映画『卍 リバース』鈴木志遠インタビュー 「人との出会いは、良くも悪くも人生を左右してしまうもの」 谷崎潤一郎の小説を現代風に大胆アレンジ

  by ときたたかし  Tags :  

明治、大正、昭和という近代日本を代表する文豪・谷崎潤一郎による傑作「卍」を、物語の舞台を現代に置き換えて実写化した、映画『卍 リバース』が公開となります。

タイトルにあるように原作の登場人物たちの性別を逆にするなど、大胆なアレンジを加えつつ、同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々に綴った谷崎文学の世界をスクリーンに映し出します。

その本作で妻がありながら宇佐美光(門間航)に惹かれていく園田孝太郎役を演じた鈴木志遠さんにお話をうかがいました。

■公式サイト:https://manji-re.com/ [リンク]

●本作の公式サイトのコメントで「平穏だった生活が1つのきっかけで変わっていき、本当の幸せとは何かを考えていただけたら」と言われていましたが、本当にそういう映画でした。

いろいろと考えさせられる映画だなと改めて思いました。人の出会いって、良くも悪くも自分の人生を左右してしまうものですよね。男女が混じり合う恋愛も現代ではどこまで起こり得るのかは分からないですが、普通に生きていてもなくはないことでもあり、そういう感想を抱きました。

●谷崎潤一郎さんの代表作「卍」が原作ですが、大胆なアレンジも見ものですよね。

もともとは有名な小説ですが、この映画では男女の立場を逆転させて描いています。そのおかげで今っぽいところもあると言うか、男性が家のことをして奥さんが外で働いているけれど、それは普通のことになってきているので、そういう意味でも観やすい作品になったかなと思います。

●出演が決まった時、どのようなことを思いましたか?

これまでこのような作品、役柄と出会えていなかったので、自分の中で広がるワクワクもありましたし、挑戦したいという想いも芽生えた反面、今までやったことないからこその不安も生じました。作品自体も難しい題材だったので、プレッシャーもありつつ撮影に入った感じでしたね。

●園田孝太郎は複数のキャラクターと対峙するので、感情の表現も大変そうでしたね。

そうですね。登場人物が4人いて、僕はほかの3人と関係するシーンがあったので、それぞれに接する気持ちを考えるなど難しかったですね。

●役柄としては、どのような人物像だと理解して演じましたか?

脚本の最初の印象では自分の意思がなさそうな流されやすい男性というイメージで、カリスマ的な青年に出会った時も、自分の本意ではなく、どんどん流されていく性格かなと思ったんですよね。でも、いろいろと考えていくうちに脱サラして美術学校に通う芯があり、「この人に付いていく」という意思も強い。曲げたくないことがあり、二面性が特徴だなと思いました。

●なるほど、ある意味では自分にストイックな面もあると。

なので理解は出来るキャラクターなのですが、奥さんに働かせて自分は何もしていない状態ということを考えると、性格的にはどうなのかなとは思いました(苦笑)。結婚はしているものの、自分のやりたことだけに左右されている一面もあるので「大丈夫か?」って感じではありますよね。

●そうですね。自分の関心事に集中できる環境が彼にはありますが、一方でものすごく嫌な男にも見えないですよね。

あれだけ愛情を注げる姿は、演じていても観ていても確かにうらやましいと感じるところはありましたね。一目ぼれじゃないですが、本当に好きなものに対して一途に行けるという想いは、ある意味では個性だと思うし、人間らしいと思いました。現実で同じことをしてしまうとどうなのかなと思うところはありますが、これこそ映画の醍醐味でもあるのかなと。

●このプロジェクトに関わり、俳優としての一番の学びは何でしたか?

今回、中﨑(絵梨奈)さん演じる奥さんが園田に話すシーンが多くて僕が聞き役だったので、単に聞いているだけでなく、どれだけ彼女を怒らせるようにしようかと考えたりしました。僕のセリフがないシーンでは、どうすれば向こうが感情を乗せて怒りやすくなるか、そういう意味でのやりがい、発見はありました。

●鈴木さんの新境地と言っても過言ではない作品かと思いますが、映画を待っているみなさんへメッセージをお願いいたします。

ファンのみなさんには、これまでの自分とは違う新しい姿を見せられると思います。そして僕のことだけでなく、この作品を観ていただければ、どなたでもいろいろなことを考える、見応えがある内容だと思います。最近は観やすいショート動画もたくさんあると思いますが、こういう作品によって考えさせられる機会が訪れることもいいなと思っています。

■ストーリー

サラリーマンだった園田は、画家になる夢を諦めきれず、脱サラして美術学校に通っている。家計は弁護士である妻の弥生に頼り切りだった。

そんな中、学校ですれ違う美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして光を家に招く。そして、自然と体を重ね、その後も度々逢瀬を繰り返すようになる。その一方で、夫婦生活は散漫になっていった。

弥生からの誘いを断り、光との情事に溺れる中、光には香織という婚約者がいることが発覚する―。

無機質な病室のベッドで、園田が担当医に語り始める。これはまだ、愛憎で絡み合う男女が辿る、数奇な運命の序章だ―。

(C) 2024「卍 リバース」パートナーズ

ヘアメイク:河本花葉
スタイリング:清水拓郎

衣装クレジット:ジャケット、パンツ/MAISON SPECIAL

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo