暑い夏だった。
2015年7月5日。私は自宅で『アイドル横丁夏祭り!!』のネット中継を見ていた。
推しである、ベイビーレイズJAPANのライブを見るためである。
少し早い時間から見始めた私の耳に、聞き覚えのあるイントロが飛び込んできた。
フジファブリックの『夜明けのBEAT』だった。
「え?こんな曲カバーするアイドルいるの?」
それがアイドルネッサンスとの出会いだ。
翌月に開催されたTOKYO IDOL FESTIVALで彼女たちのステージを見て、AKIBAカルチャーズ劇場で行われていた定期公演にも足を運んだ。
そうして、あっという間にハマっていった。
一体、彼女たちの何がそうさせたのか。
実は、自分でもよく分かっていない。
ありていのことならなんとでも言える。
「私たちの知っている名曲が生まれ変わる」
「純白の少女たちによる圧巻のパフォーマンス」
そして、「驚くほどピュアな少女たちの素顔」。
もちろんそれらも重要なファクターだった。でもそれだけじゃない。知れば知るほど、彼女たちの中に内包されている“物語”に心奪われた。
メンバーのうち二人は地方在住だ。
広島と岩手、毎週のように上京してくる新幹線の中で、彼女たちは何を思い、どう過ごしていたのだろう。
沖縄から上京して、「アイドルネッサンスとして沖縄に行くまでは、絶対帰らない」と誓い、頑なに守り続けたメンバーもいた。
候補生時代から合わせて4年間、一日も欠かさずブログを書き続けたメンバーもいる。
ピュアで、真面目で、でもちょっとひねくれたところもあって、憧れの少女のようで、でもどこか少年ぽいところがあったりして。
そんな、憧れの集合体がアイドルネッサンスだった。
ご多分に漏れず、私も気が多いほうなので、他のアイドルもたくさん見ていたけど、そんな中で彼女たちに出会えたのはとても幸せだと思った。
解散が発表された日、極力冷静でいようと思ったが、常に上を目指して努力を続けていたメンバーのことを思って、少し胸が痛んだ。
迎えた解散の日、満員の会場で、最初に流れてきたのは『ミラクルをキミとおこしたいんです』。
「ミラクルがおこって、このまま解散が無くならないかな」そんなことを思ったけど、それは無理なことだった。
2時間半にも及んだラストライブ、いつも以上に盛り上がったその会場では、悲しみよりも楽しさのほうが勝っていた。
それがまた、彼女たちらしかった。
会場を後にして、家に帰る道すがら、今までのことを思い出していた。
橋本佳奈は母親のようだった。
結成時からのリーダーとして、グループを温かく見守り続けた。
橋本の卒業後、リーダーを引き継いだ新井乃亜もまた、母性をもってメンバーの力となっていた。
石野理子はカリスマだ。
彼女の歌声には、常に魂が宿り、聴くものの心を揺さぶる。
この世界を、ちょっと冷めた目で見ているようなスタンスもかっこよかった。
南端まいなは努力の人だ。
毎日書き続けたブログ、夜送られてくる『おやすみLINE』、金曜日に必ずアップされる『金曜日のおはよう』動画。
続けることの大切さと、その大変さを一番良く知っているのは彼女だろう。
百岡古宵はエリートだ。
「みなさん、こんばんはー!」いつもそんな彼女の声で、MCが始まる。
曲中のアオリでも、彼女の言葉で会場の雰囲気を変えてしまう、そんな力が彼女にはあった。
宮本茉凜は、希望だ。
たくみにMCを回し、告知をこなす彼女からは、どのメンバーよりも大きな“成長”を感じた。
原田珠々華は、自分に厳しかった。
ギターでの弾き語り動画をアップし続けなから、常に“もう少し上”を目指し、悩む姿が印象的だった。
野本ゆめかは、誰よりもアイドルだった。
幼い頃からアイドルに憧れ、その世界に自分も飛び込むことができた。
その喜びを全身で表すようなパフォーマンスは、見ていてとても嬉しかった。
そして、比嘉奈菜子は、太陽だった。
沖縄の灼熱の太陽のもとで育った彼女は、いつしか自分が太陽となり、その明るい笑顔で、他のメンバーやファンをの心を照らし続けた。
わずか2年半ではあったが、彼女たちと過ごすことができて、十分過ぎるほど幸せであったとは思う。
ただ、ライブの次の日の朝、ぼんやりと思った。
僕らは夢を見ていたのかもしれない。
長い長い、夢を見ていたのかもしれないって。
最後まで、一点の汚れも曇りも無いまま、彼女たちはいなくなってしまった。
あれから一ヶ月が経った。
「アイドルネッサンスのいない世界なんて…」そう思っていた世界も、日常の生活の中で、それはそれで輝きを見せている。
時々思うんだ。
ミラクルを起こせなかったんじゃない。
ミラクルは起きた。
だって、アイドルネッサンスから感じた私たちの心のざわめきは、ミラクルそのものだったじゃないか。
毎日のブログや動画更新が無くなっても。
おやすみのLINEがこなくても。
思い出は、なくならない。
ミラクルは続くんだ。
かなぼん、乃亜ちゃん、りこちゃん、まいな、こよちゃん、みやも、ずー、ゆめ、なっこ。
アイドルネッサンスがいなくなった世界で、それでもみんながどこかで青春を送っていると思うだけで、僕ははまた少し、幸せになれるような気がしているよ。
※画像は、アイドルネッサンス公式サイトより http://idolrenaissance.com/