ヤマハ発動機のちょっと珍しいバイク『TRICITY125』(以下トリシティ)を借りることができたので、ツーリングレポートをお届けする。
ツーリングの前にバイクの基本的な知識から。根拠法令は道路交通法。
バイクの免許は原動機付自転車、普通自動二輪、大型自動二輪の3種類。
排気量50cc以下の原付は普通免許があれば乗れるが、速度が最高30km/hで二人乗りはできず、二段階右折等の規制が多い。
自動二輪は車と同じ速度規制で、初心者でなければ禁止道路を除き二人乗りもでき、二段階右折の規制もない。
普通二輪免許のうち小型限定免許は125cc以下の自動二輪を運転できる。
限定のない普通二輪は400cc以下の自動二輪を運転できる。
大型二輪免許は400ccを超える二輪車を運転できる。
今回レポートするトリシティは125cc、小型限定普通二輪免許で運転することができる。
いわゆるスクーターで自動変速なので小型限定でさらにAT限定でも運転は可能だ。
次に道路運送車両法での区分。普段は税金に関係してくる区分だ。
125cc以下の二輪車は同法で原付一種と原付二種に区分され、ナンバープレートは市町村から交付される。
50cc以下の原付は原付一種でナンバーは白、これを超えるものは原付二種に区分され90cc以下は黄色、125cc以下は桃色のナンバーとなる。
トリシティは125ccなので、道路運送車両法では原付二種甲という区分になり、軽自動車税が1600円と安いのが特徴。
250ccや400ccのバイクよりも維持費が安いので原付二種に区分されるバイクは人気が高い。
250ccを超えるビッグバイクは車検もあるので、維持費がかかる。
この原付二種は高速自動車国道は通行できず、自動車専用道路もその多くは通行できないので、いいことばかりはないが長距離ツーリングをしなければ、経済的メリットの方が大きい。
記者は東京都内から成田空港の敷地脇にある「さくらの山」までツーリングに出かけた。
高速道路は走れないので、すべて一般道路だが、概ね60kmほどの道のりだった。
滑走路の延長線上にあるので、航空マニアや家族連れでにぎわっていた。
風向きにもよるが、この日は公園側からの離陸だった。
旅客機だけではなく貨物機も多く発着するので、普段目にすることにない珍しい機材も見ることができる。
最近、成田市が同公園内に物販、休息施設をオープンさせた。
道の駅ではなく「空の駅 さくら館」がそれだ。
地元、成田周辺で採れた新鮮な野菜や果物が格安で販売されているので、近くからもスーパー代わりに買い求める人も多い。
空港脇という立地から航空関係のグッズも充実している。
成田のマスコット・ゆるキャラである「うなりくん」のコーナーも充実。
館内にはコインPCも完備して、なかなかの設備を誇っている。
休息施設や子どもの遊び場、ベーカリーも併設し、イートインコーナーで簡単な食事もできる。
駐車場だけではなく駐輪場も完備していて、ライダーにもツーリング先として人気が高い。
撮影のために滑走路の反対側にある航空博物館に行ってみたが、大混雑していたので場所を変えて近くにある「さくらの丘」に移動した。
ここでトリシティのレビューをする。
トリシティは前輪が2輪あるので、前輪回転半径が大きく、その影響で足元は狭い。
シート形状とこの足元の狭さにより、長距離ツーリングには向かないと思われる。
もっとも、時間を気にせず休憩を取りながらゆったり走る分には申し分ない。
インパネはデジタル表示で、視認性は良い。
ベルトやオイルを交換してからの走行距離が表示されるので、メインテナンス時期がインパネで分かる仕組みは車検のないこのクラスのバイクにはありがたい。
北陸新幹線E7/W7系を思わせる美しいフォルム。運転している限りは前輪が2つあることは全く気にならない。
ミラーの形状がデザイン優先なのか、若干見にくいが、これは慣れの問題だろう。
風防は小型ながらも、高速道路を走るわけではないのでこれで十分。
対向車からはものすごく目立つだろう、前輪が2輪のトリシティ。
前輪が2輪ということで、幅が広いのではないかという懸念があったが、特にそれが不便に感じられる場面はなかった。
マンホールや道路補修の跡、わだち等をあえて選んで踏んでみたが、前輪はそこを通過したことがわからないほど滑らかに通過できた。
これは通常の二輪車では特に気を使わなければならない場面なので、その1点だけをとっても安全走行に貢献していると思われる。
特に前輪2輪が絶大な威力を発揮したのは、渋滞時のすり抜け。
千葉県は幹線道路に集中してしまい、抜け道が少ないことから都内よりも渋滞がすぐに発生する。
狭い道でのすり抜けは、縁石や小石や砂等、二輪車にとっては危険極まりない場面の一つだ。
しかし、前輪が2輪あり、それぞれが独立懸架なので段差は乗り越え、石や砂にも滑らず、すり抜けが二輪車よりもスムーズに行えたことには驚いた。
二輪車の根本は走る・曲がる・止まるである。
走りはマイルドで爆発的な加速はないが、実用運転速度域で使用する限りは不満はない。
二輪車は「腰で曲がる」と言われるほどハンドルさばきよりも体重移動が重要。カーブや右左折は普通にリーンウィズ(バイクと体を同じ角度で倒してカーブを抜ける方法)で安定して曲がることができた。
ブレーキも3輪油圧ディスクブレーキで強力に停車することができる。
こうして全行程141.6kmのツーリングは終了した。
今回の試乗で長距離ツーリングには不向きだと思ったが、街乗りや渋滞での通勤・通学には、その抜群の安定性と高燃費(実測30km/lは超えていると思われる)で、初心者にも楽しいバイクライフが送れるだろう。
教習所や販売店では試乗イベントも実施されているようなので、秋のお出かけに風になってみてはいかがだろうか。
※写真は記者もしくは同行カメラマン小野寺稔昭撮影