アートドキュメンタリー『うつろいの時をまとう』三宅流監督に聞く「観終わった後、帰り道の風景が違って見えるのではないかなと思います」

  by ときたたかし  Tags :  

日本の美意識をコンセプトに独自のスタイルを発信し続けている服飾ブランドmatohu(まとふ)。デザイナー堀畑裕之さんと関口真希子さんの視点や哲学を通して、日常の中に潜む美や豊かさを再発見していくドキュメンタリー映画、『うつろいの時をまとう』が公開となりました。

その二人の創作を5年の歳月をかけて丹念に追った監督が、『躍る旅人─能楽師・津村禮次郎の肖像』などの三宅流監督。Matohuに惹かれた理由、映画化したことへの想いなどをうかがいました。

■公式サイト:https://tokiwomatohu.com/ [リンク]

【三宅流 Nagaru Miyake】
1974年生まれ。多摩美術大学卒業。在学中より身体性を追求した実験映画を制作、国内外の映画祭に参加。2005年からドキュメンタリー映画制作を開始。伝統芸能とそれが息づくコミュニティ、ダンスなどの身体表現におけるコミュニケーションと身体性について独自の視点で描き続けている(公式サイトより)

●改めてうかがいますが、本作で題材となっている服飾ブランドmatohuについて、どういうところに惹かれたのでしょうか?

それにはふたつあり、ひとつは前作のドキュメンタリー『躍る旅人─能楽師・津村禮次郎の肖像』を追っていくなかで、デザイナーの堀畑裕之さんと関口真希子さんが伝統的な能衣装の中に、matohuが作った衣装をスタイリングしていたんです。まずそのことに驚きました。彼らの作った衣装が、古い伝統の能衣装に負けていなかったんですね。それが出来ていることの凄さ、ですよね。

あと、ファッションの世界って、感覚的なところがあるじゃないですか。ところがmatohuは毎シーズンのコレクション・テーマにしている言葉から創作が始まるので、非常に緻密な言語空間のようなものがあった。そこに惹かれました。主にそのふたつでしたね。

●前作でmatohuに触れた際、すぐに映画化に向けて動いたのですか?

最初から映画の話にはなっていなくて、元々番組の国際共同制作の企画提案の場でプレゼンしたんです。そこでは企画として実らず、 ちょうど彼らが最後の「なごり」の製作に取りかかろうとしていたので、まずひとシーズン撮ろうと。その時、映画化を念頭にひとシーズン撮影してみた感じです。

●結果、映画化したことで、よかったことは何でしょうか?

映画にしたことの最大のメリットは、表現の自由を得た、ということですね。たとえば国際共同製作 の場合、それぞれの事情も出てくるため、それぞれにローカライズした形にしなければいけない。ただ、自由を得た代わりに結果も自己責任なのですが。

●あくまで服飾ブランドmatohuが主人公のドキュメンタリーで、人が主人公ではないと思いますが、それは自由を得たことと関係ありますか?

ドキュメンタリーを企画・提案する時って、人物ドキュメンタリー、人間物語みたいなものを求められるんです。ある人があることに挑み、そこには障害があるも葛藤して、いかに乗り越えていくかみたいなことですね。そういうものが求められがちなのですが、それは僕がやりたい感じのものではないんですね。

今回の映画もmatohuの堀畑裕之さん、関口真希子さんの生き方、人物像にフォーカスしたものではないので、ある種の目に見えない思考の流れや、彼らを描きつつその先にある大きな世界観などを描くことができました。

●今日はありがとうございました。映画を楽しみにしている方にメッセージをお願いいたします。

小難しい映画ではありません。一見するとハイコンテキストなことをやっているように見えるかも知れないのですが、実は身近な気づきがたくさんある映画なんです。観終わった後、帰り道の風景が違って見えるのではないかなと思います。たとえば、そこで感じたものを言葉にするなどすると、それまでとは違った豊かさみたいなものが得られるかも知れません。

■ストーリー

2020年1月。東京・青山のスパイラルホールで、服飾ブランドmatohuの8年間のコレクションをまとめた展覧会『日本の眼』が開催された。matohuは“日本の眼”というタイトルのもと、「かさね」「ふきよせ」「なごり」など日本古来の洗練された美意識を表す言葉をテーマに2010年から2018年までの各シーズン、全17章のコレクションを発表してきた。デザイナーの堀畑裕之は大学でドイツ哲学を、関口真希子は法律を学んでいたが手仕事や服作りへの思いからファッションの世界に飛び込む。堀畑はコム デ ギャルソン、関口はヨウジヤマモトでパタンナーとしてキャリアを積む。そして2005年にブランド「matohu」を立ち上げ、彼らは“長着”という独自のアイテムを考案した。着物の着心地や着方の自由さから着想を得ながら、今の生活に合わせた形で作り出されたモダンなデザインの服である。

2018年、matohuは『日本の眼』最後のテーマとなる「なごり」コレクションの制作に取りかかり、伝統的な技術を持つ機屋や工房と協業しつつ、テキスタイルを作り上げていく。堀畑と関口はアトリエで激しい議論を繰り返しながら妥協することなくデザインを完成させ、そしてファッションショーの日を迎える。

(C) GROUP GENDAI FILMS CO., LTD.

シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中

監督:三宅流
撮影:加藤孝信
整音・音響効果:高木創
音楽:渋谷牧人
プロデューサー:藤田功一
出演:堀畑裕之(matohu)、関口真希子(matohu)、赤木明登、津村禮次郎、大高翔ほか

【2022年/日本/ 96分/ カラー/DCP/5.1ch/バリアフリー上映対応】
協力:一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構、PEACH
助成:日本芸術文化振興会
製作・配給:グループ現代

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo