なぜナナシスの音楽は、感動を呼ぶのか。その2 岡ナオキにその理由を訊く

  by リットーミュージックと立東舎の中の人  Tags :  

多くの人たちの心に深く刺さり、時に大きな感動を与えてくれるスマホゲーム「Tokyo 7th シスターズ(以下、ナナシス)」。音楽制作ディレクター&クリエイターとして岡ナオキさんは、そんなナナシスの音源制作やライヴのバンドプロデュースなど、2015年以降3年間ナナシス音楽制作の全制作工程に関わり続けています。ナナシスの総監督・総合音楽プロデューサー茂木伸太郎さんとプライベートでも交流があるなど、茂木さんをよく知る人物のひとりでもある岡さんに、今回、茂木伸太郎とはどういう人物なのか語ってもらいました。

註:本インタビューは、2月19日発売の『Tokyo 7th シスターズ COMPLETE MUSIC FILE』収録記事の一部を再編集したものになります。

ひと言で言うと、茂木伸太郎ということでした

ーー岡さんのナナシスとの出会いは、どのような感じだったのでしょうか?

 2015年に僕が音楽制作会社「Numéro.8」を立ち上げたのと同時に、レコード会社の方から茂木さんをご紹介いただきました。そのとき初めてナナシスの作品群を聴いたんですけど、ブレない何かで構築されているなという印象を持ちました。バラエティがあるように感じるんだけど、何か共通するルールがある気がしたので、そのルールを模索するところから始まりました。僕の立場は弊社で音楽制作を請け負って、クリエイターをどう采配していくかというポジションです。まずは僕自身がコンテンツを理解するところが入口でした。作曲家としての参加ではなく、制作会社ですね。結果的にその後自分で楽曲(「スタートライン」)を書くことにはなったんですけど。

ーーそのブレない何かの正体というのは?

 ひと言で言うと、茂木伸太郎ということでした。

ーー茂木さんは、どのような方なんですか?

 これは過去にも答えてはいるのですが、“間違えない人”なんです。すべてにおいて間違えない。とにかく熟慮されますし、その中にご自身のカラーを必ず含ませているんですけど間違えない。必ず意味があります。現場で「こうしたいと思います!」って言われたときに、ハテナが起こることはもちろんあるんですよ。大人数のプロジェクトなので。でも、じゃあ何でこういうことを言ったんだろう?ってヒアリングをしたり空気を感じてると、なるほどなって思える。毎回そこに至る“凄み”というものを感じてますね。特に音楽に関しては「僕は別にプロじゃないので」って本人は言うんですけど、誰よりも鋭いんですよ。僕らが習慣としていて気づかなくなっているものに気づいたりする。そうすると、僕らも立ち返らなきゃいけないなって思わされますね。そういうことがたくさん起きます。

ーーもう少し具体的に聞いてもいいですか?

 たとえば、このジャンルにおいてのギターはこういうものだよね、って音楽家が共通して認識するものがあるとすると、茂木さんは「何か違う」と言い続けるんですよ。一聴すると僕らにとっては「黄色じゃなくて青にしてくれ」と聞こえてるんだけど、実はそうではなくて「黄色の中でも、薄い黄色にしたい」ってことだったりする。その感覚は茂木さんしか持っていないものなので、僕らはその受け取り手として、茂木さんがどの解像度で何を言っているのかをしっかりピックアップしなければならないんです。楽器のことで言うと、ゲイン(歪み)を下げれば良かっただけかもしれないし、ギターを持ち替えなきゃいけないことかもしれない。どれも茂木さんの中では「違う」ということです。僕らはそこに気づかないこともあるんですよ。「定石」という先入観があるので。だから、もっと素直にというか、フラットに見ていかないと、彼を理解できないと思います。

ーーニュートラルな状態で見ることができるってすごい才能ですよね。だから“間違えない”と。

 本当に弱点がない。その言葉がすべてを表しているように感じます。だから、誰かが真似できるものではないと思うんですよね。僕も結構影響されて、物事をちゃんと考えるようになりました(笑)。ナナシスに関してもそうですし、プライベートの「これからの未来どうやって僕らは生きていくのか」みたいな話も含めて、常に僕が僕自身、そして世の中としっかり向き合うようになりました。

バンドの楽屋の雰囲気もよく最高のまま終われた3rdライブ

ーーナナシスの活動の中で、印象に残っている出来事はありますか?

