風来坊力也の日記
「ホームレス」と聞いてどんな印象を持つだろう?
「怠け者」「ダメ人間」「社会不適合」
そんなネガティヴなイメージが浮かんでくるだろう。
自分は山籠もり7日間生活という生放送企画をした事がある。
山の中、現地の食べ物だけを食べ7日間生き抜くという企画だ。
それは想像以上に大変で、あらゆる概念・常識を踏み越える勇気が必要だった。
水の確保は雨水、なければ泥水を啜った。
食べ物は川でザリガニを取った。
火で炙ると真っ赤になり塩を振ってたべる。(これが驚くほど美味い)
他に昆虫も食した。
セミ、カブト虫、おたまじゃくし、ウシガエル、バッタ、甲殻類は概ねエビカニの味がした。
この企画で生きていく大変さを身をもって思い知った。
普段家の中にいれば雨風は防げる。
蛇口をひねれば水が湧き、冷蔵庫を開ければ食べ物が入っている。
忘れてしまいがちだが、そんな当たり前に常に守られて生きている。
では、そういった当たり前に守られていない人達はどう生きるのだろう。
ホームを失った人の生活に強く興味を持つ。
山籠もり7日間で挫折を味わった自分と違い、いつ終わるとも分からない抜け出せないサバイバル生活を続ける人達。
ホームレスの生活を体験してみたい。
そんな思いから今回の企画は生まれた。
場所は上野公園、金は一切使わず今日1日を生きる。
まずは食料の調達だ。
コンビニで弁当を買うわけにはいかないので当然ゴミ箱を漁る。
日曜日の上野公園、大勢の観光客の目に晒されながらゴミを漁る。
何か柔らかいものを掴み上げる。
…使用済みオムツだった。
なかなか食料は見つからない、
いくつもいくつもゴミ箱を巡り食べ残しを探す。
食べ掛けのタコ焼きだ!
中身のタコは無かったが皮を頂く。
腹を空かせていたせいもあるが、うまかった。
続いて焼きそば、とうもろこし、弁当の残りと続々と出てくる。
1度人が口を付けた物を食す、もちろん抵抗があった。
しかしホームレス生活を始めて3時間、すでに適応している自分がいた。
なりふり構っていられない、空腹を満たすにはゴミを漁るしかないのだ。
まったく無傷のケバブを見つける!思わず歓喜の声を上げた。
大勢の白い目に晒されながらケバブを食す、もうまったく人の目が気にならなくなった。
ケバブは最高に美味かった。
腹が満たされ落ちているタバコのしけもくに火を付ける。
ああ、満たされた。
食い物がある、水は飲み放題、タバコはいくらでも拾える、なにも言う事はない満足だ。
自分の今の状態は客観的に見て完全にホームレスだった。
上野公園に住む先輩ホームレスに話を聞く。
生きていく術を教えて貰おうと話しかける。
鈴木さんという方と知り合う。
鈴木さんはホームレスになって30年になるベテランだった。
気さくで笑顔の優しい人、わざわざダンボールで座布団を作ってくれた。
どうすれば30年もホームレス生活が可能なのか伺う。
驚くべき答えが返ってくる。
「そりゃ働くことだよ」
生きる=働く事。
当然な事なのだが、ホームレスの方から言われると若干違和感を覚えた。
鈴木さんは空き缶を集める仕事をしていた。
1日歩き回りアルミ缶を集める。
その量15kg!数にして1000を超えるアルミ缶を集め回るのだ。
アルミ缶は業者に渡すと1kg154円で買い取って貰える。
15kgで2300円、調子の良い日は1日4000円になり月の収入は8万円にもなるという。
自分もやり方を教わりアルミ缶回収に回る。
開始から2時間、50個程しか集まらなかった。
鈴木さんの様に、4時間で1000個は到底無理。
一体どうやって集めているのか。
そこには鈴木さんの営業力があった。
鈴木さんと提携しているコンビニの数、8軒。
コンビニのゴミ倉庫の清掃をする代わりに、ゴミ箱に捨てられているアルミ缶を回収させて貰っていたのだ。
今からホームレスになった人はに出来ない芸当、相当なコミュニケーション能力と信頼関係がなければ倉庫清掃を任せてはくれない。
鈴木さんはコンビニ店長と仲良くなり、信頼関係を築き、特権を得たのだ。
これは容易く真似出来ない。
鈴木さんの元で勉強をさせて頂く事にした。
ビニール袋にパンパンになったアルミ缶を持って1km先の回収業者まで運ぶ。
これが、かなりの重労働。
一歩進む度、腕に大量のアルミ缶の重みがズシリと伝わる。
何度も休憩を挟みながら前に進む。
しんどそうな自分を見兼ねてか鈴木さんが二つ同時に運ぶ。
67歳の体力ではない、スイスイと進んでいく。
ようやく回収業者まで運ぶ、持ってきたアルミ缶の総重量は15kg。
鈴木さんは2300円の収入を得た。
「鈴木さんいつもありがとうね」
回収業者の人が鈴木さんと、一緒に運んで来た自分にタバコを箱でサービスしてくれた。
ここでも鈴木さんの人柄が功を奏す。
「いつも俺が行くとサービスくれるんだよ」
そういうとクシャクシャっと笑ってみせた。
長年積み重ねた信頼関係があるからこそのサービスなのだろう。
自分は、いつしか鈴木さんのことを『師匠』と崇めていた。
1日働いて得た2300円。
鈴木さんは殆ど役立たずの自分に半分の1150円を渡そうとする。
鈴木さんは、どこまでも優しかった。
「今日は鈴木さんに色々教わりました、それが自分にとっての報酬です」
金は受け取らなかった。
その後コンビニでビールとざるそばを購入、1本のビールで乾杯し2人で飲んだ。
酒など殆ど飲めない自分だが、労働後のビールは気持ちいい程うまかった。
上野駅前で鈴木さんとお別れ。
「また来いよ、俺ここにいるから」
上野公園、不忍池のそばのベンチ、そこが鈴木さんの寝床だ。
なんだか、いつでも帰れる場所が出来た様で嬉しくなった。
ありがとう鈴木さん、お世話になりました。
今回の企画で感じた事、ホームレスは決して怠け者やダメ人間ではない。
むしろ労働意欲の無い者は生きていけない厳しい世界だった。
多くを望まない代わりに自分のペースで無理なく生きている。
だからだろうか、誰しもが優しい。
ホームレスを勧める事はしないが、そういうライフスタイルもあるのだと言う事を知ってもらいたい。
やむを得ずホームレス生活を強いられる人も当然いる。
そこで絶望する事なく与えられた材料で楽しく生きる。
そこには純粋な生を感じた。
生きる事に真剣、死と隣り合わせの生活だからこそ命が光り輝く。
言い過ぎだろうか…でも自分には日々生きる目標に向かい前に進む鈴木さんの姿がとても眩しく見えたのだ。
どこで生きるも同じ苦労がある事を知る。
怠けて生き抜けるほど世の中あまくはないのだ。
企画終了後、カツ丼屋で飯を食う。
ああ、やっぱり温かい飯はうまい。
このカツ丼が何時でも食べられるぐらい頑張って生きて行こう。
そんなハードルの低い目標を掲げてみた自分だ。