人の生き方は様々だ。大きな波風もなく平穏な一生を送る人もいれば、想像もつかないような激しい人生を送る人もいる。
そして、自分の想像を超えた壮絶な生き方を知ったとき、改めて自分の置かれた境遇が幸せであることを実感し、生きる力をもらえたりする。
その意味で、このマンガは“生きること”や“幸せ”とは何かを考えさせられる作品だ。
作者の卯月妙子さんは、1990年代に“企画モノ”のAV女優、ライター、漫画家として活躍した方。私生活では20歳で結婚、出産するも、その後夫が自殺。自身も統合失調症の悪化により7回もの入院を経験する。2004年には、当時出演していたストリップ劇場のステージ上で自ら首を切り救急車で運ばれたという逸話も持っている。
本作は彼女が10年間の沈黙を破って発表したドキュメンタリーで、36歳にして出会った25歳年上の恋人“ボビー”(日本人)とのエピソードが中心となっている。
かんしゃく持ちのボビーと病気を抱えた卯月さん、どこかぎこちないながらも幸せな日々が続く。
しかし、ある日、彼女は病気のため歩道橋から投身してしまう。一命をとりとめたものの、顔面から落ちた彼女は頭の骨を複雑骨折し、右目の視力も失う。
入院中に襲いかかる妄想と幻覚。現実と妄想の間をさまよいながらも、彼女は徐々に人間としての生活を取り戻していく。
後半、怪我の回復とともに、幸せを感じていく彼女の感情の描写が圧巻だ。
「ただただ生きていて欲しかった」と話す母への感謝、どんな顔になっても抱きしめてくれるボビーへの愛、そんな思いがセキララに描かれる。
この作品を読んで、業田良家さんの『自虐の詩』を思い出した。
どん底の生活を続けながらも自らを“幸せ”と言い、「人生には明らかに意味がある」と悟る主人公、幸江。
事実とフィクションの違いはあれど、苦しみを乗り越えた人のみがたどり着ける達観の境地には、どこか共通するものがある。
幸福というのは相対的なものではない。はたからどう思われようと、自分自身がはっきりと自覚できていれば、それはまぎれもなく『幸せ』なのだ。
本作の最後に書かれた「生きているって最高だ!!!」という言葉の重み。
地獄のような苦しみを経験した人だからこそ、その言葉は読む者の胸に迫るのだ。
※画像はイーストプレス『人間仮免中』サイトより http://eastpress.co.jp/shosai.php?serial=1531