これがクールジャパンの目指す道!『日本コンテンツ愛好家に関する国際研究シンポジウム』開催! キリトさんもいたよ


2月28日、一般社団法人CiP(Contents innovation Program)協議会主催による『日本コンテンツ愛好家に関する国際研究シンポジウム~国際化するオタク文化とコンテンツ産業の振興』が都内で開催されました。今回はその模様と記者の所感をお届けします。

このシンポジウム、そもそもナニ?


コーディネータの中村仁氏(日本経済大学准教授)と平井淳生氏(経済産業省 商務情報政策部 文化情報関連産業課長)によると、経済産業省が今後クールジャパン戦略を行っていく上で『日本のコンテンツがどのようなコミュニティに受け入れられ、楽しまれているのか?』を知るためにCiP協議会等に調査を依頼し、調査の経過報告と情報交換をする場として設けたのが今回のシンポジウム、とのことでした。

つまりこのシンポジウムで話された内容は、国がクールジャパン戦略を進めていく上での参考にされるということです。
アニメや漫画などの日本のコンテンツを楽しむ人や制作にかかわる人にとっては無視できないシンポジウムです。

研究者講演~中国・日本のアニメファンの現場から~

最初のパート『研究者講演』では、国内外3名の研究者による発表が行われました。


文化人類学や言語学を専門とされている王向華氏(香港大学副教授)は

「香港では出前一丁を朝ごはんとして食べる。上におかずを載せて一緒に温める」
「香港ではコーラをホットにし、レモンやショウガを入れ、体調が優れないときに飲む。コーラの黒は漢方の色だから」

などの例から日本人でも海外でも親しまれているものが、同じように受容されるわけではないことを指摘。

日本のコンテンツビジネスの海外発展には、信頼できる海外のエージェントとパートナーシップを組むことが重要、と説明しました。


比較文学・比較文化を専門とされる北京大学准教授の古市雅子氏からは、北京大学の大学生を例に、日本のポップカルチャーの中国への影響について、歴史をひも解く講演をされました。

「古市氏が顧問を務める北京大学のアニメクラブ『Original Fire』のメンバー数は約800人、北京大学内ナンバー2の規模」
「中国ではアニメ・漫画・ゲームのことをACG(Anime・Comic・Game)と呼ぶが、2000年以降はほぼネットカルチャーを指す言葉となった」

などの興味深い話を多数され、最後は「中国のアニメファンは『海賊版でなく本物がほしい』『作品を作ってくれたクリエイターにどうにかしてお金を払いたい』と切に願っています。日本のコンテンツビジネスの海外発展を、彼らのためにもぜひ推し進めていただきたい」と結びました。


東京工業大学大学院教授の出口弘氏(ポケモンGOは無課金でレベル30)は、近年の日本のコンテンツに特徴的なジャンルとして『日常系』を挙げ、『オタクが切り拓いた日常系物語メディアとしての漫画』と題してその特徴について分析・講演をされました。

出口氏は講演の中で、従来の作品では物語の流れ(=運命)に従う存在だった登場人物たちが、彼ら彼女らの日常だけで物語を形成するにいたったことを『運命のフラグをへし折った』と表現し、日常系作品の歴史について江戸時代の絵草子の『気質もの』(かたぎもの)や少女漫画に触れながら解説されました。

調査状況報告・産業界講演

調査状況報告パートでは、CiP協議会の亀山泰夫氏から、28の国と地域、48の日本イベントの主催者に行った調査結果から顕著な事例として以下の3点を挙げました。

1:75%の国と地域で人気作として名前が挙がったのが『ユーリ!!! on ICE』国内外で同じものが同時に受け入れられている
2:日本のコンテンツの楽しみ方としてはコスプレが圧倒的。TV視聴が55.6%、DVD視聴60.0%、配信視聴が82.2%に対し、コスプレは100%
3:キッズ向けの人気作品に関しては日本産作品の割合が比較的低く(他はディズニーなど)、将来にやや不安要素あり

これら調査の詳細については、今後CiP協議会ホームページ(http://takeshiba.org/)にて発表されるそうです。


続く産業界講演では、株式会社アニプレックスの元社長・現コーポレートアドバイザーの植田益朗氏より、現在好評上映中の劇場用アニメ作品『ソードアートオンライン オーディナル・スケール』の海外展開の例を中心に、同社の海外での取り組みについて講演されました。

特に強調されていたのは『国外のアニメファンにも国内のファンと同質のものを同じタイミングで提供すること』であり、様々な具体例を挙げられました。
以下、その一部です。

