「10.7ガザ危機」から1年「憎しみ」を断ち切れ!「停戦を、今すぐに。」

  by tomokihidachi  Tags :  

[筆者撮影]
<リード>
 2024年10月7日で、パレスチナ・ガザ地区の戦闘が始まってから約1年が過ぎた。
 今年10月4日付で「ガザ保健省」が公表した「死者数」は41,802人。「負傷者数」は96,844人。「国連人道問題調整事務所(UNOCHA)」による統計で「国内避難民(IDPs)数」は190万人にも上る。
 つい先日まで、イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相とレバノンのシーア派武装組織ヒズボラの最高指導者ハサン・ナスララ師間で「停戦合意」の実現へ向けて一致した進展が見られた。
 だが、「イスラエル国防軍(IDF)」は今年9月26日、イスラエルがレバノンの首都ベイルート郊外にあるヒズボラ中央本部を空爆。最高指導者のナスララ師ほか、ヒズボラの空軍部隊のムハンマド・スルール司令官や南部戦線を指揮していたアリ・カラキ司令官など複数のヒズボラ幹部を殺害したと声明を出した。これを受け10月1日深夜にイランの革命防衛隊が声明として、ハマスのハニーヤ政治局長、ヒズボラのナスルッラー書記長、及び革命防衛隊のニールフォルシャーン准将殺害に対する報復攻撃として、数十の弾道ミサイルをイスラエルに向けて発射したと主張するなど「報復の連鎖」が繰り返されている。イスラエルメディアによると、イランの弾道ミサイルは約180発で、テルアビブ、南部のネバティム基地、ディモナ等にも落下したが、多くが迎撃されたと伝えられた。
2024年10月9日には米国防総省のロイド・オースティン国防長官とイスラエルのヨアヴ・ガラント国防相が9日にワシントン近郊で会談を予定していた。イランへの報復攻撃などを協議するものと見られていたが、米国防総省は8日、ガラント氏が訪米を延期したと発表。国防総省のサブリナ・シン副報道官は記者会見で、ガラント氏の再訪米の時期は不明と説明。両国防相は頻繁に電話で会談しており、緊密に連携を取っていると強調した。

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<リード>
【1】イラン後援のヒズボラなど「抵抗の三日月」とイスラエル間の報復連鎖で爆発的に発生したレバノン難民
【2】ヒズボラはただの武装組織ではない国家第2の民間人の雇用主のようなもの
【3】国連平和外交にてイラン、アルジェリア、レバノンの存在感
【4】再びイランの「核施設」標的か?「欧米のプロパガンダ」の鎮静化を図れ
【5】ガザ市民の声を知って「NGO共同声明『停戦を、今すぐに。』」
【6】「国際社会の『主役』とは誰か?」国際NGO5団体の登壇者に問う
【7】「それでも、私は憎まないーーあるガザの医師が払った平和への代償」上映記念イゼルディン・アブラエーシュ博士講演
<結び>
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[©︎BS TBS「報道1930」「ハマス襲撃から1年 解き放たれたイスラエル人の思い」(2024年10月7日)]

【1】イラン後援のヒズボラなど「抵抗の三日月」とイスラエル間の報復連鎖で爆発的に発生したレバノン難民

今般の唐突な暗転直下の9月末から10月上旬にかけてイランのイスラエルに対して行われた軍事攻撃は、今年4月に行われた「真実の約束作戦」に続く第二次「真実の約束作戦」だという認識がある。その4月当時のイスラエルへの報復攻撃の際、イランのエスファハーン核施設の防空データを標的とした戦略が取られ、今後もそのイランの抱える核施設を再び標的にされる可能性があるリスクが危惧されている。
 
「Democracy Now!」にゲスト出演した、レバノン研究者で国際派弁護士、「アラブ改革イニシアティブ」のナディム・ウーリー事務局長によれば、2006年に起きたイスラエルレバノン侵攻と2024年今次起きているレバノン危機を巡るイスラエルとヒズボラを支援するイランの対立構造はリフレインするという。「イスラエル軍は一日で500人を殺害しました。その中でもレバノンで最も死者数が多かったのは1990年に終わった内戦以来、100万人単位の人々の移動があった事実からなのだ。今次空爆により「国内避難民(IDPs)」が爆発的に発生したことに対する「保護」あるいは「避難計画」として、レバノン政府は今や全ての公立の学校を避難場所として開放している。首都ベイルートには暫定的なシェルターもその学校の敷地内に設置するのみならず、国家を跨ぎサイダ市やスール市のような南部の都市における山岳レバノンにおいても何らかの対策を講じているようだ。イスラエルはその国境の北部に極めて威圧的な圧政を敷いており、人々は皆、リタニ川の北部から離れて南部最大都市のスール周辺主要な街を含む場所へ移動している」という。

