初めて会う犬を安心させる3つのルール

 犬好きの人なら、街で会う犬にも興味をお持ちでしょう。また、最近では保護犬を引き取るという人、個人で保護活動をする人も増えてきているようです。多くの犬好きの人は、いち早く「犬に触りたい」と思うのではないでしょうか。しかし、犬と出会って直ぐに触ろうとして近づいたら、犬に唸られたや、吠えられたというのはよく起こる事です。なぜ、犬に威嚇されてしまったのでしょうか。
 きっと犬は、あなたの急な接近に驚いて不安を感じたのでしょう。犬が最初に発する不安を感じていることのサインは、とても微妙な仕草だったりします。この僅かなサインは見逃されやすいのも事実です。またこのサインは個体によって微妙に違うので、初めて会う犬となると解りづらいこともあります。
 こういったトラブルを避けるために、ここでは初めて会う犬を安心させる3つのルールをご紹介します。このルールを守ることで、犬を安心させることができるでしょう。もちろん、ここで想定する相手の犬は初対面ですから例外もあります。しかし、多くの場合でこの方法は有用です。
 相手の犬に近づく際、以下のルールを試してみてください。このルールは3つ全てを同時に行なうことがポイントです。まずは、それぞれのルールを見ていきましょう。

ルール1:話しかけない

 いきなり犬に話しかけると、犬はその声を刺激として受け取ります。特に甲高い声は犬を興奮状態にしてしまいます。人が何を話しているかは問題になりません。もちろん「こんにちは〜」と言っても、犬にその意味が伝わるわけではありません。人の声(ましてや知らない人の声)は、心理的な刺激として受け取られます。もし、ここで犬が少しでも不安や警戒心を持っていたら、話しかけられた事への反射として、何らかの行動を起こすことがあります。
 無駄な刺激を与えないようにすれば、犬は余計な不安を抱かずに済みます。

ルール2:触らない

 初対面の犬に噛まれる人の多くがこの「触ろうとしたら噛まれた」です。これは犬が触られる事に抵抗したという事です。犬からすれば「誰だお前は!無礼者が!」といった感じかも知れません。これもルール1と同様に余計な刺激を与えない(触らない)ことで、回避できることです。

ルール3:目を見ない

 犬に限らず多くの動物の世界で、相手の目を見る行為は挑発とみなされます。特に目を見続ける(凝視)行為はかなり危険な行為です。私達ヒトの世界でも、見知らぬヒトに自分の目を凝視されたら威圧を感じますよね。なので、犬の目を見ることは相手の犬に余計な威圧を与えることになります。目は見ないようにしましょう。

3つのルールは犬社会のルール

 お互いの事を全く知らない状況では緊張が伴うものです。これは我々ヒトでも同じでしょう。この3つのルールは、犬同士が初対面の際に行われる犬社会のルールです。社会性のある初対面の犬同士は互いに刺激しないようにこのルールを守り、匂いを使って挨拶を行います。匂いによる挨拶が済んだ後に、一緒に遊んだり、お互いに距離をとったりします。反対に社会性のない犬はこのルールを知らないために、喧嘩に発展することがあります。
 これらのルールをヒトが使う場合は、まずこのルールの通り、”話しかけない・触らない・目を見ない”を徹底します。ここで相手が好奇心の強い犬なら、あなたの匂いを嗅ぎに来ます。こちらから犬に近寄るのではなく、犬からこちらに来るようにする事が肝心です。一通りの匂いチェックが終わると、挨拶が終わった事を意味します。匂いチェックが終わるまでの間は、このルールを徹底します。もし、匂いチェックが終わらないうちにルールを破れば、犬は不安を抱くかも知れません。犬の匂いチェックが終わる(嗅ぐ行為が終わる)と、犬はあなたに対して過大な警戒心を抱くことはないでしょう。
 犬の匂いチェックが終わったら、姿勢を低くして犬の正面に対し、あなたの身体の側面を見せるようにします。正面を向くと威圧と受け取る可能性があるためです。身体の側面を犬に向けることで「私に敵意はない」と伝えることができます。
 ここで、犬がリラックスしたり、友好的な態度(但し興奮している場合を除く)なら、そっと話しかけます。話しかけても状態に変わりがないようなら優しく触ります。いきなり頭を触るのは犬によって嫌がることがあるので注意が必要です。

 如何でしょうか。このルールを徹底することで、不意に犬を不安にさせるリスクは大幅に軽減できます。犬に「この人は害のない人だ」と判ってもらうには、犬社会のルールを尊重すれば良いのです。犬には我々の言葉や文化は通用しません。犬から信用されるために、犬社会のルールを尊重しましょう。そうすれば直ぐに、犬から信用してもらえます。
 保護犬など預かった場合でも、この方法を用います。私は最初の数日間このルールを徹底します。すると多くの場合で犬はこちらを信頼します。
 特に犬が好きな人は、このルールを無視しがちです。心当たりのある方もいるのではないでしょうか。自分の中にある「犬と仲良くなりたい」という欲求が、そのまま直ぐに犬に伝わるとは限りません。そこでこのルールを用います。犬にとって精神的な負担が少ないので、嫌われるリスクは大幅に下がります。
 初対面の印象はとても大事なものです。しっかりと犬社会のルールを尊重することが大切。そうすれば、犬はあなたを信頼してくれるはずです。

DBCA認定ドッグビヘイビアリスト(犬の行動心理カウンセラー)・JCSA認定ドックトレーナー(家庭犬訓練士)・動物行動学研究者(日本動物行動学会)。 警察犬訓練所でドッグトレーニングを学び、その後に英国の国際教育機関にて”犬の行動と心理学上級コース(Higher Canine Behaviour and Psychology)”を修了。ドッグビヘイビアリストとして問題行動を持つ犬のリハビリを行っている。保健所の犬をレスキューする保護活動にも精力的に取り組んでいる。 動物行動学・心理学・認知行動学を専門とし、犬がペットとして幸せな暮らしができるよう『Healthy Dog Ownership』をテーマに掲げ、動物福祉の向上を目指して活動中。 一般の飼主さんだけでなく、行政や保護団体からの依頼も多く、主に問題行動のリハビリが専門。 訓練(トレーニング)やリハビリの事、愛犬との接し方やペット産業の現状などについて執筆している。 著書:散歩でマスターする犬のしつけ術: 愛犬とより強い絆を築くために(amazon Kindle)・失敗しない犬の選び方-How to Choose Your Dog-(amazon Kindle)

ウェブサイト: http://www.healthydogownership.com

Twitter: HealthyDogOwner