「旅」がテーマのアイドルグループ『セカイシティ』結成3周年記念ライブレポート~それぞれの道に進む彼女たちが見せた一瞬の輝き!

  by プレヤード  Tags :  

現在活動しているアイドルグループには、多くの場合コンセプトやテーマがある。BiSHの「楽器を持たないパンクバンド」などは有名であるが、ユニークものから堅苦しいものまで、メンバー以上に百花繚乱だったりするから面白い。
そのような状況の中、「旅」をテーマにした楽曲を多く取り入れ、「ワールドトラベラー」とのキャッチフレーズを掲げて2019年に活動開始したのが、セカイシティだ。当初は5人組であったが、メンバーの卒業や加入などを経て、現在は3人体制となっている。

そのセカイシティが、10月10日に『3周年記念ワンマンライブ Third trip-Departure-』を開催した。
実は、この日をもって彼女らが所属するレーベル内での体制変更があり、リーダーの一ノ宮紗奈(いちのみやさな)はグループ卒業、そして芸能界も引退する。彼女とともにオリジナルメンバーとしてセカイシティを支えた鷹嘴美羽(たかのはしみう)は、同レーベルのグループ『イートイン』へと移籍。今後、セカイシティは、残った甘酢朱里(あまずしゅり)と、『イートイン』から移籍してくる小林瑞希(こばやしみずき)の2人体制で活動していくことになっている。

そのような事情もあり、現体制でのライブを観られるのも、この日が最後。会場となった下北沢ERAには、多くのファンが集まり、この瞬間を目と心に焼き付けようとするかのように、開演前から熱気に包まれていた。

会場を埋め尽くしたファンの思いが高まっていく中、定刻の17時30分、おなじみのオープニングSEが流れ出す。
少し間をおいて3人がステージに登場、それぞれのポジションにつく。
1曲目に流れたのは『台北サイダー』。タイトル通り台湾をイメージさせるこの曲は、セカイシティを代表する一曲だ。否が応でも盛り上がるフロア。登場時には、メンバーもそれに少し驚いた様子を見せていたが、すぐに嬉しさを爆発させるような表情になってパフォーマンスを続ける。現体制最後のライブという思いのせいか、早くも目に涙が光っているメンバーもいる。

思えば、ライブを通しての世界旅行は、毎回とても楽しかった。彼女たちの曲で歌われるのは、上海であったり、台湾であったり、スリランカであったりするのだが、それとはまた別の次元で、“彼女たちが作り出すライブという世界”を旅しているような感覚であった。それは、主に楽曲を手掛けているアーティスト、James Panda Jr.が作り上げた世界でもあり、歌とダンスを通してそれを表現するメンバーの魅力によるものだとも思っている。

ライブは、まさに世界旅行を思わせるかのように、『ぼくらがスリジャヤワルダナプラコッテへ旅に出る理由』『中華街ウキウキ通り』と楽曲をたたみ掛けてくる。実は、これらはもともと、James Panda Jr.がかつて手掛けていた音楽ユニット『PANDA1/2』の楽曲だった。タイトルを見て、ピンと来る人もいると思うが、これらの曲は、小沢健二の『ぼくらが旅に出る理由』や『痛快ウキウキ通り』にインスパイアされて作られたものだ。ここで、セカイティの持っているもう一つの要素である『渋谷系』とのつながりについても触れておく。

今から30年ほど前、前出のアーティスト・小沢健二と、現在はコーネリアスとして活動する小山田圭吾の2人によるユニット『フリッパーズ・ギター』の音楽が大ヒットし、彼らと同じようなルーツを持つ楽曲群が『渋谷系』と呼ばれた。一時のブームは去ったものの、各分野には今なおそのファンは多く存在し、現代のバンドやアイドルの中にも、その影響を強く見ることができる。James Panda Jr.も、その一人である。つまり、彼の曲を歌うセカイシティには、「渋谷系の音楽を歌い継ぐ者」としての側面もあるのである。私も渋谷系が流行した頃、青春を送った一人としても、セカイシティの音楽には強く惹かれている。