 一方、第3回「アジア協力対話(ACD)サミット」開催期間中、2024年10月5日にカタールの首都ドーハで「湾岸協力会議(GCC)」諸国外相とイランのアッバス・アラグチ外相は、歴史的会談を行った。
朝食会の席で「停戦仲介交渉」に入ったカタール首長のシェイク・タミーム・ビン・ハマド・アル・ターニー氏は「今起きているのは『集団的ジェノサイド』だ」とアラグチ氏を指弾した。「我々は停戦と攻撃を止めるためにも深刻な尽力を呼びかけなければならない。レバノンの領土上でのイスラエルの占領により引き起こされたこの戦火を止めるべきなのだ。安全保障はただ平和だけを成し遂げることなくしては遂行することができない。そしてこのことは独立したパレスチナ国家を確立することによる以外の我々の地域の安寧はないということなのだ。1967年6月4日の国境上にある、首都としての東エルサレムと共にある。」と。

【2】ヒズボラはただの武装組織ではない国家第2の民間人の雇用主のようなもの

[©︎「Human Rights Watch」Nadim Houry]

再び前出のレバノン研究者で国際派弁護士、「アラブ改革イニシアティブ」のナディム・ウーリー事務局長のインタビューに話を戻そう。ウーリー氏は約10年間以上、国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」エルサレム事務所で職を全うしてきた。なぜ、レバノンの市民たちが殺害されなければならなかったのか?そこには実際に2つの理由があったのだ。私は2006年に起きたイスラエルのレバノン首都ベイルート侵攻の戦争全体を通して33日間を同地で過ごしてきた。例えば2024年の今次起きている私たちが目撃した「医療センター」を狙った昨晩の攻撃だが、そこにはイスラエル側からの何の申し立てもなく、ずっとイスラエル軍はあらゆる軍事的対象物を空爆してきた。
私たちは2006年にもこのような多くの攻撃を目撃してきた。その時私たちが見たものと2024年の今日起きている多くの攻撃とは、ほぼ同様のパターンなのだ。ではなぜ、実際、殺されてしまったレバノンの20人以上もの医療従事者という犠牲を払わなければならなかったのか?彼らの多くはヒズボラと提携していた。ここで私たちが気づくべきなのは、幾つかの報告によれば、「ヒズボラは明白に私たちが知り得るただの武装組織ではない」ということだ。彼らは様々な民間の役職や何らかのサービスに従事するマンパワーを保有している。それはおそらくレバノンで10万人以上の従業員を養っている国家的な第2の大きな雇用主のようなものなのだ。

第二に、そのような実際の多すぎる死者数の主要な理由として、2006年にイスラエルが陣頭指揮を取った「ダヒエ・ドクトリン」と呼ばれる敵対政権に圧力をかけるために民間のインフラを破壊することを含む「イスラエルの軍事戦略」があった。『ダヒエ』とはレバノンの首都ベイルート南部に位置し、そこでは基本的にイスラエルが大量で不釣り合いな部隊を民間人の居住地や民間を対象に「武力行使」することを決断することであり、ヒズボラが「連座」や「抑止」を受ける類の手段として支援され得たものだ。今や私たちは2006年と同種のパターンを目撃しているのに過ぎない。我々は2024年9月末から10月上旬の過去10日間においてもダヒエへの空爆の強化の中で見ているものは全く同然なのである。
その答えで「なぜ我々がそんな異常に多すぎる民間人の死者数を目撃しているのか?」という問いに説明がつく。
[©︎”Don’t Do It”: Lebanese Lawyer Warns Israel Against Using War to Create a “New Middle East”<Democracy Now!>(2024. 10.3)]

【3】国連平和外交にてイラン、アルジェリア、レバノンの存在感

 2024年9月23日にイスラエル軍がレバノンを大規模空爆した翌日の同月24日には、国連総会の一般演説が行われた。イランで新しく選出されたマスウード・ぺゼシュキヤーン大統領が「レバノン危機」を指して同年9月23日、イスラエルがレバノンを狙った空爆を行ったと非難。イランが支援してきたシーア派武装組織「ヒズボラ」に対し空爆の陣頭指揮を取ったことを批判したのだ。それは少々時間を戻すと2024年5月20日午前、<イラン国営メディア>はエブラヒム・ライシ大統領(当時)やホセイン・アミル・アブドラヒアン外相ら(当時)を乗せたヘリコプターが同月19日、同国北西部で墜落し、大統領と外相が死亡したと報道されたイラン、トップの突然の死を巡るデリケートな政治状況であったとしても、同年9月23日以来、攻防戦はさらに拡大している。未だ止まない紛争の影響で、既存の脆弱性により公衆衛生が悪化の一途を辿っている。

[©︎United Nations : ‘Hell is breaking loose in Lebanon,’ Guterres warns Security Council
(2024.9.25)]

 [筆者コラージュ]

9月25日に開かれた「国連安保理事会」では、アントニオ・グテーレス事務総長が拡大の一途を辿るイスラエル軍とヒズボラの武装組織の戦争をイスラエルとレバノンの実効支配地域を区分する「ブルーライン」を超えて長引かせないよう「足並みを揃えて働くように」と国連安保理各締約国に対応を急がせた。
 グテーレス氏は「危機的状況にも拘らず、我々の平和維持の立場は変わらない」と語り、「国連レバノン暫定軍(the UN Interim Force : UNIFIL)」を参照し、ほとんどの民間人個人は暫定的に移転を余儀なくされているのだが。「民間人は保護しなければならない。民間のインフラは最も標的にされてはならないものだ。全ての面で我々に一つの明白な声の中で発言させなければならない。それは殺害と破壊を止め、レトリックや脅威にトーンダウンさせる。危機から逃さなければならない」とグテーレス氏は強調した。

