赤ずきんに赤い外套を着た白ひげの老人と言えば、誰もがサンタクロースを想い浮かべるはずだ。サンタクロースは、キリスト教の聖者ニコラウスの伝説と、クリスマスにプレゼントを贈る習慣とが結びついて誕生したというのが通説で、今では、クリスマスイブに子どもたちにプレゼントを配って歩くキャラクターがすっかり定着している。
このサンタクロースは、電飾や人形で飾られたモミの木―クリスマスツリーと並んで、クリスマスを彩る欠かせない存在だ。
しかし、そんなサンタクロースやクリスマスツリーも、クリスマスを祝わないイスラム教の国となると、少々事情は異なってくる。世俗的な国では、キリスト教国のクリスマスの影響を受け、12月25日にプレゼントを交換したり、カードを送ったりする習慣ができつつある一方で、厳格なイスラム主義を採用する国では、サンタクロースの絵が描かれたカードを持っているだけでお咎めを受けるような場合もあるという。
さて、今わたしが暮らしているのは、中央アジアのウズベキスタン共和国。ここウズベキスタンは、国民の90パーセント近くがムスリムといわれるイスラム教国だ。ロシア系住民を中心に、キリスト教徒も多少いるが、そのほとんどはロシア正教会(注1)の信徒たちで、12月25日を祝う文化はない。それでも、12月も半ばを過ぎると、広場や街角にはきらびやかな電飾をまとったツリーが登場し、バザール(市場)にも、電飾や赤い帽子、モールを売るコーナーができて活気を見せる。おまけに、サンタクロースの格好をした人々も街中で目にするようになり、レストランのウェイターやホテルの従業員、果てはタクシードライバーやバスの運転手までが、サンタクロースに扮して仕事をするようになる。
だから、この国で過ごした最初の冬は、何が起こっているのかわからず、あっけにとられた程だった。
しかし、答えはすぐにわかった。12月25日を過ぎても、街角に立つツリーや、バザールの“クリスマスコーナー”は撤去されず、それどころか、ますます活気を見せるようになるのだ。このころになると、サンタクロースの格好をした男性が、ウズベク語やロシア語で「ハッピーニューイヤー」と書かれたボードを持って街を練り歩くようになるし、新年を祝うメッセージと共にサンタクロースが描かれたコカコーラ社の宣伝看板も登場する。
そう、この国のサンタクロースやクリスマスツリーは、クリスマスを祝うものではなく、新年を祝うためのものなのだ。
電飾で飾られたモミの木が中心に立つ街の広場は、今日、明日とさらに活気を見せる。ツリーの最上部に飾られた三日月‐ベツレヘムの星ではなく、イスラムの象徴たる新月‐も、ひときわ強く輝くだろう。
注1:ロシア正教会のクリスマスは1月7日