「うつ病」に対するチェックポイントなども、少しは世の中に広まって、誰もがネットで一度くらい自己診断したことはあると思います。
以前の勤め先でも、役席者のほぼ全員が「うつ病」チェック・シートの大半の項目がyes、「うつ病確定」になり「やっぱりなぁ」となりました。さすがに、WHO(世界保健機関)の調査でも分かるように、受診率は最下位(重度データなし・中度は最下位・軽度は下から二位.2009年)、自殺率トップ(先進7ヶ国対象)の日本らしい職場風景です。
そこで、うつ病の顕著なチェック項目である「食欲低下」とか「睡眠障害」とか「興味の減退」とかについて、誰でもなんとなく頭に刷り込まれているはずです。
朝は体が鉛のように重いし、会社では気分最低、労働意欲なんてゼロ、ストレス過剰でとても毎日が辛い…. もしかしたら、私も「うつ病か?」
で、こんな風に自己診断するわけですね。「私はメタボの警告されているくらいよく食べるしなぁ」とか「いつも疲れてバタンキューで寝てるし」「休日はバリバリ遊んでるぞ」だから、私は大丈夫ってことか!
ところが、今、首都圏を中心に急増している新型「うつ病」、つまり非定型うつという症状は、その名のとおり、従来の「うつ病」(メランコリー親和型)というものの特徴を示さない非定型なんですね。食欲は過剰なほどに旺盛だったり、睡眠障害にも縁遠いし、趣味や娯楽には意欲的、でも、「うつ病」として成り立っています。すでにDSM-Ⅳの診断基準まであるくらいです。
しかも、この非定型うつは、プチ・うつとか軽症うつとか表現を変えていますが、ある意味で「新型」とでも名付けた方が良いほどに、チェック・ポイントが従来型とは異なるんです。希死念慮(死にたいと希求する)も弱いし、ちょっと励ますと元気になったりするので、接し方にも違いがあります。また、日内変動といって、従来型のうつ病が、夕方にかけてエネルギーが減少するように気分低下していくのに対して、こちら新型うつ病は、真逆のラインを描きます。つまり、仕事が終わる頃になると元気が出てくる…。
それでも、ストレス環境の中にいる内、つまり学校や職場で「うつ」状態そのものなんですね。(中には家がストレスで「帰宅拒否症」になるケースもあります)
悪化すると、朝、時間で起きなければならないとき、体が鉛のように重くなって、本当に動けなくなります。これを鉛様麻痺(えんようまひ)といって、心の強力な拒絶反応が体を動かせなくしてしまっている、つまり心のメッセージが身体言語となって顕れた、というものです。
あと、人からの批判に以前に比べて妙に敏感になり、今まで気にとめなかったことまでひっかかり、ドンと落ち込んでしまう、などという「拒絶過敏性」も特徴です。元々が真面目でテキスト通りの人がこの手の病気になりやすいので、人からの批判に対する神経質な因子は昔からのものでしょうが、それが「過敏」になるわけです。
でも、たとえば、病院にいって、「1ヶ月の静養を要す」と診断書をもらい休職したりして、遊びや趣味に関しては元気を取り戻すタイプの「うつ」なので、休職期間中は見違えるように調子がいい。そこでうっかり旅行になんて行ってしまい、それが会社に知られると「仮病」扱いされる。そんな悲劇も起こるんです。「うつ病の人にそんなパワーがあるわけないだろ?」と。つまり、冒頭のチェックシート知識によって断罪されるんですね。
今では全うつ病の30なしい40%、最近では50%にも迫る勢いの「新型うつ病」。
今年7月に厚労省が方針を発表、精神疾患を国民の健康重点課題に加えて「5大疾病」時代の到来となる今、さらにもう一段、「うつ病」への知識を深めて、本人の自己チェックも、また周囲の人の知識・理解も精度を上げないと、メンタルヘルス後進国になってしまいます。
また、「うつ病」は、人格の障害でもなく、精神の障害でもなく、「気分障害」という国際分類の上位概念になっています。だから、気になったら医者なりカウンセラーなりに相談しましょう。社会に適応している人の方が「感覚麻痺」状態なんですから、少しくらい調子がおかしい方が「まともな感性」ってことです。