KEEP CALM 飼い主のイライラは犬を不安にさせる

 愛犬がパニックになったり、吠え止まないなどのコントロール不能に陥ると、イライラしてしまうのではないだろうか?

 このようなパニックや吠え止まない状況では、犬の興奮がかなり高まっている状態だ。この興奮が飼い主にも伝わり、双方で興奮しているのを目の当たりにする。もちろんこの状態では、事態は収束せず、さらに混乱してしまうだろう。するとイライラした飼い主は、リードで引っ張り上げたり、蹴飛ばしたり、乱暴に扱ってしまいがちだ。
 しかし、このような飼い主の振る舞いは、犬に大きな不安を与えてしまう。そもそも犬が吠えたり、パニックになるようなら、犬は怖がって興奮している。このような状況に遭遇し、飼い主に乱暴されるとなると、次にまた同じ状況に出くわした時はより防御的になり、拒絶反応は強まってしまう。また、怖がっている時に叱られることで、犬は飼い主を信用しなくなるだろう。
 このような状況では、犬の興奮に飼い主が飲まれずに冷静な対処をすることで、犬は落ち着きやすくなる。これが中々難しいと感じる人が多いのではないだろうか。ここではいくつかのポイントをご紹介する。

周りのことは気にしない

 犬が興奮して困っている飼い主は、何かのプレッシャーを感じていることが多い。例えば、「他の人に見られてみっともない」とか、「病院での診察中に獣医や看護師に迷惑をかけたくない」などだろう。ここはひとつ落ち着いて、周囲のことは一旦遮断し、犬の行動に集中することが大切となる。犬の注意をこちらに引くことができれば、興奮を収めやすくなる。そのためには犬の注意を引くタイミングをしっかりと見定めることが必要不可欠になる。冷静な判断が求められるので、犬と一緒に興奮していてはタイミングを見失うだろう。

犬の注意をこちらに向ける

 例えば、吠え止まないやパニックになるにも程度には差がある。興奮が初期段階なら、タイミングを見てこちらに注意を引き、犬が静まった時に褒めるなどの報酬を与えることで興奮を鎮めることができる。最初の数回は、この繰り返しになるかもしれないが、徐々に興奮は収まっていく。

完全なパニック状態の時

 興奮度がかなり高く、犬の行動が連続的になり止まらないことがある。この場合では、一旦場所を変えることで犬は落ち着ける。この時も、乱暴に引っ張って連れ出すのではなく、落ち着いて行動するほうが効果は高い。犬が落ち着いたら報酬を与えて、徐々に元の場所に戻る。この場合では、一歩づつ歩いては止まり、犬が穏やかなら報酬を与える。元にいた場所に近づくに連れて犬は興奮しやすくなる。焦らずにゆっくりと犬のペースに合わせ、興奮が高まらないようにする。

恐怖症には古典的条件付けが効く

 古典的条件付けは、パブロフの犬で有名な理論。犬が反応しない音を鳴らした直後に食べ物を与えるという行為を繰り返す。すると犬はその音を聞いただけで、ヨダレが出るという生理反応の理論だ。これは情動(感情の一部:怒りや喜びなど)にも影響している。例えば、車の音を怖がりパニックに陥る犬の場合では、犬は「車の音=恐怖」と感じて、パニックに陥っている。なので、ボリュームを小さくした車の音を聞かせてから、食べ物を与えるなどを繰り返すと、恐怖が食べ物への期待に置き換わる。食べ物に恐怖心は抱けないので、恐怖感が和らいでいく。次第に、「車の音=期待感」となり、恐怖心が克服できる。この後、音のボリュームを徐々に大きくして、実際のシチュエーションに近づける。これは、古典的条件付けを応用した、系統的脱感作とも言われる。
 これは音だけではなく、物や場所などでも同じ働きを持つ。愛犬があまりにも過剰な反応を示している場合は、こうした作業を行うことで、犬は落ち着けるようになる。もちろん、この作業を行うのは人なので、人が落ち着いて行う必要がある。

ある意味、子供と同じ

 子供が泣きじゃくっているときに、親が興奮して叱ったら子供は余計に大泣きするだろう。犬も似た反応をする。また、あまりにも叱りが強くて、思考停止に陥ると反応が一旦止まることがある。一見すると問題を回避したように見えるが、これはその場限りでだ。再度同じ状況に遭うと、恐怖の対象と、叱られることへの抵抗感から反応はより強くなってしまう。
 ただでさえ、辛いと感じている時に叱られるとなれば、こんなに気の毒なこともない。こういう時こそ冷静になって、何に拒否反応をしているのか、何が怖いのかをしっかりと見定めてフォローしてあげたいものだ。
 苦手なことがあるのなら、しっかりと克服して楽しい事だと感じれるようにすれば、犬がパニックに陥るようなことは無くなる。恐怖を感じる対象がなくなっているので、犬にとっても嬉しいことではないだろうか。

DBCA認定ドッグビヘイビアリスト(犬の行動心理カウンセラー)・JCSA認定ドックトレーナー(家庭犬訓練士)・動物行動学研究者(日本動物行動学会)。 警察犬訓練所でドッグトレーニングを学び、その後に英国の国際教育機関にて”犬の行動と心理学上級コース(Higher Canine Behaviour and Psychology)”を修了。ドッグビヘイビアリストとして問題行動を持つ犬のリハビリを行っている。保健所の犬をレスキューする保護活動にも精力的に取り組んでいる。 動物行動学・心理学・認知行動学を専門とし、犬がペットとして幸せな暮らしができるよう『Healthy Dog Ownership』をテーマに掲げ、動物福祉の向上を目指して活動中。 一般の飼主さんだけでなく、行政や保護団体からの依頼も多く、主に問題行動のリハビリが専門。 訓練(トレーニング)やリハビリの事、愛犬との接し方やペット産業の現状などについて執筆している。 著書:散歩でマスターする犬のしつけ術: 愛犬とより強い絆を築くために(amazon Kindle)・失敗しない犬の選び方-How to Choose Your Dog-(amazon Kindle)

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