かつての再来で、レバノンが直面しているのは「露骨なイスラエルの侵略を残忍な侵略であり、嫌われ者としての侵略だ」とアルジェリアのアフメド・アタフ外相が訴えた。
安保理ではそこで何が起きているのか攻防が拡大していく政策の不可欠な部分がある。イスラエルは中東も意図的な戦略として利用している。」とアタフ外相は述べ、「全ての犯罪要素は共に来たりて今や、イスラエルの占領に従っている。彼らはガザでしてきたことのようにレバノンでも同じことを続けているだけだ。」として「このことは平和に対する罪だ」と続けて「侵略罪は人道的、戦争犯罪、ジェノサイドに対しての戦犯だ。換言すればレバノンを変え、新たなガザを作り出してしまうことが想定されるだろう」と指摘した。

レバノンのナジブ・ミカティ暫定首相が「我が国はその主権と人権に対する露骨な違反に直面している」とし、レバノンは電子サイバー侵略と、航空・海事侵略の犠牲者だ。そのことは地上侵略に変わり、全面的な地域戦争になる可能性がある。」と警告した。
「我々は今日、以前経験したこともないような攻防拡大を目撃している。我が国の人々を害するような新たな道具…ポケベルのような。特に電子的な道具に訴える手段に(イスラエルが)出ているのだ」という。
「その侵略者たちは、唯一戦闘員を標的にした兵器だと主張しているが、私はあなた方に再確認させる。レバノンの病院は24人もの女性と子供達を含む民間の負傷者で満杯になっている。」
ミカティ氏は「安保理の全ての締約国の共同努力を基にした深刻な解決策を以ってイスラエルに我が領土での安定性と安全保障を修復させるために、全ての面で即座の停戦を成し遂げるよう圧力をかけて欲しい」と議場を後にする際に希望を滲ませた。
[©︎United Nations “Hell Is breaking Loose in Lebanon, ”Guterres warns Security Council]

【4】再びイランの「核施設」標的か?「欧米のプロパガンダ」の鎮静化を図れ

イランの「核」に関して言えば、今年6月5日に「IAEA理事会」がイランに対してIAEAの要請に応じるよう求めた「英独仏の非難決議案」が賛成多数で採択されており、決議案に「賛成」した国は20カ国で「棄権」した国は12カ国、反対した国は中露の2カ国であり、中国とロシアは前回決議と同様の「反対」であった。
英仏独の主張として、イランはIAEAとの「共同声明」から15ヶ月を経てなお問題解決の動向が見えず、IAEAへの協力の遅滞はその間に同国の核活動を軍拡に行使しないようすべきであり、今こそ行動を起こす必要性がある旨を挙げていた。
米国も現在イランが以下、少なくとも3点から
(1)IAEAとの保障措置協定に基づく法的義務を履行していないこと。
(2)核ドクトリンの再考の可能性と核兵器を製造するに足る能力の保持を声高に主張していること。
(3)フォルドウにある堅固に要塞化された地下のウラン濃縮施設で濃縮度60%のウラン生産などの活動を拡大させていること。
 など、イランの核活動を問題視しているとの懸念を表明している。

 さらに国連安保理がイランとの「包括的共同作業計画(JCPOA)」を承認したイラン核問題に関する国連安保理決議2231(2015年)に基づいたJCPOA採択の日(2015年10月18日)から10年後の2025年10月には国連安保理がイランの核問題に関する審議を終了する可能性がある。故に今次の決議はイランの核計画を平和的目的のものに止めようとする国際社会にとっての変曲点になる趣旨に言及した。

 これに対し、イラン外務省は上記決議案を非難し、同国は核兵器不拡散条約(NPT)及びIAEAとの保障措置協定に基づく法的及び国際的義務に沿ってIAEAとの技術協力を継続することをコミットしていることや今次IAEA理事会の決議とは「平和的目的の原子力プログラムを推進し、関連する国際条約下の義務に沿って原子力開発計画を実施するというイランの決意に何の影響も及ぼさない」と主張。同国の既存の方針や行動を変える意思はないことを明確にした。
[©︎ISCN Newsletter No.0332-August 2024]

今次サウジアラビアは当初、イスラエルと前述のハマス双方に中立的な立場からの自制を呼びかけていた。だが、パレスチナ問題始まって以来のガザ地区で史上最多数の犠牲者を出していることから、国際社会の非難を受けサウジは「反イスラエル」的立場へ移行してきた。米国が仲介したイスラエルとサウジの「国交正常化」交渉を中断しているとの報道もこれまで伝えられてきた。
もはやイスラエルのネタニヤフ首相の外交交渉の関心はイランの「ウラン濃縮」にある。
ちなみにイランとサウジアラビアの「国交正常化」の仲介役になったのは中国だ。