ライブはオリジナル楽曲の『Dance!Dance!Dance!Dance!』を挟んで、最初のMCになる。
自己紹介の後は、定番の「みなさんをつかの間の世界旅行に連れて行きます!私たちワールドトラベラー、セカイシティです!」という挨拶。一ノ宮によるこのグループ紹介も最後かと、感慨にふける。

始まった感想を聞かれた甘酢は、「とても緊張しております」と答える。その気持ちも大いにわかる。実は彼女にとってワンマンライブは初めての経験なのだ。
「シャリちゃん」の愛称で親しまれる甘酢は、1年前に加わったメンバーだ。他の2人が初期メンバーであるため、ある程度形ができているセカイシティに1人加わり、パフォーマンスを身につけ、さらに自分のキャラクターと居場所を築いていった。その陰には、たくさんの努力があったことだろう。さらに彼女のすごいのは、主にファンに対して、そんな辛さや苦しさを一切見せなかったことだ。持ち前の明るさと、人懐っこい笑顔で、いつもファンを幸せな気持ちにさせてくれた。彼女自身が大のアイドルファンということもあって、ファンの気持ちは痛いほどわかっていたのだろう。今年の夏場には、喉の調子を崩して心配されたが、もう完全に復活しており、パフォーマンスもテンションの高さも絶好調であった。

今後もセカイシティとして活動する甘酢朱里

挨拶の後は、ライブに戻って、ここからはメンバー言うところの「クールでかっこいい曲ゾーン」に入る。スタートを飾ったのは、9月に初披露されたばかりの新曲『きらり流れ星』。テクノ調のイントロ、無機質な表情でポーズをとるメンバーたち。その様子は、どこか機械仕掛けの人形を思わせる。
歌われるのは、狂おしいほどの恋心だ。機械と愛情、相反するものを内包してしまった切なさ。そんな想いを抱いて見上げた空に星が流れる。パフォーマンスを見ていて、そんな情景が思い浮かぶ。あらためて名曲だと思う。

切なさに満ちた空気を受け継ぐように、『乙女の祈りが届くまで』。これは、現在ラジオパーソナリティーとしても活躍する、ジェーン・スーが作詞を手掛けた曲だ。メンバーが、少女の辛い気持ちを「祈り」として歌い上げ。妖艶な雰囲気の中で切なさが増幅される。

曲が終わったところで、聞こえてきたのは時報の音。そう、セカイシティの始まりの曲ともいえる『上海は夜の6時』だ。マストアイテムがきたところで、会場のボルテージもさらに上がっていく。ここで旅は一旦日本に戻って『恋と月夜と線香花火』、そして再び外国に飛び『Stranger』。そして、次に流れてきたのは『ゆらゆらゆれる』。この楽曲は、とにかくダンスが激しく、3人体制になってから長らく封印されていたほど。今の3人は、それをしっかりと自分のものにしている。いつも以上のキレと妖艶さを見せながら、完璧に踊りこなしていく3人を見ながら、あらためて、彼女らの努力と成長に感動を覚えた。

激しい一曲を終えてMC。ここでは、グループに残る甘酢朱里がしっかりとトークを回す。
今回のライブではグッズとして、Tシャツとフォトフックが作られている。「ぜひお買い求めください!」と宣伝したところで、ライブ再開。

続いては、昨年の夏にリリースされた曲、『速すぎるスローモーション』。そして、歌詞の中にも夏のテイストが多く散りばめられている『恋しくて切なくて心強くなる僕らのブルース』。聴いていて、心の中に夏の情景が広がっていく。彼女たちは、距離だけでなく季節までも旅させてくれるのかもしれない。

