことだが過去史上最高額がつけられるたびにテレビのニュースでは紹介される。短い時間ではあるが必ずと言っていいくらい放送される。

さて、時を6年遡って当時その『史上最高額』で落札されたのが、クリムトの『アデーレ・ブロッホバウアーの肖像』。2006年に落札しその2006年から一般公開する落札者の名前はロナルド・ローダー。私自身持ち主の名前を見たとき『ロナルド・ローダーか、何者だろう…』と思い調べていくと、化粧品会社のエスティー・ローダの最高経営者であることがわかった。英語で検索していたら職業が実業家と書かれており、それだけではピンとこなかった。日本語で『ローダー』の苗字を見れば、エスティー・ローダ!とすぐわかったのに…..とちょっと悔しがる自分がいた。

話しを本筋に戻して、この『アデーレ・ブロッホバウアーの肖像』を昨日見てきた。ノイエ・ギャラリーと言う個人邸宅を美術館とした建物はメトロポリタン美術館のすぐ近くの五番街の86丁目にある。

邸宅にはいると白を基調に螺旋階段の黒の手すり全体が影絵のようで、その優美さにうっとりする。2階にあがると邸宅に招かれた客気分で室内に入る。おそらくこの邸宅のかつての主がお気に入りとしたメインの客間らしいところにこの『アデーレ・ブロッホバウアーの肖像』は神々しく飾られていた。

クリムトの作品は何点も見てきた。ノイエ・ギャラリーのすぐ近くのメトロポリタン美術館にも大きな肖像が数点展示されているし、近代美術館にもクリムトらしい金を取り入れた作品はある。しかし、こんな豪華絢爛かつ心が穏やかになるような作品は未だかつてみたことがなかった。

『世界はアートが支配している』と言うことをうろ覚えだが耳にしたことがある。こうして実際過去最高額をつけた作品を見てみると、その言葉に納得してしまう。絵は本当に素晴らしいものである。その素晴らしい絵の値段をここまで吊り上げて吊り上げて落札させるその仕組みを作った人は、ちょっと罪つくりな気がしないでもないが、しかし、一般市民には考えられない金額で競り落とせる財力に驚かされるのもまた新しい驚きである。そして大方の落札者はその絵を一般公開する。それは富の施しのようでありがたい。

ノイエ・ギャラリーの入館料は$20、学生証提示だと$10。しかし、毎月最初の金曜日は閉館が9時と遅く、6時から9時までは無料開放されているのである。だから私は1円も、いえ1セントも支払わずに邸宅に入り、この6年前の史上初の高値をつけた芸術作品を見てきたのだ。多くの入館者がいたにもかかわらず、数十秒まわりに人がおらずにこの絵と対面できた……

考えてみれば特にアメリカでは実業家がこのように絵を買いつけ、そのコレクションを一般公開してきた。邸宅を美術館にした富豪はニューヨークでは金融のモルガン、鉄鋼のカーネギーとフリックあたりだと思っていたが、今現在”生きている”実業家、エスティー・ローダ社のロナルド・ローダーも先陣に学んで彼らの仲間入りをしたことになる。

たまたまなのだが、今私が使っている化粧品はエスティー・ローダ。オーデコロンの名前『Beautiful』が気に入って買い、金色の蓋のインパクト。アイシャドーも口紅も頬紅も金色のケース。メーシーズでクリスマス・シーズンにちょっと頑張ってセットの化粧品を買った時、金尽くしの商品を手にした。金色のバッグ。金色の取っ手の化粧筆、金色を背中にした鏡。

書きながら、クリムトの金と、エスティー・ローダーの化粧品の金のコンセプトが一致した。『そういうことか….』とジグソーパズルの最後のピースを仕上げた気分になった。

ノイエ・ギャラリーの『ノイエ』はドイツ語で新しいという意味で、新しいギャラリーを意味する美術館。確かに今まで訪れた美術館とは一味違っていた。美を追求する化粧品会社経営者を持ち主とする『アデーレ・ブロッホバウアーの肖像』。この上ない美の追求の一枚であった。

ノイエ・ギャラリー(Neue Galerie)
5番街の86丁目 1048 Fifth Avenue (at 86th Street).

画像:frickr from YAHOO!
http://www.flickr.com/photos/32357038@N08/3520474608/sizes/m/in/photostream/

ニューヨークから発信しています