 茂木さんは、ナナシスは音楽が半分を占めているとよく言っているんですけど、最近それが体現されてきていて、3rdライブが生バンドになったこともそうだし、アニメーションMVが付いたシングル「ハルカゼ. You were here.」をあのタイミングで出すというのも、音楽を大事にしているということの意思表示だと思うんです。ゲームコンテンツの中で、音楽をこれほど重要視しているということが、僕にとってはすごいインパクトでしたね。

ーー量産せず、1曲1曲大切に作っている感じがありますよね。

 そうですね。ライブにおいてもそれが一番大変なところです。全曲シングルなんですよ(笑)。だから演奏者は高カロリーのシングル楽曲を全力で演奏し切って、歌い手さんはそれらを全力で歌っていかないといけない。力の抜きどころがまったくない構成になるから、熱量がものすごいんですよね。

ーー岡さんは、ライブだと3rdライブから関わっているんですか?

 はい。3rdライブからです。1stライブも2ndライブも伺っていて、あの2公演も大きく違うものに感じました。1stのときは狙っていたかわからないけど、僕が知っているアイドルを育成する世界、というのが凝縮されていたと思うんです。でも2ndでは、音楽を使ったエンターテインメントになっていた。幅広い人へのアピールがちゃんとできているライブだったなと感じていたんです。

ーー作品を知らなくても音楽ライブとして楽しめるものになっていましたよね。そこから3rdライブへの流れというところではいかがですか?

 まずバンドを生にしようというのは先に打診をいただいていたので、それありきで考えていました。そうすると、バンドアレンジにするにあたって、音楽的なところでの細かな調整が必要になるわけですよね。打ち込みのものを生バンドに仕立てていくのだから。それに関してはバンドディレクターとバンドメンバーがとても優秀な方々だったので、任せていれば音楽的に安心していられるというのがありました。あとは2ndと3rdの違いというところでは、CDを再現するだけではつまらない。だけど大きなアレンジをして、お客さんをがっかりさせるわけにはいかない、という部分のコントロールが一番大きかったかなと思います。曲のつなぎや、グルーヴの部分になってきますけど、そこでも茂木さんは鋭いんです。リハ中に「ここはちょっと違うから、こうしたい」って言うんですけど、それが「言われてみればそうだな」っていうことの連続でした。

ーー打ち込みをバンドサウンドにするのは大変ではないのですか?

 レコーディングを通じて、茂木さんが何を良いと思っていて何を変えたくないのか、または変えたいのか。それは空気で察せるようになってきていたので、やりにくさはあまりなかったです。

ーーでは、大変だったこともあまりなく?

 まったくなかったですね。とにかくバンドメンバーの体力が大変だったっていうだけで(笑)。

ーー2日間で3公演ですからね。

 バンドメンバーはかなり優秀な方々で、年齢的に若手と言えるのはドラムの生田目くんだけだったんです。そんな一流プレイヤーが集まっていたんですけど、楽屋ではバンテリンを身体中に塗っている姿を目撃して、頭が下がりました(笑)。本当にギリギリのところでやってくださったと思います。そんな中でも常に笑いと面白いトークで楽屋の雰囲気を盛り上げてくれていて、本当に最高のライブとして終われたと思います。


『Tokyo 7th シスターズ COMPLETE MUSIC FILE』

『Tokyo 7th シスターズ COMPLETE MUSIC FILE』が2月19日に発売になります。ここで紹介している岡ナオキさんのインタビューの完全版を始め、総監督・総合音楽プロデューサーの茂木伸太郎さんによる全楽曲&アートワーク解説、豪華クリエイター陣/各キャストのインタビュー、篠田みなみさん(春日部ハル役)と高田憂希さん(天堂寺ムスビ役)の特別対談を収録。表紙には描き下ろしイラストを使用し、インタビューページではキャラクターイラストやCDジャケットイラストも交えて掲載。同作の音楽の世界の魅力に迫る1冊です。

2018年2月19日発売

定価(本体2,500円+税)

発売リットーミュージック

ISBN 978-4-8456-3203-9

リットーミュージックと立東舎の中の人

( ̄▼ ̄)ニヤッ インプレスグループの一員の出版社「リットーミュージック」と「立東舎」の中の人が、自社の書籍の愛を叫びます。

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