ウクライナ情勢のロシアによる「核脅威恐怖忌避」が叫ばれ続ける中、米国は「第4次中東大戦」を防ぐために外交交渉を活発化させているが、このままイスラエルと非国家主体のテロ組織とラベリングされた武装組織のバックにいるイランが本気を出して衝突すれば、その火種がイランの核施設破壊で「地球存亡の危機」に陥るリスクも捨てきれない。

[©︎TBS【スカガワ解説】イランへの報復どうなる?イスラエルが狙う「核施設」とは ネタニヤフ首相が軍の高官らと協議「重要な決定が下された」(2024年10月10日)]

 TBSの須賀川拓 元中東支局長(News 23ジャーナリスト)がガザ・パレスチナ危機でイランを巡る「核施設」の動向について解説した。
 現在、イランには判明しているだけでも15基の原子炉がある。中でも「フォルドウ」と「ナタンズ(パイロット施設)」が「ウラン濃縮施設」だと言われている。これまでにサイバー攻撃など米国とイスラエルが関与したと思しき「妨害工作」に幾度も遭ってきた。
爆発が起きたり、電気系統のトラブルが相次いでいる。なぜ、「ナタンズ」ばかりが狙われるのか?ここには「ウランを濃縮」するための「遠心分離機」がある。ここにはイランの核開発を巡る様々な経緯がある。イランには幾つか既に稼働している「軽水炉」がある。原子炉を動かすためには「燃料」が必要。ウランには「低濃縮ウラン」と「高濃縮ウラン」の二つがあるが、20%の低濃縮ウランを造り「核の平和利用をしている」とイラン側は主張する。
過去にトラブルの遭った核施設として、ナタンズは最新鋭の遠心分離機を稼働している。IAEAにも既に報告済みだ。今までは3%台で非常に少ない濃縮度だったが、20%を超えた途端に一気にウラン濃縮は加速度的に速まる。90%を超えると「兵器級」になると言われている。もし「核燃料の使途で『発電』が必要なだけなら、そんなに強力なウランが作れてしまう高濃縮ウランは必要ないはずだ。ところがイランは既に60%のウランを取得済みだと言われている。」すなわち、「核武装以外の目的に使うのであれば、必要ないのではないか。」
これらの背景事情から欧米は疑問を投げかけている。イランの言い分と国際社会の見方が極めて「乖離」してしまっていると言えるのではないだろうか。

 イスラエルがイランの「核施設」を攻撃するには?命中の精度の高い弾道ミサイルで半径を決めてその中に入るというピンポイントで爆破するための戦闘機で爆弾を運ばなければならない。ヨルダン、サウジ、レバノンなどの各国の領空を跨ぎ、旅客機や偵察機ではなく兵器を積んだ爆撃機を飛ばすには領空侵犯にならないよう「許可」を取らなくてはならない。国際的なコンセンサスのようなものを得た上で、どこまでやるのかどうかだ。
 「さらにはイランの防空体制はかなりしっかりしているから、撃墜される可能性も無論遭って、そのリスクも取らなければならない。よく狙われる「ナタンズ」には遠心分離機があり、最新鋭の核開発には非常に重要な役割があるため地中深いところにある。これを狙うには地中貫通爆弾が必要になってくるが、イスラエルはそんな大きな兵器を保有していない。となると、可能性としてあるのが米国の動向だ。中東大戦まで紛争を激化させるかもしれない「核施設」への攻撃を容認した上で米国が兵器まで供与するかどうか?」と須賀川氏は疑問を投げかけ「現実的ではない」と「欧米のプロパガンダ」を鎮静化させる解説に徹した。

【5】ガザ市民の声を知って「NGO共同声明『停戦を、今すぐに。』」

2024年10月5日、世界のどこであっても、人々が傷つき命を奪われる非人道的な状況を見過ごしてはならない。パレスチナの人道支援に関わり続けてきた日本の国際NGOとして「日本国際ボランティアーセンター(JVC)」が「緊急報告会」及び「キャンドル・アクション「10.5『停戦を、今すぐに。』」を東京都内・増上寺で主催した。共催の国際NGO「Peace Winds Japan」、「公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」、「日本国際ボランティアセンター(JVC)」、「パルシック」、「パレスチナ子どものキャンペーン」5団体と共に戦禍の現地に生きる市民らの声を伝えると共に、日本政府に向けて「ガザ危機『即時停戦』」の「共同声明」を発表した。
 また、パレスチナ系カナダ人医師で人権活動家のイゼルディン・アブラエーシュ博士も著書「それでも、私は憎まないーーあるガザの医師が払った平和への代償」がドキュメンタリー化され、日本でも今年10月4日から吉祥寺ほか全国順次上映している広報宣伝も兼ねて緊急来日し急遽、会場へ駆けつけ「平和」を願う講演を行った。

[筆者撮影]

 ◆「Peace Winds Japan」の内海旬子(海外事業部 中東/東欧地域マネージャー)は「報道では凄まじい戦禍ばかりが報じられるが、現地で生きるガザの人たちの声があまり伝わっていないように感じる。」として「現地スタッフからの戦災被害者からの声を紙芝居形式でお伝えしようと思います。」とイラストと写真を織り交ぜて「ガザに生きる一人の女性の1日」を紹介した。

