TDL「美女と野獣」エリアまもなくオープン!「映画の世界を完全に再現して、そこに触れてもらいたい」 開発担当者に想いを聞く

  by ときたたかし  Tags :  

東京ディズニーランド史上最大の開発を経て、2020年4月15日にディズニー映画『美女と野獣』の世界が広がる“ニューファンタジーランド”がグランドオープンします。

ファンタジーランドを拡張して誕生するエリア“ニューファンタジーランド”には大型アトラクション「美女と野獣“魔法のものがたり”」や、東京ディズニーランド初の本格的な屋内シアター「ファンタジーランド・フォレストシアター」、トゥモローランドとトゥーンタウンには「ベイマックスのハッピーライド」、「ミニーのスタイルスタジオ」なども同時オープンする予定ですが、新たなステージ誕生の背景には、どのようなストーリーがあったのでしょうか。開発までの道のりや想いなどについて、同プロジェクトの担当者である株式会社オリエンタルランド プロジェクトマネジメントチームの黒田一陽さんに、お話をうかがいました。

●まず今回のTDL大規模開発プロジェクトの、ご担当としての想いについてうかがいたいです。

今回の東京ディズニーランド大規模開発は、開園して以来の最大規模の開発になりますので 、私個人としてもプロジェクトとしても、非常に楽しみにしているところです。構想段階で6年近くありますが、それがいよいよオープンするので、本当に感慨深いです。

●6年間、すべての工程に関わっていたのですか?

個人的にはこのプロジェクトに関わっている期間は、6年間の最後の3~4年です。実は新入社員の時、最初に配属された場所が「グランドサーキット・レースウェイ」でした。「スタージェット」も含め、今回のプロジェクトでクローズしたアトラクションなので、まさか自分が携わったアトラクションを、自分でクローズすることになるとは思ってもいなかったです。

●ほかの方よりは自分が、みたいな解釈も成り立ちますよね(笑)

すごく複雑な気持ちでしたが、それぞれのアトラクションがクローズする時、最後の日にパークに行きまして、閉まっていくところをこの目で見たんですね。キャストたちもみな涙ながらに最終日の運営をしていて、最終日は告知していましたから、ゲストのみなさんもたくさんいらしてましたね。その日の閉園間際はすごく盛り上がって、クローズしていくアトラクションを全員で惜しんでくださったんです。しかし、その時の体験があったからこそ、新しいものを作って喜んでもらえるものを作らなければいけないと、使命のようなものを感じました。そして、今日に至っています。

●さて、本国との折衝などもあったと思いますが、4年間どういう業務を?

プロジェクトは何を作るか決める段階と、決まったものを作る段階の二種類があると思いますが、わたしは前者に関わっていました。アトラクションを決める段階の話としては、ウォルト・ディズニー・イマジニアリング(以下WDI)というアメリカの開発部門がありまして、そこと連携して進めるわけですが、我々からは日本のニーズを説明して、たとえばキャパシティーなどの要件を提示して、それに対してクリエイティブ集団であるWDIが、それに見合った成果物を出してくる。それが我々の要件に見合っているかチェックをしたり、新たな助言をしたりして進めて行きました。

●日本ではディズニー映画『美女と野獣』が圧倒的な人気なので、それ以外の選択肢はなかったのでしょうか?

初期の段階からこのIPで間違いないだろうというところで、選ばれていました。映画もヒットしていますし、音楽も多くの方に支持されていて、実写版もありましたよね。舞台でもミュージカル公演している。幅広い世代に愛されていたので、これをやっていきたいと強く思っていました。それもあって、そうとうに早い段階で、選ばれたのかなとは思っています。

●フロリダ ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートにおける『美女と野獣』のエリア展開などは、意識しましたか?

ある程度は意識をしましたが、アメリカではミート&グリートのアトラクションがあり、レストランもひとつありますが、東京とはかなり違う部分が多いですよね。ガストンのレストランは共通する部分があると思いますが、規模は全然違います。内装の参考はしていますが、かなりの部分はゼロベースで作っています。なのでまったく違う印象になると思います。

●ベルの家など、かなり作品をベースに作っていますよね?

開発にあたっては1991年公開のディズニーの長編アニメーション映画『美女と野獣』をものすごくリスペクトをして、その世界を再現しようとしています。いろいろな事情で忠実にできない部分もありますが、でも極力忠実に再現していく。ゲストのみなさんには映画の世界に入ったような体験をしていただくようにと、当初から思っていました。いま完成に向かっていますが、実現してきているなと自信をもってみなさんにお届けできると思っています。

●メインとなるアトラクションには、ある“秘話”があるそうですね。

1991年の映画に関係した人にも今回手伝ってもらっていまして、アトラクションの中で映画の世界を再現しようとしました。これはアトラクションで再現は難しいと思われるシーンなどにもチャレンジしています。アトラクションの中のキャラクターが歌っているシーンがあるのですが、歌と口が合っていなかったんですね。これは壊れているのかと思ったら映画もそうなっていたと。そういうところも忠実に再現しようとしているんです。

●そのために8分間というライド時間に?