続いての『ウィークエンドの僕らは』は、今年の3月にリリースされた曲。彼女らの楽曲の中でも、より渋谷系を感じさせるサウンドが特徴的だ。
そして、2ブロック目最後に流れてきたイントロは『STAR LIGHT』。彼女たちと同じ事務所であった『SiAM&POPTUNe』のカバーである。悲しみを乗り越えて、新しい明日に向かって走り出すという、疾走感にあふれた曲。道標になるのは星明かり。今まさに、彼女たち3人が星明かりとなり、見るものの未来を照らしてくれているかのような感覚になる。ある意味、それぞれに新たな道を選ぶ3人のメンバーともリンクするような、とても素敵な選曲だ。

この曲では、メンバー最年少、鷹嘴美羽の成長が際立って見えた。3年前のデビュー時、14歳だった彼女は、どちらかというとおとなしめの少女に見えて、あまり前へ出るタイプではなかった。しかし、この3年間で努力を重ねたのだろう、歌は驚くほど力強くなり、全身を大きく使ったダンスもメキメキと上達していった。
彼女の心の中にあったのは、「アイドルを続けたい」という強い思いではなかったか。1年前、体制の変更があり、3人のメンバーがグループを去った。そんな中でも、一番強くセカイシティを続けたいと願っていたのが彼女だろう。セカイシティは彼女にとって、まさに自分を表現する「世界」そのものだったのかもしれない。
先にも書いたように、彼女は今後『イートイン』というグループに移籍し、活動する。おそらく、3年前の彼女のままだったら、新しい世界に飛び込む決断はできなかったのではないだろうか。ぐんぐんと上がっていくパフォーマンスと、今回の移籍、それらのことを通して、努力によって人がどれだけ変わっていけるかを、教えてくれているような思いさえ感じる。

イートインに移籍する鷹嘴美羽

『STAR LIGHT』を終えたところで、再びMCへ。初期メンバーの一ノ宮と鷹嘴が、新メンバーの甘酢と初めて会った時のことに触れる。
ここで鷹嘴が、「最初に3人で会った時、紗奈ちゃんが『ハムスターを口に入れてみたい』っていう話をした」と暴露。あまりに謎な行動に、会場も受け止めを戸惑っている様子だ。一ノ宮が「いや、あれはその場を和まそうと思って、わざと言ってみたの、ジョークだって」と必死に弁解するも、彼女の少々突飛な発想自体は分かっているファンも多いので、ある意味納得でもあった。

ライブも終盤に近づき、ここでマイクスタンドが登場する。
「そうか、あの曲をやるのか」
昔からのファンであればピンとくる。セカイシティには、ワンマンライブでしか披露されない特別な楽曲があるのだ。3人がマイクの前に立ち、その曲-『ときめきの果実』が流れてくる。
昔好きだった人を想って、手紙を書くという内容の歌詞。ミディアムテンポのメロディがそれに乗る。
曲の間奏で、3人はそれぞれ自分のマイクを離れ、隣に歩く。そこでメンバーと一瞬交差する。甘酢が、泣いている一ノ宮の頬に手を伸ばす。鷹嘴は一ノ宮に小指を差し出し、しっかりと指切りをする。それは、「今までありがとう」と言っているようでもあり、「ずっとそばにいて」の意味のようでもあって、なにかとても素敵な約束を見ているような気持ちになる。

一ノ宮の芸能活動は10年以上に渡り、3年前にオーディションを経て『せかいシティ』(当時の表記)結成メンバーとなった。
昨年の体制変更後は特に、リーダーとしてグループを牽引してきた。アイドル卒業後は、医療関係者を目指し、勉強をしているという。
これまでたくさんのアイドルを見てきたが、容姿や能力だけではなく、彼女は「気高さ」という点で突出した存在だった。もちろん、特典会で対面すれば、とても気さくで気取ったところがない彼女の魅力を十分に感じることができる。しかし、チェキ写真に書いてくれるメッセージの文字や、しっかりとこちらの話を聞いた上で受け答えてくれるようなちょっとした所作が、実に美しいのだ。例えば彼女を好きになったということを、他の人の前で誇りにしたいと思うくらい、魅力的なアイドルだった。彼女であれば、どんな世界に行っても、自分の目標を見失うこと無く、夢を実現させることだろう。