[当日会場で筆者撮影]

 某日朝9時に、あるガザ市民の女性が水を求めて給水所にタクシーで向かう。以前、支援物資を届けるトラックが来た時、多くの人が集まっているのを狙い澄ましたように砲撃があり、人々がバタバタと倒れるのを目の当たりにした。「怪我人は病院に運ばれたけれども、病院は多くの人々で溢れていた。医薬品も底をついているので、麻酔なしで手足を切断せざるを得ない手術に気絶するほどの痛みに耐えている悲鳴やうめき声で病院は満ちていた」
という壮絶な経験をした。
またある日の正午、一日2食のご飯を家族で分け合って食べた後、爆撃で大学が破壊されて通学できない息子が命懸けで家を出てマーケットに食料を買いに行った。ある日は400円もする卵や缶詰の豆を買ってきてくれた。家庭菜園で取れる野菜があればまだいいが、戦争前に比べると値段が10倍から20倍まで高騰して買えないこともあるという。
 女性にとっての楽しみは夕刻、「屋上に上がってインターネットやSNSに繋ぎ、うまく行けば友人や親戚に電話して安否確認ができる。外との繋がりが感じられる嬉しい時間くらいのものだ。」

 内海氏は「毎日現場で電話などで少しでも話ができるように気遣っています。ガザ市民は本当に普通の人たちの日常が壊されていて、それまでも度重なる戦禍にあるけれども、皆1日1日を働いて家族と共に生き、食べるものがあって、綺麗な洋服も着たい。そんな当たり前の日常を願っています。現地の想いを聞き、叶えてあげなければと支援を続けています。」と結んだ。

 
 ◆「公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」では子どもたちの心のケアを含めた支援を2023年10月15日以降から開始した。パレスチナ全体で71万5,787個人に支援を届けてきた。近年ではポリオワクチンの接種も行なっている。『ガザの子どもの心理状況調査結果』(2018〜2022年)によれば、5人に4人が何らかの精神的抑うつを抱えている。それに端を発する主な症状として、「子どもたちが⑴夜尿症(79%)、⑵反応性緘黙症(はんのうせいかんもく症:言葉が喋れなくなってしまう)(59%)になっていることが分かっている。」として、金子由佳 海外事業部プログラムコーディネーターは「脱水症や爆弾のせいだけではない。現地市民からの声に耳を傾けてくださいと以下のメッセージを伝えた。 

 「子どもたちは、全てを見続けてきました。爆弾、死、遺体…私たち大人は、もう取り繕うことはできません。私の息子は、どんな種類の爆弾が落ちてきたのか、音を聞いただけで言い当てることができるのです。」
 (ワシームさん:子どものいる父親)

 「子どもたちは、もはや子ども時代を失ってしまいました。大人と同じように、生き延びるために毎日を過ごしています。朝起きて、水を探し、食べ物を探す。それが今子どもたちが考えていることです。子どもたちはもはや、子どもではありません。もう遊び場で遊ぶことも、スポーツをすることもない。水を求めて行列に並んだり、街角で小物を売ってお金を稼いだりしています。」
 (セーブ・ザ・チルドレンパートナー団体現地職員) 
 その上で金子氏は「一番必要になってくるのは引き続き『停戦』と子どもの権利を守るための『説明責任』を求めていきたい。『停戦』がないと、これから子どもたちの命も守れない」と訴えた。

[筆者撮影]

 ◆「日本国際ボランティアセンター(JVC)」の今井高樹代表理事は「JVCエルサレム事務所の大澤みずほ 現地代表」が伝えるガザの様子を動画で示した。
 JVCは2つのパートナー団体と共に粉ミルクや医薬品の配布、2歳以下の子どもの簡易的な検診と栄養失調予防食などの配布、適切な母子保健の支援活動を続けている。また保護者への経過観察も実施しているが、その支援するパートナー団体自体も多くが避難生活を強いられている。彼らも私たちの想像を絶する地獄のような状況下で祈りながら日々を過ごしており、自分たちがいつ、命を奪われるか1日の終わりに無事に家族と会えるかという不安や恐怖と闘いながら日夜できる限りの力を尽くしている。

[©︎「日本国際ボランティアセンター(JVC)」]

 パートナー団体の1つは「PMRSの医療チーム」だ。同チームは医療物資を携え、あちこちの避難所や時には道端で人々に医療を提供して回っている。
 もう一つのパートナー団体、「アルデルインサーン」のスタッフは、まだ自宅に滞在できている人もいれば、子どもたちを連れて何度も避難を繰り返しテント生活をしながら活動地に帰り子どもたちへの栄養支援を行なっている人もいる。
 活動に参加しているボランティアの中には爆撃で家族を失ったり、夫がイスラエル軍に連行され、数ヶ月も行方不明のままの人もいる。
 人々は「もうたくさんだ。この状況に疲れ果てた。支援をするにもとにかく『停戦』が必要だ」と悲痛な声をあげているという。
 「人々は裕福でなくてもただ、平和に安心して暮らしたい。それがガザの人たちの夢だった。今では『停戦』さえも(見果てぬ)夢になってしまった。」と口々にいう。
 プロジェクターに映し出された動画の終わりに大澤氏はこう投げかけた。  
「各国の政府が国益ばかりを重視して足踏みをしている間にも多くの市民が家族や友人、家、仕事、生活、そして命までも奪われている。力を持つ人間が何でも自分の思い通りにできる、そんな世界でいいのでしょうか?そして政府を動かしていくことが重要です。一刻も早い『停戦を』。占領の終結に向けて世界中の市民が声を上げ続けている。」
そして大澤氏から締め括りに紹介された同団体のバッシャール・アブー・ザーイド(ガザ)フィールド・コーディネーターの悲痛なメッセージが会場に響き渡った。

