なぜ今BTSはアメリカでヒットできたのか?K-POPとアメリカ音楽との関係と歴史を探る

  by jijijimusic  Tags :  

世界中で圧倒的な人気を誇る、『BTS(防弾少年団)』。日本でも、2000年代半ばの『東方神起』を思い起こさせるような大ヒットを遂げています。

しかし、BTSの何よりの特徴は、アメリカで成功できたこと。2018年には、2枚のアルバムがアメリカのビルボードチャートの1位に輝くなど、その爆進は止まりません。

これまで多くのアーティストがアメリカでのヒットに挑戦し、失敗してきた歴史があります。そのため、なぜ今なのか、なぜBTSなのかという理由については、様々な専門家やブロガーが分析しています。

多くの専門家が、BTSのアメリカでの宣伝戦略に注目しています。確かに、日系アメリカ人DJ、『スティーブ・アオキ』とのコラボなどがBTSの飛躍にとって大きな貢献を果たしたのは確かですが、それだけでは、なぜBTSなのかという説明にしかなりません。

ここでは主に女性アイドルの紹介を手がけてきたの視点から、新しい解釈を提供したいと思います。
 

アメリカは「誰もが成功できるステージ」ではない

アメリカでのヒットを目指したものの、失敗に終わった事例は少なくありません。しかも、アメリカへの進出は、自分の足元を崩す行動でもあるのです。

2000年代半ばに韓国で人気があった女性アイドルグループ、『Wonder Girls(ワンダー・ガールズ)』は、その勢いでアメリカにも進出。西海岸に多い韓国系アメリカ人からの支持を狙っての進出で、確かにアジア系の間では一定の知名度を確保できたようです。

しかし、これによって本国である韓国での活動がおろそかになり、急速に台頭してきた『少女時代』に人気を奪われてしまいました。当時は業界全体としてK-POPを推進する空気が乏しかったため、

もちろん、日本に熱中するあまり、韓国での人気が下がった『KARA』のような事例もありますが、日本と韓国での活動は両立しやすいのです。それに比べて、アメリカでの活動は難しい、時間を掛けられない、というのが従来までの一般的な認識でした。
 

KCONの登場

日本では2009〜2010年にかけて、KARA・少女時代を中心とするK-POPブームが到来しますが、ナショナリスティックなフジテレビ抗議デモ・花王デモを受けて、テレビ局がK-POPを取り上げづらい時代になります。

一方、韓国と中国との関係も難しい状況でした。日韓関係と同じように政治問題に左右されやすいため、多くの中国出身者をアイドルとしてリクルートしたものの、効果的に中国進出が達成できない状況が生まれていました。

その頃、韓国ではK-POP業界全体としてアメリカへの進出を目指していこうという風潮が高まり、一種の共同戦線が作られます。競合するライバル同士が提携して一緒にイベントを開催するというのは、日本で考えると異様に思えます。

Mnet主催で2012年に西海岸・サンフランシスコで『KCON』(K-POPアーティストのコンサート)が開催されました。もちろん巨大企業であれば、単独でも大きなイベントを開催できるのですが、小規模な事務所にとっては、海外の大きな会場でたくさんの観客にアーティストを見てもらうには、この方式がいちばん有効です。

このイベントが、アメリカのメディアに取り上げられるようになり、K-POPへの関心が高まってきました。2017年〜2018年にかけてのBTSブームは、このK-POPへの関心が社会全体に行き渡り、浸透した結果といえます。
 

アメリカの認識変化

それに加えて、アメリカの音楽業界がアジアに対して、よりオープンになったという事情もあります。

矛盾するようですが、別に以前のアメリカ人が人種差別的だったというわけではありません。アメリカ音楽界はいわゆる白人だけではなく、アフリカ系、ヒスパニックなど様々な人種の人が夢をつかめる場所でした。

しかし、2010年頃には人種によって聴く音楽が違うという傾向が強く残っていましたし、海外出身のアーティストに対して今ひとつオープンではない印象もありました。こうした状況では、K-POPはアメリカ社会では少数派にとどまるアジア系にだけしか受け入れられず、全国的なヒットは難しくなります。

現在では保守化が進むアメリカの中で、音楽界こそがリベラルの拠点になっています。排外的な発言を繰り返すトランプ大統領に対して抵抗を続けているのは、多様なバックグランドとエスニシティを持つアーティストたちです。

こうした環境の中で、音楽ファン全体が異質な音楽に対してよりオープンになり、人種に関わらず同じ音楽を聴くようになりました。こうしてK-POPは、アジア系以外のアメリカ人の間でも積極的に聴かれるようなジャンルへと成長できるようになりました。
 

これまでのK-POPのアメリカ展開は無駄だったのか

ただ、以上の理由でまとめてしまうと、「これまでのK-POPアーティストたちは、アメリカでヒットするための時期に合っていなかった」という、冷たい認識で終わってしまいそうです。

もちろん、そんなことはありません。BTS以前のK-POPアーティストたちは、西海岸のアジア系アメリカ人の間で活躍することで、少しずつK-POPの存在感を高めてきました。

芸能事務所もアメリカで積極的にスカウトを行い、韓国系アメリカ人(在米同胞)をリクルートすることで、アメリカに進出する手がかりをつかんできました。2007年にデビューした少女時代の初期メンバー、9人のうち4人がアメリカ出身であると言えば、どれだけK-POPがアメリカの音楽市場に集中してきたかが分かるでしょう。

ここにKCONなどのイベントの登場、そしてアメリカでアジア系の音楽を受け入れる雰囲気が出来上がったことが、BTS活躍の土壌となりました。そして最初に述べたように、そして多くのブロガーが指摘しているように、アメリカの文化に対してオープンなBTSの姿勢が、他のアーティストから一歩前へ進むことを可能にしたのです。

画像:
BTS JAPAN OFFICIAL FANCLUBより引用
https://bts-official.jp/

東京在住、男子大学生のアイドルオタク。ジジジ・ミュージック(jijiji.jp)を根城に、K-POPの動向を追っています。

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