クンクン…犬の匂い嗅ぎ行動にはワケがある

 皆さんご存知のように犬は地面や物の匂いを嗅ぎます。クンクン….クンクン….結構しつこい程に嗅ぐこともありますよね。散歩中に犬が匂い嗅ぎをしているとき、リードを引っ張って止めさせようとしても「嫌だ!匂いを嗅ぐんだ!」とでも言わんばかりに、抵抗することもあると思います。どうやら犬にとってこの”匂い嗅ぎ行動”は重要な意味があるようです。
 今日は、犬の匂い嗅ぎ行動について、ご紹介いたします。

犬は嗅覚を頼りにする

 ヒトは主に視覚を使って、周囲の状況などを判断します。犬の嗅覚は、ヒトで言うところの視覚に匹敵すると言われています。犬の視覚は、動体視力ではヒトよりも高いスコアを出しますが、映像の鮮明さや、色の再現性などは、ヒトよりも劣るとされています。一方の犬の嗅覚は、皆さんご存知の通りウルトラ級に発達しています。犬は主に嗅覚に頼って、周囲の状況を察しています。
 例えば、犬を始めての部屋などに連れて行くと真っ先に取る行動は、やはりこの匂い嗅ぎです。匂いを嗅いで、この部屋が安全な環境かどうかを探ります。これをヒトに置き換えると簡単に理解できます。ヒトに目隠しをして、始めての部屋に連れて行き、目隠しを取るとします。ほぼ間違いなく、目隠しが外された後、真っ先に周囲を見回して状況を探るはずです。両者の行動は同じでも、使っている器官は違うのです。

周囲に住む犬の事も匂いで判る

 犬が屋外で匂いを嗅いでいる時、他犬の匂いの痕跡を探ります。他犬がマーキングした尿の匂いを嗅ぐのは、その犬のおおよその生体情報を知るためのものと、自分の存在の主張だと言われています。犬は他犬の尿(またはその他の分泌物)の匂いで、大まかな年齢・性別・健康状態が判ると言われています。また他犬がマーキングした尿の位置が高い場合は、その犬の体の大きさも判断しているとも言われます。
 このように、自分のテリトリーの周囲に住む犬達の情報を、この匂い嗅ぎで集めているのです。

マーキングとの関連性

 匂いを嗅ぎ、尿の匂いで他犬の存在が確認されれば、その上に自分の尿をかけてマーキングをします。これは他犬に対してのメッセージでもあります。最初にマーキングした他犬の情報の上に、自分の尿をマーキングして「ここにはオイラもいるぜ!」(男性口調ですが、オスに限らずメスも行います)と主張します。するとまた別の犬が来て匂いを嗅ぎ「いやいや、ここは俺の縄張りだし!」といった具合に情報のやりとりをしています。
 マーキングをして、その匂いを残す。そして別の犬も匂いを嗅ぎ、マーキングして匂いを残す。犬同士の瓦版といったところでしょうか。ヒトに置き換えれば、新聞やニュースを見て社会の状態を知るのと同じです。犬の社会では匂いで互いを牽制しあいます。

匂い嗅ぎ行動はとても重要

 このように犬にとって匂いを嗅ぐという行動はとても重要な意味を持ちます。自分の匂いを縄張りの周辺に残す事で、生活するスペース(縄張り)を確保しています。この習性はイヌ科動物全般に見られるものです。自分の縄張りを主張することで、餌場の確保と安全に生活できる環境を守ります。周囲にいるかもしれない、他の群れや、捕食動物に自分達の存在を知らせる意味もあります。
 犬はこのマーキングで、周囲に自分の縄張りを主張します。縄張り内の他者の匂いを嗅ぐことで、自分の縄張りが安全かどうかも判断します。つまり、外に出て匂いを嗅ぐことで状況を察し、自分の存在の痕跡を残すことで、安心することができるわけです。
 愛犬が散歩中、一生懸命に匂いを嗅いでいる時は、できるだけ付き合ってあげてください。重要な任務であるこの匂い嗅ぎ行動。特に草むらなどは他犬や猫の尿の匂いが気になります。飼主さんの中には「不衛生だから嗅がせない」という方もいますが、それは過保護というものです。犬の習性として、この匂い嗅ぎ行動は欠かせないものなのです。

匂い嗅ぎの注意点

 犬が匂い嗅ぎを行なう際に、注意したい点があります。落ちている他者の糞は回虫などの寄生虫が潜んでいる可能性があります。なので、そっと違う場所に誘導しましょう。また、植え込みなどでツバキの葉の裏には茶毒蛾がいることがあります。茶毒蛾に触れると、かぶれるので注意が必要です。
 
 愛犬の持つ生得的行動である、この匂い嗅ぎ。愛犬には安全な範囲内で、思う存分にやらせてあげたいものです。犬は嗅覚を使うことで、脳の活動が活発になります。ストレスの発散にも大いに貢献します。また日頃から嗅覚使って感覚を鍛えることで、犬の情緒安定にも一役買います。

 それでは、愛犬の皆さん、今日も思いっきり匂いを嗅いでくださいね。

(Top画像は著者撮影の物)

DBCA認定ドッグビヘイビアリスト(犬の行動心理カウンセラー)・JCSA認定ドックトレーナー(家庭犬訓練士)・動物行動学研究者(日本動物行動学会)。 警察犬訓練所でドッグトレーニングを学び、その後に英国の国際教育機関にて”犬の行動と心理学上級コース(Higher Canine Behaviour and Psychology)”を修了。ドッグビヘイビアリストとして問題行動を持つ犬のリハビリを行っている。保健所の犬をレスキューする保護活動にも精力的に取り組んでいる。 動物行動学・心理学・認知行動学を専門とし、犬がペットとして幸せな暮らしができるよう『Healthy Dog Ownership』をテーマに掲げ、動物福祉の向上を目指して活動中。 一般の飼主さんだけでなく、行政や保護団体からの依頼も多く、主に問題行動のリハビリが専門。 訓練(トレーニング)やリハビリの事、愛犬との接し方やペット産業の現状などについて執筆している。 著書:散歩でマスターする犬のしつけ術: 愛犬とより強い絆を築くために(amazon Kindle)・失敗しない犬の選び方-How to Choose Your Dog-(amazon Kindle)

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