[©︎「日本国際ボランティアセンター(JVC)」]
「私は苦しむ市民を代表して話します。41,000人以上の命が失われ、他の無数の人々は想像を絶するトラウマを生きている。人の数だけ粉々になった人生や悲嘆に暮れる家族、困窮したコミュニティがあります。私たちは『即時の停戦』を求めます。私たち市民には今すぐ平和が必要です。全人類のためこの紛争を終わらせなければなりません。これは基本的人権の問題です。平和と希望のうちに生きる権利は私たち全員が守るべきものです。私たちは国際社会が圧力をかけ、この紛争を止めるよう求めます。今、すぐに行動してください。毎分毎秒、命が失われています。『停戦を、今すぐに。』」とバッシャール氏は強く訴えた。

 ◆「パルシック」パレスチナ事務所の高橋知里 代表は同団体の活動について、
「パルシックはガザ中部南部の人々に2018年から生計支援事業を行なってきた。南部ラファ県やハン・ユニス県で小規模の「羊農家」への支援また「チーズ工場」を運営する「女性協同組合」の支援活動を共にしてきた」と報告した。

[会場で筆者撮影・国際協力NGO「パルシック」ガザ中南部での生計支援活動]

 女性協同組合のリーダーのヤスミーンさんは「5月からチーズ作りを再開しました。食料も日用品も物価が高騰している中、収入源を失い貯金を切り崩して生活するのは厳しいです。少しでも生活の足しにしようとチーズを作って販売しています。また、缶詰などの非常食が続くガザの子ども達に、栄養のあるものを食べさせてあげたいです。私たちは諦めません。」と述べ、女性協同組合のメンバー数名は避難キャンプのテントの場所で一緒にチーズ作りを再開した。
 ヤスミーンさんらは「あらゆるものが足りておらず、水も枯渇しているが組合としては『今』ではなくてこの戦争が終わったら本格的にチーズの生産を再開するということを世界に伝えて欲しい」と願いを託した。

 また、元来海沿いに住んでいた羊農家は今でも羊の飼育を続けている。パルシックも2024年5、6、7月にかけて羊農家に羊の餌や薬を配布する支援の手を入れた。

 羊農家のサメルさんの声にも耳を傾けてほしい。
―(パルシック職員):羊の飼料が不足し、価格も高騰していますが、それでもサメルさんは羊の畜産事業を続けているのですね?

サメルさん「そうです。羊の飼育を何とか続けたいですし、ロスは出したくないので、何とか飼料を羊に与え続けられるように頑張っています。私は羊が大好きですし私たちの貴重な収入源になっている。人生の最後の日まで羊農家を続けるつもりですよ。私の両親が羊を育ててきて、私も受け継いできたので諦めません」と希望を滲ませた。
 
 結びに高橋氏は「パルシックは緊急支援も行なっていますが、その後が大事だと思っている。『停戦』をスタートに『占領を終わらせたい』。現地で暮らしているガザの人々にも期待されている。是非、支援を継続していければと願う」と言葉に力を込めた。

 ◆「パレスチナ子どものキャンペーン」エルサレム事務所の手島正之代表は「今、各団体から現地の様々な声が共有されました。今でもガザでは200万人以上が避難生活を送り、その一人一人が家族もしくは近親の誰かしらを亡くしています。つまりは200万通りのストーリーがあるのです。一刻も早いガザ危機を終わらせるために、ガザのリアルに触れていただきたいです。」と前置きした上で、「現地では今日の東京のように、雨が降っています。その中でテント生活をするとはどういうことなのか?今ガザではほとんどの人がテントで生活しています。雨が降ると、テント内部ではそこら中に雨漏りがあり、床も水浸しになり、溜まった雨水をバケツなどで掻き出さなければいけません。子どもがいて高齢者も住んでいます。そういう場所に雑魚寝をしなければいけません。このような状況をいつまで放っておくのでしょうか?政治レベルでも、市民レベルでもそういった感覚にもう少し寄り添って自分事として考えることがやはり、今、一番必要だと思います」と強調した。

