文豪・梶井基次郎を大人の絵本にしてみたら?「乙女の本棚」について、げみさんに聞いてみた

  by リットーミュージックと立東舎の中の人  Tags :  

乙女の本棚シリーズ最新作は梶井基次郎『檸檬』×げみ

 最近、ゲームなどで日本の文豪が話題ですよね。そういったポップな感じの文豪は楽しいけれど、実際の小説となると、文字だけだし、なんだか国語の授業みたいだし……という方も多いのではないでしょうか?

 そんな方のために、今回はとっておきの本を紹介します! なんと、文豪たちの名作に、現代のイラストレーターが全点描き下ろしで挿絵を描いた、ものすごく豪華なコラボレーションがあるのです。その名も「乙女の本棚」シリーズは、これまでに太宰治『女生徒』、萩原朔太郎『猫町』、太宰治『葉桜と魔笛』、梶井基次郎『檸檬』と4冊出ていて、どれも思わず部屋に飾っておきたくなるほど素敵なんです。今回は、シリーズ最新作の梶井基次郎『檸檬』でイラストを担当した、イラストレーターのげみさんにお話を伺いました。

大人気イラストレーターげみさんに突撃!

ーーー今回は、わりと有名な短編小説にイラストをつける、というお仕事でしたが、普段の装画のお仕事とは違うので、苦労しましたか?

げみ 苦労はしましたが、それ以上に楽しめました。普段描く装画というのは顔なので、どうしても自分の中である程度レシピというものがいくつかあって、それに沿って作業することが多く「遊び」の要素をなかなか入れるのが難しいのですが、今回は挿絵だったので、いつもの仕事ではなかなかできない曖昧な表現にたくさんチャレンジすることが出来ました。この心情にはこんな表現で描こうと考え出すことにとっても夢中になれましたし、楽しくなりました。

本書内に登場するイラストの、制作中のラフ。これに色づけなどをしていくと……

こんなにキレイな作品に!

ーーーイラストを、どういうふうに制作していったのか教えてください。

げみ 編集さんには「自由に描いて欲しい」と言っていただけたのでラフはほんとうに大雑把で「この辺に配置しよう」と決めるだけのラフを制作していました。色味などはなんにも決めていませんでした。モチーフはただの白背景で一度は完成、背景はデザイナーさんにお任せしようくらいに考えていたのですが、これじゃあページをめくっても楽しくないなと思い遊ぶことにしました。

一番はじめのラフ。

この時点では、おはじきの背景は真っ白です。

完成作品には、なんとも言えない質感が!

ーーー『檸檬』の舞台は京都ですが、げみさんは大学時代京都に住んでいたんですよね。当時の生活は、今回の制作に影響しましたか?

げみ そうですね。自分が実際に歩いた場所を梶井基次郎も歩いていたのかなと思うと、急に物語に入り込めるようになる感覚がありました。

ーーー全点書き下ろしのイラストは、人物だけでなく背景も魅力的です。どこかモデルになった場所はあるんですか?

げみ 先ほどお答えしたように、物語に入り込めると、そういえばあそこの建物にはこんな窓があったなとか色々思い出せるんです。なのでところどころにそのままの風景ではないですが、描くようにしました。

ーーーそういった、イラストに使うモデルなどはどうやって集めているんですか?

げみ 自分で歩いて見つけます。雑貨集めも好きなので、物語に出てくる小物も日頃からお店や街で見かけた時に参考に写真を撮ったりしています。

檸檬を売っている果物屋のイラストラフ。ここからいろいろなパターンを考えます。

手書き風にしてみたり……

時間帯を午後にしてみたり……

ーーーげみさんの絵は、本当にきれいですよね。特に『檸檬』では、暗い色の間から光が伸びてくるような、暖かな黄色が印象的です。これは全部パソコンで描いているのですか?

げみ ありがとうございます。すべてパソコンで描いています。表紙はまずモノクロでモチーフをレイヤー分けしながら配置してバランスを取りながら明暗を決めて、そこに色を入れていきました。質感も後から加えていきました。

ーーー今回の本で一番気に入っているイラストはどれですか?

げみ 一番はなかなか決められない性格なんですが、表紙と裏表紙に使われている2枚は気に入っています。あとは夜の電球の絵も気に入っています。やっぱり一番は選べないですね。

げみさんお気に入りの表紙イラストのメイキング。白黒で、背景が徐々に描かれていきます。

カラーにしたら、帯の色に合わせて調整したり、舞台の時間帯をいじってみたり……。こうしてイラストが作られていくのです。

ーーー今回の本の、一番の売りを教えてください。

げみ ページをめくるごとに、梶井基次郎が過ごした1日を味わうことができるように、時間を意識しながら作りました。読み終わった時には、外も暗くなっていると思います。文章の中の時間を絵とともに歩いていただけると嬉しいです。

いかがでしたか? 1点1点がものすごくきれいな絵で、まるで画集と小説が合わさったような素敵な本でしたね。読書の秋、いつもとは違った雰囲気の本を探している方は、ぜひ梶井基次郎+げみ『檸檬』を読んでみてください!


乙女の本棚シリーズ『檸檬』
(立東舎)
著者:梶井基次郎
イラスト:げみ
定価:(本体1,800円+税)

PROFILE
げみ

平成元年(1989年)兵庫県三田市出身。京都造形芸術大学美術工芸学科日本画コース卒業後、イラストレーターとして作家活動を開始。数多くの書籍の装画を担当し数多くの書籍の装画を担当し、幅広い世代から支持を得ている。画集に『げみ作品集』がある。

梶井基次郎(かじい・もとじろう)
明治34年(1901年)大阪府生まれ。同人誌「青空」で活動するが、少年時代からの肺結核が悪化。初めての創作集『檸檬』刊行の翌年、31歳の若さで郷里大阪にて逝去した。

リットーミュージックと立東舎の中の人

( ̄▼ ̄)ニヤッ インプレスグループの一員の出版社「リットーミュージック」と「立東舎」の中の人が、自社の書籍の愛を叫びます。

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