高校生は演劇をすれば人生が楽になる!? 話題の職業「ドラマティーチャー」について聞いてみた。

  by リットーミュージックと立東舎の中の人  Tags :  

「高校の授業」というと、教室で机に座って、将来役に立つかなんてわからない勉強をして……、というイメージですよね。でも、最近はそうじゃない授業があるんです。 最近『高校生が生きやすくなるための演劇教育』(立東舎)という本も出した追手門学院高等学校のいしいみちこ先生は、「ドラマティーチャー」、つまり演劇の先生。彼女が教えるクラスには、「英語」「国語」といった時間割のなかに「演劇」があるんです。 でも、部活じゃなくて授業で演劇をやるって、具体的にどういうことなんでしょう? そのあたりを、いしい先生に聞いてみました。

ドラマティーチャーという職業は、どんなお仕事なんですか?

演劇という表現方法を用いて教育をする仕事です。演劇も含め、表現は他者に向かってするコミュニケーションでもあるわけですが、そこに焦点化してコミュニケーションについて教えたり、その元となる自分について考えてもらったり、他者との協働について具体的に学んでもらったりする仕事です。

授業でどんなことをやっているか、教えてください。

私は身体性を大切にしているので、基本的に授業の3分の1は身体作りのための筋力トレーニングや運動をしています。その後に演技の基礎訓練を使った授業をします。実技なので体験を通して気づきが生まれるよう、実感のある学びの時間になるようプログラムを組み立てています。

高校生に演劇を教えると、生徒にどういう変化があるんですか?

これは私が演劇教育を始めた頃からずっと行っている、19項目80問に答えてもらうという意識調査です。

入学時から卒業まで5回にわたって節目節目で調査しています。このデータはこの春卒業した生徒たちのものですが、演劇教育を受ける前(入学直後)と受けた後(卒業時)のグラフで、明らかに意識の変容が見て取れますよね。アンケートなので自分に対する認識が変わった結果が可視化されているのですが、自分を肯定的に捉えられるようになったことがわかります。特に主体性や能動性は身につく生徒が多いと感じます。

高校生に教えていて、今までで一番印象に残っているエピソードはありますか。

一番、というのが難しいですね。たくさんあり過ぎて紹介するのが難しい(笑)。目の前で生徒が何かに気づき、認識が変わっていく瞬間に立ちあうことがあるのですが、そういう瞬間は他の仕事ではなかなか出会えないのかもしれません。

東日本大震災のとき、いしい先生は福島のいわき総合高校で教えられていたんですよね。震災のときの状況を教えてください。

あの日、福島県は高校入試期間だったんです。いわき総合高校は合否判定会の日で、会議が終わって一休みした時に地震が来ました。本震の後もまるでサーフボードに乗ってるみたいに、ずっと揺れていたのを覚えています。生徒は自宅学習中でした。電話はまったくつながらなかったのでメールのやりとりで生徒の安否を確認しました。次の日福島第一原発1号機、2日後には3号機が水素爆発したので、いわきから多くの人が避難し、学校再開にも1ヶ月半ほどかかりました。生徒が学校に戻ってきて、いろいろな思いを抱えている姿を目の当たりにして、その思いを演劇という形で表現する活動をしてきました。

そういったことを経て、岸田國士戯曲賞を受賞した『ブルーシート』に繋がっていくんですね。『ブルーシート』はどのようにして作られたのですか。

いわき総合高校の演劇の授業の一環で、プロのアーティストをお招きして作品を制作し公演をするというプログラムがあります。『ブルーシート』は12期生のアトリエ公演で飴屋法水さんが作・演出をして下さった作品です。飴屋さんは生徒たちをよく観察して、彼らの言葉を採取しながら脚本を書き下ろして下さいました。この作品は真冬のグラウンドで、いわきの真っ青な空の下でたった2回だけ上演されました。そんな、世界の片隅で行われた作品が岸田賞を受賞したことには正直驚かされました。

今回の本『高校生が生きやすくなるための演劇教育』には、平田オリザさんとの対談も収録されています。いしい先生にとって、平田オリザさんはどんな存在でしょう。

私にとってというよりは、日本の芸術・文化にとってとても大切な存在だと感じています。芸術が行っていることやその価値を、芸術から遠い人にもわかりやすく、しかも論理的に、説得力のある言葉で説明できる実演家は少ないと思います。オリザさんがそれをして下さっているおかげで、演劇が教育に取り入れられることに抵抗感が少なくなったように思います。学術-芸術・文化-教育の連関をゆるやかにして下さっている大切な存在だと思います。

これからの目標を教えてください。

芸術教育としての演劇教育ではなく、人間関係やコミュニケーション教育としての演劇教育は今後ますます必要になってくるのではないかと思います。また、先生を筆頭とした教育に関わる大人に、私が行っているような演劇教育的視点を少しでも持ってもらいたい。こういった教育が少しでも広がって行くような活動をしていきたいです。

最後に、これを読んでいる高校生の方にメッセージがあればお願いします。

学校という閉じられた場所にいると、自分がどんな力を持っているかわからないことが多いです。みなさんはひとり一人、社会の中で大きな力と影響力を持つことができます。自分が誰にも代えられない存在であることを、必要とされる存在であることを知ってほしい。この本を読んで、なにかそのヒントがみつかれば、と思います。

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いかがでしたか? いしい先生の取り組みが気になった方は、ぜひ本書を読んでみてください!

*本記事で使用している画像はすべて『高校生が生きやすくなるための演劇教育』(立東舎)のものです。


『高校生が生きやすくなるための演劇教育』
(立東舎)
著者:いしいみちこ
定価:(本体1,500円+税)
発売:2017年5月19日

いしいみちこ PROFILE
ドラマティーチャー。2001年より福島県立いわき総合高等学校の総合学科の立ち上げに携わる。2014年より追手門学院高等学校教諭。

リットーミュージックと立東舎の中の人

( ̄▼ ̄)ニヤッ インプレスグループの一員の出版社「リットーミュージック」と「立東舎」の中の人が、自社の書籍の愛を叫びます。

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