【6】「国際社会の『主役』とは誰か?」国際NGO5団体の登壇者に問う

 モデレーターを務めたジャーナリストの堀潤氏は、各国際NGO登壇者に投げかけた。
「『国際社会の主役は誰なんだ?』」ということを世界中で聞いて回っている。イスラエルの駐日大使に聞いたら、はっきりと『G7だ。国連が議論していないからだ』と言った。
「一方、パレスチナ駐日大使のシアム氏に聞くと、『国連決議』に決まっているじゃないですか。それを蔑ろにしたら、それこそ世界の秩序は壊れるんだ」と豪語していた。
 この後講演される来賓のアブラエーシュ博士にも伺ったが、「『それは人権です』と。この戦後を築いてきたものは『人権』だったはずです。だからこそ、この話を強く訴えて下さい』と答えた」。それを踏まえた上で堀氏は「現場で活動されているNGOの皆さんにとって新たな呼びかけにも繋がると思いますが、国際社会は一体『誰が主役』で、我々には何ができるのか?」を各団体に一言ずつコメントを求めた。

 内海氏は「やはり、私たち一人一人が主役であり、当事者だと思います。どのような指導者を選び、どのような国にしていきたいか。どのような世界で、どのような役割を果たしていきたいか。そういうことが考えられる私たちNGOや市民が求められている」とした。

 金子氏もまた「国際社会の一人一人が『主役』。人の生き様は様々。ご家庭がある方も独身を貫かれる方も、違う人生を歩んでいる中で、一度でもパレスチナについて、ここに私たちと同じ人間、子どもたちがいるんですと。まずは身近な人と話して知ってもらう。格好よくなくてもいい援助。世界中の子どもたちが同じような生活、幸せを謳歌できるために、そんなちょっとしたことから始めても、大きなウネリになるのではないか」と述べた。

 今井氏は「2024年3月に南アフリカ共和国を訪問し、現地の市民らと話をしてきた。」という。南アフリカは2023年12月に「集団殺害の疑い」でイスラエルを『国際司法裁判所(ICJ)』に提訴。パレスチナ自治区ガザ地区南部ラファでの軍事作戦停止を1月26日にICJがイスラエルに対し求め、暫定措置を命じていた。
 今井氏によれば「南アフリカ、全員ではなくともそこまでの動きを実行できた自分たちを誇りに思うと。自分たち一人一人が世界に繋がっているのだ。そういう気持ちを持って地球と繋がっている。そういう役割があるという気持ちから『市民』が『主役』だと思って活動すべきだと私は思う」と言葉に力を込めた。

高橋氏は「前出の内海氏、金子氏、今井氏と同じく私も『市民が社会を変えていく力を持っている』という原動力を使っていきたい。私は普段はヨルダン川西側の事務所に滞在しているが、ヨルダン川西岸はもとよりガザ地区の人々は世界の様子をインターネットで見ている。私たち1人1人ができることは小さいかもしれないが、ガザについての支援や発信は、ガザの人たちに届いている。あきらめずに力強く思い続けることが必要だと思います」と述べた。

 手島氏は「むしろ『市民』しかいないと思っています。市民こそが最後の砦ではないでしょうか。国連のガザ紛争の停戦決議があり、『国際司法裁判所(ICJ)』はイスラエルに『ジェノサイドの防止をする命令も出し、停戦交渉がなされていたり、停戦への圧力をかけるためにイスラエルと貿易を停止する国があったり、と国際社会の動きはガザの停戦にかなり活発になっていることはご承知の通りです。しかし、ガザの状況は変わらないどころか悪くなる一方です。私は『市民』が『主役』になるしかないと思っています。その自覚を持って市民が行動することが重要だと思います」と述べた。

【7】「それでも、私は憎まないーーあるガザの医師が払った平和への代償」上映記念イゼルディン・アブラエーシュ博士講演

[©︎ドキュメンタリー「それでも、私は憎まないーーあるガザの医師が払った平和への代償」]
[イゼルディン・アブラエーシュ博士・筆者撮影]

パレスチナ系カナダ人医師で人権活動家のイゼルディン・アブラエーシュ博士も著書「それでも、私は憎まないーーあるガザの医師が払った平和への代償」がドキュメンタリー化され、日本でも2024年10月4日から吉祥寺ほか全国順次上映される広報宣伝も兼ねて緊急来日し来賓として「平和」へ向けた講演を行った。

各団体の緊急報告の後、会場に到着したイゼルディン・アブラエーシュ博士がマイクを握って聴衆に語りかけ始めた。「パレスチナ人としての私の人生は常に戦争や困難の繰り返しでした。私は14歳の時、イスラエル軍によってガザのザカリア難民キャンプの中の小屋のような実家が破壊された。難民とは、それまであったはずの家や居場所、両親、家族の生きてきたルーツ、財産などの全てを一瞬にして奪われ、裸一貫で追い出されてしまった人たちのことです。全てを失った後でも絶対に失われないもの。それは『信念』だと私は思う。前進するためには、どんなに困難や悲劇に苛まれようと『信念』がなければなりません。」

「私たちが路上に放り出された時、あらゆる嵐の海のような感情を経験しましたが、私はその気持ちに飲み込まれないように必死に頑張りました。なぜならそれは、人工的に人がつくったイスラエル国家による占領と植民地支配の歴史の制度のせいだからです。」

