超小型PCで記事を完成させることができるのか?『LIVA』試用レポート

  by 古川 智規  Tags :  

以前IT Week2015の取材記事(拙稿http://getnews.jp/archives/959385参照)で、超小型PCなるものを見て、使用レポートをすると書いたのだが、そもそもいったいどういうものなのか、展示会の場で聞いたのはアウトラインで、実はよくわかってないことに気が付いた。
そこで、実際に購入して試してみる前に販売代理店を訪ね、この超小型PCについて根掘り葉掘り尋ねてみた。
対応してくれたのは株式会社リンクスインターナショナル、広報担当の阪口貴紀さん。
この超小型PCは「LIVA」という名前が付いている。

・ズバリお聞きしますが、スティック型の方が小さくて安いのではないですか?
「そうですね。スティック型の方が数千円安いです。メモリーは2ギガバイト、CPUも大きな差はありません。違いといえばWindows 8.1 with Bingがスティック型は32ビットですがLIVAは64ビットであるということや、ネット接続がスティック型は無線LANのみですが、LIVAはギガビットLANも使えるかくらいです。LIVAはデスクトップPCと同様な機能性と拡張性は備えていますので、一般ユーザーがメインの1台として使っていただける仕様になっています。」

なるほど、スティック型のネット接続はWi-Fiのみ、LIVAは加えてギガビットLANにも対応している。一般家庭ではLANケーブルを差した方が簡単だ。USBも2.0と3.0がそれぞれ1つ付いているし、HDMIとD-sub両方を使えばマルチモニタにも対応しているので、一般的な拡張性は問題はなさそうだ。

・しかし、こんなに小さくてメイン機とするのはちょっと不安が残りませんか?
「PCはデカいものとの思い込みがあるので仕方がないのですが、LIVAを作っているのは台湾のECSという世界的なマザーボードメーカーです。CPUはインテル製です。メモリーとストレージはマザーボードに直付けです。SSDより遅いですけど、HDDよりは高速なeMMCという記憶装置を積んでいて、発熱がさほどないのでCPUファンはありません。完全なゼロスピンドル(HDDやDVDドライブ、ファンのように可動部分がない)ですから、多少の衝撃で壊れることはありませんし、静音どころか無音です。」

確かに、最新のスティック型PCにはごくごく小さなファンが2つも付いている。しかし、それでもメイン機には…。記者は食い下がる。

・記憶装置の容量が32ギガバイトや64ギガバイトでは小さすぎはしませんか?
「最近はクラウドやテラバイト級の外部記憶装置を使っているのはないでしょうか?ということは、ユーザーがお作りになったファイルや、写真や動画データを本体にずっと記憶する必要はないと思います。USB3.0に対応していますので、高速HDDを外付けしてもいいですし、ギガビットLAN対応ですからNASというネットワークHDDをルーターやハブにつないでおけば、スマホのデータもいっしょに管理できます。」

もはや一般的な使用において突っ込みどころはなさそうだ。ちょっと話題を変えて、どういう購買層を想定しているのか聞いてみた。

「先ほど申しましたように、マニアの方の研究用から一般の方の買い替え候補、最初の1台でもいいと思います。弊社が特に申し上げたいのは、WindowsXPをお使いの方です。PC自体は使えるけど、セキュリティーは穴だらけ。でも買ったときには十数万円したので、買い替えとなるとちょっと…という、乗り換えが出来なかった方です。2万円台で最新のOSが入ったPCがあるとは夢にも思ってないわけです。デスクトップPCをお持ちなら、LIVAはHDMIだけではなくD-sub出力にも対応していますので、古いモニターもマウスもキーボードも流用できます。少なくとも古いXP機よりは格段に早いはずです。そういう方に、こんな選択肢もあるということを、まずは知っていただきたいのです。」

XPからの乗り遅れ組は確かに不安を抱えたままだろうし、そもそも危険極まりない。しかし、だ…。まだ文句を言いたげな記者に阪口さんが言う。

「では、せっかく取材にいらしたのですから、これで記事をお書きになってはいかがですか?」
無論、使用レポートを書くつもりで、不安をぶちまけるために取材に来たのだからそのつもりだが…。

「記事をお書きになるときはカメラから写真を取り込んで、キーボードで記事を書くんですよね?その作業をすべてLIVAだけでやってみてはいかがでしょうか?たぶん大丈夫だと思いますよ。」

なんと、単にLIVAについて記事を書けということではなく、LIVAだけを使って記事を完成させろという提案だった。
それは面白い。確かに写真はコンパクトフラッシュから、PC上で補正を施しリサイズして要件に沿う形式にしなければならない。それも一度に数十枚から数百枚を選択しながら処理する。
さらに、記事本文はテキストエディタで書くが、それをCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)上で写真と組み合わせて記事にしていくので、トロトロしていたのではストレスがたまる。
それを全部このちっちゃいPCにさせろと言うのか?不安だ。ものすごく不安だ。

「それでは、デモ機をお貸ししますので、記事が完成するまでご自由にお使いください。」ときた。
そこまで言われては嫌とは言えないので、実力拝見。使用レポートから試用レポートに転換だ。

記者の自宅では5年以上前のデジタルテレビのD-subにWindows7機を接続している。HDMIはケーブルテレビのボックスがつながっている。一時的に外してLIVAを付けたとしても不便だ。
それに、マウスとキーボードも問題だ。物理的にはワイヤレスのタッチパッド一体型のキーボードを用意すればひとつで済むが、Windows7機のキーボードとマウスがあるので2つは邪魔だ。

