成海璃子さんは謎の存在だ。
ドラマや映画に出ているときも、CMでビスケットをかじっているときも、時折バラエティ番組に出ているときですら何かを演じているように感じる。
もちろん、それでこそ“女優”なわけであるが、謎めいているからこそ、それを解き明かしたくなるのもファン心理というものである。
そんな気持ちに応えてくれるのが、8月18日に発売された写真集『RICO DAYS』だ。
撮影したのは、写真集『未来ちゃん』や『BABYBABY』で注目を集め、最近多くのアイドル写真を手掛けている気鋭のカメラマン川島小鳥さん。
彼の写真の最大の特徴は“もどかしさ”。
普通、アイドルのグラビアというと、恋人のような目線で撮影される場合が多い。
もちろん、一口に“恋人”といってもセクシーな表情で誘いかけてくるような場合もあるだろうし、だまって下を向いたまま後をついてくることもあるだろう。
しかし、川島さんの写真はそのどれでもない。そもそも、恋になんて至っていないのだ。
恋が始まる前、もしくはそれが恋と気づく前、人は言われようもないもどかしさを感じる。撮る側と撮られる側の絶妙な距離感によって、大人になると忘れてしまうようなその感覚を思い出させてくれるのが彼の写真なのである。
今回の写真集は成海さんが18歳の春からの1年間を収めたものだが、カメラを見つめる彼女の表情は、明らかに恋人へのそれではない。
それは写し取るカメラマン側がそういう思いで見ていないからだ。
“恋をしそう”“でも届かない”そんなもどかしさの中で、今回の写真集は生まれた。
もう一つ特筆すべきは、被写体となる成海さん自身だろう。
彼女は根っからの女優だ。芸歴ももう12年になる。幼いころから変わらない、天才的なたたずまいでフレームに収まる。どの写真からも、背景にぴったりとはまる“成海璃子”を演じているように見える。しかし、その距離感ゆえに、ふとした瞬間、素の彼女が顔をのぞかせるのだ。
春・夏・秋・冬、それぞれの季節の写真からも、“こちら側”にいる人の存在を感じさせない。旅に同行していながら、まるで自分は存在しないかのように思えてくる。
それこそが、川島小鳥さんが描き出す“もどかしさ”の本質なのだ。
この写真集は、他のアイドル写真集とは違う。バックに広がる自然や街並みと、そこにしっくりと存在する成海璃子さんの物語に想いをはせながらながら眺めるのがいい。
そして、そこに広がる謎に触れ、少しでもそれを解くカギを見つけることができれば、この本の魅力は最大限に発揮されるだろう。
8月18日には写真集の発売を記念して、新宿紀伊國屋書店で彼女の握手会が行われた。私もファンの一人として参加したが、目の前に現れた成海さんは、実に女優然としていて、美しい人だった。そして生で会っても、ほんの少し、謎めいた感じがした。
これから何度も写真集を見返すことによって、その謎に近づいて行くことになりそうだ。
※ワニブックスOnline Store より http://shop.wani.co.jp/detail.php?Item_ID=2940&Item_Code=cfa20ca37c0727b8856f17af05b92de8