西東京代表、日本大学第三高校(以下、日大三)の優勝で幕を閉じた第93回高等学校野球選手権大会。
プロ注目の好投手も多く出場する中、日大三の投打に渡る圧倒的な力が目立った今大会であった。
話は変わるが、皆さんは“マモノ”というものをご存知だろうか?
昔から「甲子園には魔物が棲(す)む」と言われ、無難な打球の処理ミスから始まった信じられないような大逆転劇や、下馬評を大きく覆す下克上の戦いが数多く繰り広げられてきた。これらのドラマ性の高い試合を俗に“マモノの仕業”と呼び、甲子園観戦における一つの名物になっている。
また、デフォルメ化されたマモノのAA(アスキーアート)も数多く作られ、2ちゃんねるの実況板を中心に大会中は盛り上がりを見せているようだ。
今大会で言うと八幡商業(滋賀)が9回1死から逆転満塁本塁打を放ち、優勝候補の一角であった帝京(東東京)を破った試合や、智弁学園(奈良)が9回2死から8点を奪い、横浜(神奈川)を下し奈良-神奈川対決を11連敗で止めた試合などが記憶に新しい。
そして、記録を紐解いてみると、ここ数年の夏甲子園決勝における“マモノ”の出現率が大変高いことが分かる。
・2004年 駒沢大学付属苫小牧(以下、駒大苫小牧)(南北海道)-済美(愛媛) 駒大苫小牧・県勢夏初優勝
長い積雪期間や炎天下での練習を行うことの困難さから、甲子園での活躍が難しいと思われていた北海道勢が初優勝。決勝戦では9回2死1、3塁、本塁打で同点というピンチで打者・鵜久森淳志(現日本ハム)を迎えるも、遊飛に打ち取り初優勝。また、駒大苫小牧はこの大会でチーム打率の大会記録を更新(.448)。
・2005年 駒大苫小牧-京都外大西(京都) 駒大苫小牧・夏二連覇
田中将大(現楽天)を擁して1947、48年の小倉中以来の夏二連覇。京都外大西は1年生の本田が好リリーフをするも及ばず。
・2006年 駒大苫小牧-早稲田実業(以下、早稲田実)(西東京) 三連覇王手VSハンカチ王子、延長15回引き分け再試合の激闘
1931~1933年に中京商(現中京大中京)が成し遂げて以来の夏三連覇に王手をかけた駒大苫小牧と、ハンカチフィーバーで話題性抜群の斉藤佑樹投手擁する早稲田実の一戦。延長15回の引き分けを挟んだ翌日、早稲田実はエース斉藤の連投で粘る駒大苫小牧を振り切り、4-3で勝利。27回目の出場にして初優勝を果たした。また、この大会で斉藤佑樹投手が使用したハンカチを買い求める人が相次ぎ、“ハンカチ王子”の名とともに大きな社会現象とまでなった。
・2007年 佐賀北(佐賀)-広陵(広島)ミラクル佐賀北・逆転満塁本塁打で初優勝
8回裏の攻撃開始時点で0-4のビハインド、わずか1安打、出たランナーはたったの3人と、広陵のエース野村に完璧に抑え込まれていた佐賀北。しかし、安打と四球を絡め1点を返すと、続く3番副島は3球目をフルスイング。高く上がった打球はレフトスタンドに吸い込まれ、5-4と一気に試合をひっくり返した。続く9回も抑え、佐賀北が大逆転で初優勝。
・2008年 大阪桐蔭(北大阪)-常葉学園菊川(静岡) 決勝戦史上最多得点差タイ記録 17-0
現西武の浅村等を擁する大阪桐蔭対常葉学園菊川の一戦。大阪桐蔭は初回から故障と疲労で万全の調子ではなかった常葉菊川のエース・戸狩を攻め立てる。6回までで12-0と大きくリードした大阪桐蔭はなおも攻撃の手を緩めず、終わってみれば21安打17得点で関西学院中が持つ決勝最多得点差タイ記録に並んだ。
・2009年 中京大学付属中京(以下、中京大中京)(愛知)-日本文理(新潟) 日本文理・9回2死から5点を返すも及ばず
春夏通じて初の決勝進出となった日本文理対11度の甲子園優勝を誇る名門・中京大中京。小刻みに点を重ねた中京大中京が8回裏終了時点で10-4と大きくリード。中京大中京、9回表のマウンドには試合途中からライトに回っていたエース堂林(現広島)を再び上げる。三振、遊ゴロと無難に2死を取り、続く打者も2ストライクと追い込むが、ここから日本文理が猛反撃を見せる。四死球3つと4本の長短打を絡め一挙に5点、尚もランナー1,3塁一打同点の場面で8番若林の痛烈な打球はサード正面のライナー。崖っぷちからの執念の追い上げもあと一歩及ばなかった。
・2010年 興南(沖縄)-東海大学付属相模(以下、東海大相模)(神奈川) 興南・沖縄県勢夏初優勝&春夏連覇
春のセンバツを制し、春夏連覇の権利を得た興南は決勝で東海大相模(神奈川)を13-1で下し、県勢初の夏制覇と1998年横浜以来の春夏連覇を成し遂げた。左腕トルネード島袋と150キロサイドハンドの一二三(ひふみ)、二人の好投手の投げ合いは、春夏連覇に燃える興南、島袋に軍配が挙がった。
この他にも、72回、73回選手権大会の沖縄水産2年連続準優勝や、73回選手権大会の松山商業・奇跡のバックホームなど枚挙に暇がない。
今年の決勝は日大三の打線が爆発し、残念ながら“マモノ”が出現したとは言い難い試合となった。しかし、選手の疲労と観客の熱気がピークに達し、3年間の集大成として頂点を決める夏の決勝では、それを後押しするように“マモノ”も派手に動き回りたくなるのだろうか。来年以降の決勝にもまた、注目していきたい。
画像引用:『flickr』 http://www.flickr.com/photos/ryosalem/208972092/