 「私自身、3人の娘の命をイスラエルの砲撃で一瞬にして奪われました。彼女たちは本当に『慈しみ』と『愛』に溢れ、学問を愛し、女性として逞しく美しく生きていました。にも拘らず、一瞬にして殺されてしまったのです。」と博士はその壮絶な喪失体験を語った。

それでも博士は「しかし、「『愛』なくして『信念』はあり得ません。」と常に前を向く。
「私たちは『自由』や『将来の夢』『人間としての尊厳』『権利』。世界中のすべての人と同じようなものをただ、望んでいるだけです。」とした上で、アブラエーシュ博士は次の言葉に特に力を込めた。
 「私は『誰かを憎んだりはしていません』『誰かに消えて欲しいなどとは思っていません』『ただ、ただ、自分たちの存在をちゃんと認めて欲しい』『世界中の国々と同じように『独立した国家としてパレスチナを認めてほしい』それだけです。」

 「ガザの苦しみをとにかく止めなければなりません。第二次世界大戦の経験もある日本に住む『信じる心』を持っているであろう皆様に訴えたい。「とにかくこの『即、停戦をしよう。』との思い。

私は『私たち一人一人に何ができるのでしょうか?」と人々によく尋ねられます。
 私がいつも伝えているのは、「『信じる心』を忘れないこと。生きている限り、『希望』はあります。『希望』そのものが『命』につながります。『希望』は私たちを行動に導いてくれます。そして『信じる心』を育ててくれます。自分の力に自信を持って『希望』を持って下さい。どんなことよりも『行動』に勝るものはありません。そして沈黙は不正義をさらに進めることになる。どんな不正義にもどんな絶望にも『希望』は必ず勝てる」という言葉でこの講演を締めくくりたいと思います」とアブラエーシュ博士はスタンディングオベーションに包まれながら会場を後にした。

<結び>
 2024年の「ノーベル平和賞」の受賞者が日本時間の10月11日にノルウェーの首都・オスロで「日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)」を選出したと発表された。およそ70年にわたり広島や長崎で被爆した全国組織として被爆の実相を伝え核兵器廃絶を世界に訴える活動を続けてきた功績を讃えるものだという。今回の本稿で取り上げた平和を願う講演を行ったアブラエーシュ博士も「カナダ移民トップ25」に選出され、「世界市民活動賞」、「功労十字賞」、「P&V財団市民賞」他、多数受賞している。博士が「ノーベル平和賞」を受賞する日は来るのだろうか。あらゆる困難や災禍をもたらす戦争という人類最大の暴力を経験してきても、その喪失体験や荒ぶる感情に飲み込まれずに乗り越え、打ち克つ「生まれ変われし人々」の持つ「逆境転換力」が一人一人の市民にはあると筆者も信じたい。

 ベラルーシのジャーナリストとして初のノーベル平和賞作家となったスヴェトラーナ・アレクシェーヴィッチ氏の代表作「戦争は女の顔をしていない」では「小さき人々」と「強い腕」という比喩を使い「市民」と「権力者」を対比させている。アレクシェーヴィッチ氏がある時、「教科書に書かれている歴史に皇帝や将軍といった権力者の歴史ばかりで、例えば、水を汲みに水がめを運んでいたローマの少女がその時、何を思いどう生きていたか、まったく歴史から消し去られていることが原因だったと気づいた」と疑問を覚えたという。彼女の言葉を借りれば、『そのような決して声を残さない人々が、砂のように消え去ってしまわないように、本当の歴史を書きたい。教科書には決して書かれない真の歴史を』と述べていることからもその真意が伝わってくる。ペンの力は権力に立ち向かう脆弱な小さき人々を守るために使うべきものなのだ。
 「報復の連鎖」とは憎しみや怒りのスパイラルからくるものだ。人々は連帯し「信念」と「希望」を持ち声を上げ、そして「愛」を育むことでこの比類なき戦禍の嵐を「即時停戦」へと向かわせる世界政府を動かす原動力となることを信じて、筆者は伝える使命を果たしたい。

tomokihidachi

2003年、日芸文芸学科卒業。マガジンハウス「ダ・カーポ」編集部フリー契約ライター。編プロで書籍の編集職にも関わり、Devex.Japan、「国際開発ジャーナル」で記事を発表。本に関するWEBニュースサイト「ビーカイブ」から本格的にジャーナリズムの実績を積む。この他、TBS報道局CGルーム提携企業や(株)共同テレビジョン映像取材部に勤務した。個人で新潟中越大震災取材や3.11の2週間後にボランティアとして福島に現地入り。現在は市民ライター(種々雑多な副業と兼業)として執筆しながら21年目の闘病中。(株)「ログミー」編集部やクラウドソーシング系のフリー単発案件、NPO地域精神保健機構COMHBOで「コンボライター」の実績もある。(財)日本国際問題研究所「軍縮・科学技術センター」令和元年「軍縮・不拡散」合宿講座認定証取得。目下プログラミングの研修を控え体調調整しながら多くの案件にアプライ中。時代を鋭く抉る社会派作家志望!無数の不採用通知に負けず職業を選ばず様々な仕事をこなしながら書き続け、35年かけプロの作家になったノリーンエアズを敬愛。

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