アトラクションの長さで8分間は、物語をなぞっていくタイプのアトラクションの中ではかなり長いほうですね。つまり、そういう意味ではかなり丁寧に再現されていると思うので、そこはぜひ注目してもらいたいなと思っています。また、レストランや街並みも再現されているので、エリア全体で映画を感じていただけます。もしかすると街並みもアトラクションの一部? と思ったりするかもしれないですね。アトラクションはお城内部で体験するようになってはいますが、映画の中ではお城の外でも物語は展開していますので、そういう部分を歩きながら、ワンシーンを感じながらアトラクションへ来てもらえれば、世界観を楽しめるかなと思います。

●昨今のテーマパークでのキーワードである“没入感”も凄まじそうです。

そうですね。そう感じてもらえるように作ったつもりです。ただ、8分間と言いましたが、映画は84分間くらいある。84分を8分に縮めることは、かなり難しい作業でして、原案となる映画の物語の一部をカットしなくてはならない。原作のほうがよかったみたいなことをよく耳にしますが、そういう意味では我々も同じような産みの苦しみを味わっていて、84分を8分に縮めたつもりではあるものの、どうしても泣く泣く入れられなかったシーンも数多くあって、映画がものすごく好きな人で、あのシーンがないみたいな思いにもなるかもしれない。ちょっと物足りないと思う人もいるかもしれない。でも、84分のアトラクションを作らないかぎり、それは難しい。映画をリスペクトしているという意味ではあれに敵うものはない、と思っていますので、我々としてはアトラクションを体験してもらって、映画を観ていただいて、もう一回アトラクションに乗ってみたいと思うようなサイクルが生まれればいいかなと、思っています。

ただ、映画に勝っているという部分では、ライドの動きなんですよね。映画にはそういう動きはないので、まるで生きているような、それに乗ってシーンの中に入って行くと、映画の中の出演者になったような感じになれると思います。それは映画鑑賞で体験できないので楽しんでほしいです。

●通路にもこだわりが?

いま体験後の話ばかりでしたが、並んでいるところでのこだわりもあります。ベルが野獣と出会ったシーンが再現されていますので、そういう意味では並んでいるところから物語が始まっています。通路もこだわりがあると言ってもいいかなと思っています。

●そしてガストンが日本では人気が高そうですが、今度のレストランも初期の段階で決定していましたか?

映画のなかでガストンたちが酒場で盛り上がっているシーンがあります。映画の世界観を作るにあたって酒場は必要な施設だと思っています。ルフゥのカウンターのお店も、ガストンのレストランに併設されています。映画を再現したい想いがあり、そこにはこだわって作っています。ガストンは村一番の狩人ですので、彼が狩ってきたものが展示されていたりとか、あのような性格ですので、自分を誇示するようなアイテムがあったりします。

●「ヴィレッジ・ショップス」という商品店舗もありますよね?

テーマとして店内が三種類に分かれて構成されておりまして、これも映画の中で最初に<朝の風景>のなかベルが街並みを歩いて行くシーンがありますが、やはりあの街並みを表現するためには、一個の店があるだけという理由では足らなかったと思うんです。だから店内を三種類に分け、映画の世界の街並みになるように工夫しました。その手法はすでにワールドバザールなどにも使われていまして、中はつながっているけれどお店は別々みたいな手法で、みなさんもよく親しまれている手法だと思っています。

●たとえばアメリカの「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」は特定の作品との依存関係はなく、新たに体験で自分の物語を作るコンセプトでしたが、その選択肢の可能性はなかったのでしょうか?

今回の『美女と野獣』のエリアについてはなかったですね。やはり映画の世界を完全に再現して、そこに触れてもらいたい。それが一番いいだろうと。すごく愛されている物語ですので、どこかアレンジしてしまうと、違うと思われてしまうかもしれない。もしかすると、そういう選択肢もあったのかもしれないですけれども、構想の段階から再現するべきという方向性でした。

●最後にオープンを楽しみに待っているゲストにメッセージをお願いします!

前述のアトラクションがクローズした際、その時に自分が感じたことは、ファンがいて、想いをもって働いているキャストがいることが大事だなあと。そういうことを改めて感じました。かのウォルト・ディズニーの言葉に「ディズニーランドは永遠に完成しない」という言葉がありまして、我々は常に進化していかなければいけないのですが、そういう体験があったからこそ、いまこうしてオープンの年を迎えますと、すべての人に楽しんでもらいたい、そういう想いが一段と強くなっているという感じです。

●本日はありがとうございました!

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo