東日本大震災を忘れない ダンス演劇『いつか みんな なかったことに』中西ちさと代表インタビュー

  by 中将タカノリ  Tags :  

2016年3月11日~13日、関西の人気ダンスパフォーマンスグループ『ウミ下着』がKAIKA(京都市)で新作『いつか みんな なかったことに』を上演する。

国際的なアート演劇祭として知られる『KYOTO EXPERIMENT 2016 SPRING』出展に向け企画された力作であり、東日本大震災への思いを、関西人が5年経ったこの時期にあえて再考察したという話題作でもある。

東日本大震災の記憶がアートとして、ダンスパフォーマンスとしてどのように昇華されるのか?

ウミ下着代表でダンサーの中西ちさとさんにお話をうかがった。

--『いつか みんな なかったことに』は2011年の東日本大震災に向かい合った作品だということですが、なぜこのタイミングになったんでしょうか?

中西:2011年に一度『ふるえるくちびる』という舞台で震災をテーマにしたことがあるんです。偶然にも3月11日は私の誕生日で……今考えると「若かったんだなぁ」と思いますけど、大阪に住んでいたから被害にあわなくて幸運だったのに、震災のせいで周りから誕生日を祝われるような空気ではなくなってしまったことがとてもショックだったんですね。
当時は自己中心的な気持ちをあえて素直に表現したくて『ふるえるくちびる』を演ったんですけど、5年たって私の中で震災に対する思いが確実に変わってきていることに気が付いたんです。

--どのような変化があったんでしょうか?

中西:少なくとも関西では震災の記憶って風化しつつあるじゃないですか。でも私は誕生日のたびにあの震災やあの日の自分に対面するんです。歳をとって他人の悲しみやいろんな感情が想像できるようにもなったし、私は震災についてなにかしら考えることを放棄したくないと思うようになったんです。

--自己中心ではなく、震災がもたらしたいろんな事象について考えるようになったということでしょうか。

中西:はい。それで実際に被災地を訪れて生の話を聞いてみたくなったんです。去年の12月から今年1月にかけて今回の舞台メンバーと福島県や宮城県の被災地を歩いてゆく中で「『ふるえるくちびる』とは違う形で震災を表現したい」と思うようになりました。

--被災者の生のお話はいかがでしたか?

中西:「思い出したくない」と言いながらも訥々と語ってくれる人、さもテーマパークの体験談かのように面白おかしく語ってくれる人……「興味をもって話を聞きに来てくれる人が減った」と寂しがる人もいました。そして話を聞く中で、他人の不幸を期待している自分に気が付き、何とも言えない気持ちになりました。

福島県の勿来(なこそ)では遠くから来た私をお寿司と刺身でおもてなししてくれたんですが、それを口に運ぶ前に躊躇してしまう私がいたり……とにかく考えさせられることが山ほどあって、震災が一筋縄では扱えないテーマなのだと再認識することになりました。

--そういった心理的な葛藤は舞台表現にどのように反映されていったのでしょうか?

中西:そうですね。口での説明がとても難しいのですが、感じた喜怒哀楽はダンスとしての動きに大きく反映されています。

それと口伝というものの面白さに気付いたのも大きな収穫でした。

--どういったものでしょうか?

中西:東北で同じ話を聞いたのに、帰ってからあらためて話したら人によって覚えている内容が違ったり、強調されている部分が違ったことにとても興味を感じたんです。震災体験も本人から聞いた人へとどんどん伝言ゲームになっていく”口伝えの個人の体験”ですし、これを今回の舞台に活かさない手はないと思いました。後から聞いたら、東北の民話は口伝によって広まり、ストーリーが作られていく要素が大きいらしいんですが、偶然の一致でしたね。

--舞台に参加されるメンバーとは震災というテーマについて話し合う機会はありましたか?

中西:はい。今回はゲストパフォーマーが3人いるんですけど、三者三様で「ぜひ取り組みたい」という人もいれば「考えたこともなかった」、「海外に住んでいて傍観するしかなかった」という人もいました。いろんな経験を持った人がいるからこそ会話の幅も広がるし、舞台を演出していく上で多様な表現が生まれるもとになったと思います。

--『いつか みんな なかったことに』を通して観客に伝えたい事はありますか?

中西:東日本大震災という悲劇をただのお話にしたくないという思いはありますが、私の考えを押し付ける気はないです。私自身、5年前はぜんぜんちがうことを考えてたわけですし……でもなにかの気付きのきっかけになれば嬉しいですね。

ダンスパフォーマンスというと抽象的でわかりづらいイメージがあるかもしれませんが、できるだけ身近にうけとってもらえるような工夫もいろいろと考えています。

『いつか みんな なかったことに』

【構成・振付】
中西ちさと

【振付・出演】
福井菜月
中西ちさと
くはのゆきこ
福森ちえみ
村角ダイチ(THE ROB CARLTON)

【日程】
2016年
3月11日(金)19:30-
3月12日 (土)14:00-(★) / 19:00
3月13日 (日)12:30- / 17:00(★)

※開場は開演の30分前。
★印回は終演後、振付家と出演者による解説トークを行います。

【アフタートークゲスト決定】

3月11日(金)19:30〜上念省三(ダンス・演劇批評)
3月12日(土)19:00〜隅地茉歩(振付家・ダンサー セレノグラフィカ代表)
3月13日(日)12:30〜上田誠(劇作家・演出家 ヨーロッパ企画代表)《敬称略》

【チケット】
予約フォーム
https://www.quartet-online.net/ticket/umishitagi
前売 一般2,500円 / 学生=2,000円
当日 一般3,000円 / 学生=2,500円

※学生券は当日、学生証を確認させていただきます。
※未就学児の入場はご遠慮ください。

【会場】
KAIKA
京都市下京区岩戸山町440番地 江村ビル2F
TEL/FAX 075-276-5779

中将タカノリ

■シンガーソングライター、音楽・芸能評論家 ■奈良県奈良市出身 ■1984年3月8日生まれ ■関西学院大学文学部日本文学科中退 2005年、加賀テツヤ(ザ・リンド&リンダース)の薦めで芸能活動をスタート。 歌謡曲をフィーチャーした音楽性が注目され数々の楽曲提供、音楽プロデュースを手がける。代表曲に「雨にうたれて」、「女ごころ」(小林真に提供)など。 2012年からは音楽評論家としても活動。さまざまなメディアを通じて音楽、芸能について紹介、解説している。

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