「内申点上げます」就活短編小説

  by mizuken1109  Tags :  

その電話が岡本家の元にかかってきたのは、真夜中のことだった。

電話に出たのは妻の美代子。

専業主婦であり長男たけしが高校入試を控えている。

「お子さんの内申点をあげる方法をご紹介しておりまして。」

胡散臭い話だ。美代子は顔をしかめながらも、無下に断る気にはならない。

現に今の息子の学力では。志望校に受かるかどうかが五分五分なところであり、そのために学校の内申点は非常に重要なポイントであった。

「それはいったいどういうものですの?」

話だけ聞いても損ではないのだろう。美代子は相手に話す余地を与えた。

男は金本と名乗り、自分は内申点コンサルタントを生業にしていると話した。

金本の話をかいつまむと下記のようになる。

内申点とは学校の成績と授業態度で決定される。しかし、その評価を下すのはあくまでも教師。

つまりいかに良いイメージを持ってもらうのかが最も重要な要素になる。男が提案するのは脳の無意識に働きかける音楽。

聴いている人間をリラックスさせ表情を和らげる効果があるため、周りへ好印象を与えるのだという。

「確かに理屈は分かるけど、そこまで効果があるとは思えないわ。」

「ええ。奥さん。仰ることは最もです。ですから効果を実感して頂いたら、つまりは実際にお子さんの内申点が上がったら振り込んでもらえばけっこうです。」

「効果がなかったら?」

「もちろんお代はいりません。私どもはこの商材に絶対の自信を持っています。内申が上がった場合のみお金をいただければけっこうです。」

「それなら・・」

美代子はその場で承諾し、後日指定された教材が届いた。息子も半信半疑ながらも音楽を聴き始め、見ている限りリラックス効果があるようであった。

そして、数ヶ月後。内申点が発表される日。

たけしの成績は驚くほど上昇した。

美代子は喜び、それを見計らったからのように請求書が届くと快く料金を払ったのだった。

「ほら」

とあるカフェ。金本は目の前に座る男に金の入った封筒を差し出す。男は安田という名であり、申し訳ないようにお金を受け取った。

この二人は大学時代の同級生であったが、安田の方が顔は疲れ老けて見える。

「教師としてこれは良いのだろうか?」

安田は渋い顔をしている。

「問題ないさ。」

金本は涼しい顔をしている。

「金を受け取って不正に生徒の内申点を上げたわけじゃない。お前にはもともと内申点を上げるつもりの生徒がいて、その情報を友人である俺に教えた。そして俺が勝手にその生徒の家に電話をし、心配性の母親に安心を売った。それだけだ。この金はあくまでも俺からお前への個人的なお礼でしかない。」

「君は相変わらずたくましいな。どんなことでもビジネスにしてしまう。僕も君みたいなセンスがあれば。甲斐性もなく今じゃ妻にも娘にも相手にされない。」

「俺から言わせれば公務員ほど稼げる職業はないぜ。国が抱えている仕事ってのは、それだけ人間の生活に根ざした職業だ。つまり、多額の金が動くし時代に左右されにくい。だからこそ民間ではなく国が管理するんだがな。今回みたいに◯◯するつもりっていう情報も金になる。」

金本は笑うと、こう言った。

「もし娘さんの内申点が気になったら連絡してくれよ。」
(画像引用元 https://www.pakutaso.com/201505291349.html)

「就活ミュージカル」というプロジェクト立ち上げに携わりながら、漫画原作しています。 こちらでは就活短編小説を連載予定。

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