今回、紹介するのは「ナッシング・トゥ・ルーズ」(1997/スティーヴ・オーデカーク)
アメリカ発のコメディ映画だ。
※この記事はネタばれを含んでいます。
ストーリーはロサンゼルスに勤務するエリート会社員のニックが自宅へ帰るところから始まる。
サプライズも兼ねて、愛する妻に告げずに、予定より早く帰宅してみるとそこには……。
ベッドの上で自分以外の誰かと愛し合う妻、アンの姿が。
それが、会社の上司だと知った彼は深く絶望し、自棄を起こすのだった。
あてもなく、車を走らせていたニックは、いつのまにか白人が入り込んではいけない空気を醸し出すスラムにいたのだった。
そこに、拳銃を持ったカージャック、ポールが現れる。
だが、妻を奪われた悲しみに浸る彼に、そのような脅しは効かない。
拳銃を突きつけられながら、ニックは車を走らせる。
あてもなく、アリゾナまで。
びびるポール。
それも、そのはず。彼は、生活苦にあえぎ、強盗をはたらいてみたものの、その道に関しては、まったくの素人。
そんな二人は一軒のドライブインに入るのだった。
帰り際、代金を払おうとしたニックは、とあるミスに気づく。
そう、自棄になって、財布ごと、道中に投げ捨ててしまっていたことを。
仕方なくポールにその場の主導権を握られ、彼とこの先をともにするニック。
そんな、ニックはとあることを思いつく。
強盗をしよう。
自分の妻を奪った上司のいる会社。自分の会社の。
自分は内部の人間だから、セキュリティにも詳しい。
ポールも手伝ってくれる。やるしかない。
ニックの持ち前の頭の回転の速さも手伝って、ニックとポール、二人は上司の部屋の金庫の金を盗みだすことに成功する。腹いせに、防犯カメラに写りこむということまでして。
ホテルについたニックは、妻に電話をする。
縋るように。
すると、あの日、見た情事は彼女の妹とその婚約者の光景だったと聞かされる。
愛する妻が誰にも奪われてないという事実にほっとするニック。
しかし、重大な事実に気づく。
自分は、強盗をはたらいてしまった……。
この事実は変わらない。
半ばあきらめながら、出社した彼は、上司の怒りを目にする。
―盗んだのは自分なのだ。
上司が社員を呼んで、防犯カメラのビデオをチェックする。
ああ、もうだめだ。
そう、思ったとき、画面が切り替わる。
ポールといたときの、映像が繰り広げられる。
―助かった。
ビデオの映像を上書きしたのは、ポールだった。
彼は、電気工事士として、会社に忍びこんで、ニックをかばったのだ。
あれほど、争ったのに……。
そんな、ポールの優しさに感激した彼は、ポールの下に向かう。
家族でバーベキューをしている彼の下に。
そして、職が見つからないという彼を、自分の働いている会社に迎え入れるのだった。
愛の力は時に、人を信じられないほどに、豹変させる。
信頼が彼を救ったのだ。
妻への信頼。回復したものと、ポールへの信頼。新しく作り上げたもの。
笑いながらも、深く考えられるハートフルコメディである。