・『ソードアートオンライン オーディナル・スケール』の公式サイトは国内と北米とでほぼ同じものに。国内外で作品イメージを変えないため。
・ヨーロッパ各国でプレミアム先行上映会を国内と同じ週に実施
・DVDやBlu-rayはハリウッド映画のように安価で大量生産せず、日本と同じ特典満載のBOX仕様で系列・関連会社から直販(この方が海外ファンは喜ぶ)

また締めくくりとして、ファンの反応や感触をつかみながら自分たちの手で海外展開していくことの重要性を説きました。

SAOのサイト、実際に見比べてみました。

『ソードアートオンライン オーディナル・スケール』日本語サイト(http://sao-movie.net/)はこちら。

『ソードアートオンライン オーディナル・スケール』英語サイト(http://sao-movie.net/us/)はこちら。

確かに、イラストだけでなく、キャッチコピーやサイトデザイン、サイトの機能までほぼ同じです。
また、ドイツ語・中国語にも対応していますが、そちらもほぼ同じサイトになっており、世界中のファンに同じものを楽しんでもらいたいという意気込みを感じます。


3DCGスタジオのマーザ・アニメーションプラネット株式会社執行役員の内田治宏氏は、アニメ制作に欠かせなくなった3DCGの制作工程(パイプライン)についての説明と、近年それがゲームエンジンの導入によってより効率的に変化していることについて講演されました。

また、国からの映画製作の支援制度について「だいたいどの国でも製作費の2割から4割が補助されるのに対し、日本は2%。そもそもスタートラインに立てていない」と指摘。文化のタニマチ(後援・パトロン)という意識ではなく、他の国のように産業として構造から支援することの必要性を訴えました。

ディスカッション

最後はCiP協議会理事長の中村伊知哉氏の司会の元、登壇者全員によるディスカッションが行われました。

「日本では若者のメディアはLINEだが中国ではWeChat、情報や作品を受け取るメディアはそれぞれ違う。キャッチアップするには若者をプロジェクトメンバーに入れ、彼らから学ぶことが必要」(王氏)

「陰陽師のゲームを中国で作って日中で展開している例もある。中国は今資本力があるので日本のクリエイターに委託するケースは今後増え、人材流出が危惧される。クリエイターではなくマネジメントの問題」(古市氏)

「海外のオタクはオタクであることを屈託なく自称するが、日本人は違う。90年代の『新世紀エヴァンゲリオン』では「僕はここにいてもいいのか?」がメッセージだったが、2000年代の『涼宮ハルヒの憂鬱』では「私はここにいる」と、時代の流れと共に変化した」(出口氏)

「Netflix や Amazon Video など、様々なメディアが登場しているが、お客さんあってのコンテンツ。そこをしっかり見ていくのが今後の課題」(植田氏)

「CG業界は小さな業界。他業界との交流もあるようでない。まずはいろいろな業界の人と話をしていきたい」(内田氏)

など、他にも様々な意見が出、活発な意見交換がなされ、盛況のうちにセッション終了となりました。

記者の所感

アニメや漫画などのコンテンツが現在国内外でどのように楽しまれているのかの実体を、研究サイド・産業サイド両面の専門家から伺える、貴重なシンポジウムでした。

クールジャパン戦略の目的が、単純に言えば「国内のコンテンツを国外に売ること」であることはもちろんですが、だからこそ本シンポジウムで各専門家が述べた通り、クリエイターと産業、楽しんでくれるファンあってのクールジャパンであり、国はいかにしてそれらを支援していくのかに注力してほしいと感じました。

余談


ソードアートオンラインのキリトくんのコスチュームで登壇した植田氏と中村仁氏のツーショット。

植田氏は海外イベントで「こっちでもコスプレは人気だが、日本ではプレジデントもコスプレするのか……」と海外ファンを圧倒してきたとか。本邦でも相当レアケースです。

※3月3日20時50分追記
植田氏は独自の取材に対し「日本のアニメ関連会社の社長は見習ってコスプレしてほしい」と語った。まさにクール。

□一般社団法人CiP協議会
 http://takeshiba.org/

※写真協力・一般社団法人CiP協議会
※スクリーンショット画像は記者によるものです。
 ©2016 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/SAO MOVIE Project

1980年生まれ / 東京大学大学院情報学環教育部研究生 / SOS団東大支部団員 / 修士(社会学)、アニメ研究の傍ら、アニメ系ライター、ネットラジオ『植田益朗のアニメ! マスマスホガラカ』構成作家、アニメ・特撮番組の企画コンサルティングなどをやっています。好きなアニメ・特撮は『涼宮ハルヒの憂鬱』『機動戦士Vガンダム』『星雲仮面マシンマン』『仮面ライダーBLACK』など(本当はもっと)。お仕事のご相談はFB・twitter等でお気軽に。

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