新たな道を歩き出す一ノ宮紗奈

こうしてさまざまな思いが交錯し、特別な曲を歌い終えたところで、3人はしっかりと抱き合う。そして本編は終了となった。

もちろん、フロアではアンコールの手拍子が止まらない。
それに応えて登場するメンバー。流れてきたのは『世界はもうぼくのものなのに』のイントロだった。
この曲は、James Panda Jr.が20年以上前に作った曲だという。私自身、形を変えて歌い継がれるこの曲を何度も聴いてきた。しかし、どんなに時代や歌い手が変わろうとも、曲を通して感じる疾走感と、歌詞に感じる奥深さの魅力は、まったく輝きを失うことがない。
歌詞にも出てくる「世界はもうぼくのものなのに」という言葉。「なのに」ということは、その後に言葉が続くはず。でも、そこは語られない。聴く者がそれぞれに思いをめぐらす。それでいいのだ。そして、それこそがこの曲が歌い継がれる理由だと思っている。

そんな曲を終え、3人からそれそれメッセージ。甘酢は「私は後から入ったが、2人がいなければここまで続けられるとは思わなかった。私はセカイシティに残るので、これからも応援よろしくお願いします」。鷹嘴は、感極まって涙を流しながら、医療従事者になるという一ノ宮に対し「注射をなくしてほしい」と語り、会場は優しい笑いに包まれた。そして一ノ宮は、自ら書いてきた手紙を読み上げる。「私がいなくなっても、ちゃんとご飯を食べて、睡眠をとって、健康に、自分を大切にして生きてください。私はみなさんに病院で会いたくはありません」と話す。それぞれのキャラクターが垣間見える、いいメッセージだった。

しんみりとした雰囲気を吹き飛ばすように、3人が最後の曲フリをする。そして、流れ出す『台北サイダー』。
確かに最後はこの曲だよな。楽しい。すごく楽しい。泣きそうな気持ちでステージを見つめた。
この瞬間がいつまでも終わらなければいいと思った。
それでも終わりは来る。
曲が終わって、3人が手をつなぎ、生声で「ありがとうございました!」と言って頭を下げる。

終わってしまった。
アイドルの卒業や体制変更なんて、何度も見ているのに、そのたびに抱えきれない思いが湧き上がってくることにとまどう。個人的なことを言えば、特にこの3人になってからのセカイシティには思い入れが強かった。楽曲も、ダンスも、メンバーのキャラクターも、全部が好きだった。

この瞬間は今しかない。3人だからこそのきらめきも、この一瞬で消え去ってしまうだろう。
でも、たとえ次の瞬間になくなったとしても、「今」は確実にそこにあった。それだけで、どれほど幸せで、尊いことか。
おそらく、彼女たちは明日からもう、新しい世界で新しい生活を始める。そして、ときどきセカイシティのことを考えたり、今日のライブのことを思い出したりするかもしれない。
その会場の中の一人として、自分が入っていたとすれば、もうそれで十分だ。
そうだ。悲しむのは今日までにしよう。少しだけ勇気を持って歩き出そう。
旅をすることの楽しさも、その意味も、彼女たちが身をもって教えてくれた。
ここから、また新しい旅が始まるんだ。

■セカイシティ公式サイト:https://sekaicity.themedia.jp/
 公式You Tubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UC-B4F3QoDQRs2JWS-ImvgxA
 公式twitter:@sekaicity

※画像はすべて筆者撮影

アイドル&美少女系ライター。 アイドルファン歴ももう30年。新旧問わずアイドルの魅力や素晴らしさを伝えていければと思っています。 モットーは「生涯一アイドルヲタ」「人生で大切なことはアイドルから学んだ」。 夢は、世の中の「アイドル」と呼ばれる人たち全てが幸せになることです。

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