いずれにせよ、LIVAを起動させてセットアップはしなければなるまい。
とにかくHDMIでテレビと接続し、ワイヤレスキーボードをUSBドングルで接続して、ネットの接続はWi-Fiにして、まずは使えるようにまではしよう。手持ちにBluetoothキーボード、マウスがあれば、もちろん使用可能なのだが無いものは仕方がない。

そして、Chromeをインストールしてgoogleアカウントで同期を取り、Chromeリモートデスクトップを使えるようにする。
この段階で、LIVAからHDMIケーブルとUSBドングルを外し、つながっているのは電源だけとした。
これで、Windows7機からChromeリモートデスクトップでLIVAを操作することができるので、マウスもキーボードも不要。電源だけにつながったLIVA本体はその辺に転がせておく。ゼロスピンドルで電源コードしかつながっていないので、縦でも横でも斜めでも、好きなところに好きな方向で置いておけばよいだろう。

引き続いてWindows Updateを適用して環境を整える。余計なアニメーションは切ってページングファイルを2ギガバイトに固定する。
写真のリサイズはフリーソフトの「リサイズ超簡単!Pro」を選択。一括リサイズが縦でも横でも柔軟にできるので便利だ。
テキストエディターはWindows標準装備の「メモ帳」をそのまま使用。
これで準備完了。

一眼レフで撮影した写真はマルチカードリーダーをUSBに接続して、Windows7機で撮ったスクリーンショットはUSBメモリーからLIVAにコピーする。

コピーが終わったら、記事に使う画像の選択。
画像に必要な修正や補正を施して、所定のファイル形式、サイズに一括変換する。

続いてメモ帳で記事本文を書く。
校正が終わると常用漢字のチェックをして、引っかかった漢字を言い換えや、かな表記にする。
そしてサーバーへ転送して校閲だ。

ブラウザを立ち上げ、CMSを使ってサーバーに画像をアップロードして、記事を組んでいく。
組み終わったら、記事を公開。こうして今お読みの、この記事が公開される。
写真は撮影用に記者個人のCMSに仮に作成したもので、実際の本文とは若干異なるのでご了承いただきたい。

感想としては、高性能機に取って代わるものではないのは当然としても、この程度の作業ならば何の苦も無くできるので、一般的なネットサーフィンやメールのやり取り、ブロガーさんまで問題なく使用できるだろう。

ついでに、オフィススイートは使えるのかどうか、Libre Office 4.4.3.2 for Windowsをインストールしてみた。
マイクロソフトオフィス2013用のワード、エクセル、パワーポイントサンプルファイルを開いてみたのだが。特に問題はなかった。

この超小型PCは、このような一般的な用途はもちろんだが、アイデア次第で面白い使い方ができると思われる。
例えば、出張で忙しいビジネスマン。滞在先のホテルのテレビはたいていHDMI対応だろう。ケーブルとACアダプターを持っていけば、家で作業した環境というかPCそのものが、そのまま出先で使用できる。ネット接続はLANケーブルでもWi-Fiでもお好みで。
キーボードとマウスは持ち歩くわけにはいかないが、リモートデスクトップでスマホから操作することは可能だ。

ちなみにACアダプターは240ボルト対応で海外用変換ソケットも付属しているので、海外でも使用できる。
電源プラグはAndroidスマホでおなじみのマイクロUSBなので、動作保証外ではあるが2.5アンペア以上の容量があれば、スマホ用の外部バッテリーでも起動した事例があるというので、ACアダプターすら不要かもしれない。
逆にいうと、LIVAのACアダプターは5ボルト出力なのでスマホも充電できるし、LIVAを使いながらUSB充電することも可能だろう。

音声出力は4極ミニプラグ対応なので、スピーカーでもスマホで使用しているヘッドフォンでも好きなものを差せばよい。スティック型はHDMI経由でしか音声が出せないのでこれは有利な点だろう。

外部にDVDドライブを接続すればインテルのHDグラフィックスチップ搭載なので、DVDの視聴も可能だ。さすがに3Dゲームをガンガン使うのは無理だろうが、ゲーマーは高性能機を持っているのでこればかりは選択の対象外だろう。

デモ機を提供していただいた株式会社リンクスインターナショナルはLIVAの販売会社ではなく総代理店なので、購入は通販や家電量販店でということになる。同社は例えば自動車のラジエーターのようなCPU水冷クーラーやケース等のPC関製品の卸販売をしているので、個人ユーザーが取引する機会はほとんどない。しかし秋葉原で手にするそのパーツは、同社が取り扱っている製品なのかもしれない。

使う人によってメイン機にもサブ機にも、またおもちゃとして手軽に買って気軽に遊べるPC。
お子様の部屋にテレビがあるのなら、ちょっと乱暴だが、テレビの裏に貼り付けてあげればテレパソの出来上がり。
仮にテレビの裏に貼り付けた場合でも、最高で15ワット、アイドル時は3-4ワットしか消費しないので、もちろん省エネの観点からは切るに越したことはないが、常時投入でも問題はなさそうだ。真夜中にアップデートをしてくれるから、いつも最新のOSで安心かもしれない。

それにしても「ちっちゃいからと言ってバカにするなよ!」という声がLIVAから聞こえたような気がする。
さてと、この記事が無事公開されたのを確認したら、記者はLIVAを返却に行ったその足で、少しでも安いLIVAを求めてアキバをうろつくとしよう。

※画像は記者撮影、一部商品画像は株式会社リンクスインターナショナル提供
 取材協力 株式会社リンクスインターナショナル

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