3D映画”三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船” 観る前の予備知識

  by pape.佐野  Tags :  

映画”三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船”は、歴史もので初めて3D化された注目のアクション映画。フランス古典名作「三銃士」を、とんでもなくファンタスティックな発想でエンターテイメント化したものです。

「三銃士」はアレクサンドル・デュマが新聞連載小説として1844年に発表したものですが、以来、映画化は数知れず、アニメやミュージカルや人形劇化され、ともかくこれほどまでに全世界で愛されている作品は例を見ないでしょう。

そこで、今回の映画化によって、「三銃士」という作品に関心をもつであろう人たちに、少しだけ予備知識を提供しておきましょう。

まず、この映画にも登場するリシュリュー宰相やバッキンガム公爵、アンヌ王妃にルイ13世などの歴史的人物は当然、実在していますから、適当に調べて見て下さい。

<飛行船・王妃の首飾り>

飛行船に関しては当然、「ファンタジー」です。フランスのモンゴルフィエ兄弟が熱気球の実験に成功するのが1783年なのでこの物語から150年ほど先のことです。「王妃の首飾り」とは、原作者デュマの別の作品の名です。やはり150年ほど先のフランスで、あの王妃マリー・アントワネットに仕掛けられた破廉恥な首飾り詐欺事件を、デュマが小説化した時の作品名。

ただ、この映画の骨格にもなっているフランス王妃アンヌ・ドートリッシュとイギリス宰相バッキンガム公爵の恋愛関係は史実で、その時に、王妃の首飾りにまつわる陰謀があったことは、当時のある回想録(貴族などが残した手記)に確認がとれています。従って、原作の中で主人公ダルタニャンと三銃士らが争奪戦を演じる「首飾り」は「史実」となります。

<主人公ダルタニャン>

ローガン・ラーマン演じる主人公のダルタニャンは、いかにも快活で陽気な「物語の主人公」っぽいキャラですが、実は実在しています。フランスのラルース人名事典などにも名が出ています。「ダルタニャン伯爵シャルル・ド・バッツ。ガスコン貴族。1611~73。ルイ14世の近衛銃士隊長。後に野戦総監。マーストリヒト攻囲戦にて戦死」とあります。子孫もいて、酒造業をしています。(“ガスコン”はガスコーニュ地方の意)

そもそも、原作者デュマが実在の軍人ダルタニャンが残した「回想録」を参考に物語の着想を得ているのです。あまり有名ではないが、ちょっとした歴史書には名前が出てくる程度の軍人さん、というわけです。(ただし、その「ダルタニャン回想録」は別人の手による偽物)

<三銃士① アトス>

マシュー・マクファディン演じるアトス。ちょっと陰のある思慮深い男、アトスも三銃士の一人でダルタニャンの仲間ですが、この人も実在。アルマン・ド・シレーグ・ダトス。1615年~43年。随分、短命なんですね。近衛銃士隊員なのですが、実は決闘して死んでいます。最近、パリのある修道院でその記録が発見されました。修道院の敷地はよく決闘の場に利用されていましたから、死体を修道士らが収用したようで、その記録ということです。”ダル”の仲間として活躍させたのは、原作者デュマの創造力です。

<三銃士② アラミス>

ルーク・エヴァンス演じるアラミス。オシャレでプレイボーイの三銃士の一人。彼も実在でアンリ・ダラミッツ。1620年~55年もしくは74年。近衛銃士隊を引退後に田舎に隠居。結婚して子供をつくり、穏やかですが地味な人生を送っています。

<三銃士③ ポルトス>

レイ・スティーヴンソン演じるポルトス。三銃士の一人で豪放で陽気な男。彼も実在。本名はイザック・ド・ポー。1617年~1712年。かなり長命。少し前まではかなり短命で死去していることになっていたが、研究が進んだのか、95歳で脳梗塞で死と改められています。この人も部隊を引退後に帰省し、子供2人を残して穏やかな人生。

よく見ると、”ダル”の先輩の銃士隊員のはずが、みんな年下なんですね、史実は。

<宿敵・妖艶な美女ミレディー>

映画でも敵対する妖艶な女貴族であるミレディー。ミラ・ジョヴォヴィッチが演じて、大立ち回りをするスペクタクル・シーンなど見どころですが、この「ミレディー」とは、名前ではなく「イギリス貴婦人」を呼ぶときに使う呼称です。当時の実在していた女スパイ、カーライル伯爵夫人リュシーをモデルに原作者デュマが設定した女。イギリスのバッキンガム公爵のもとへフランスから派遣された女諜報員です。でも、カーライル伯爵家なので、かなり身分の高いイギリス貴婦人です。

<強敵・冷酷非情な独眼流ロシュフォール>

そして宿敵ロシュフォール。マッツ・ミケルセン演じるこの人物も、同名の実在人物がモデルとされています。ダルタニャン回想録に登場する「ロネー」という人物が原型ですが、これには諸説はあります。フランスの「ロシュフォール家」だと、銃士たちとチャンバラをするような身分の貴族ではなく、名門の部類ですので、本来は無理がありますね、デュマの設定自体に。

<”銃士”とは>

映画の中に出てくる「近衛銃士」というのは、実在のフランス国王身辺警護の名誉ある部隊です。地方貴族たちが仕えており、近衛の諸部隊の中でもライフル銃(マスケット銃)を装備した兵科。映画中の青い前掛けみたいな制服は、カザックといって銃士のシンボルです。(但しベルトは上から締めない)実際の色合いはもう少し薄い青地に銀の十字です。よく、リシュリュー宰相の護衛部隊(こちらは赤いカザック。映画の黒地に赤十字の制服は演出ですね)と、街中で悶着を起こし、決闘騒ぎなんてやってましたから、それは映画にある通りです。

<バッキンガム公爵とアンヌ王妃の不倫関係>

原作では、イギリス宰相バッキンガム公爵がフランス王妃アンヌに恋して、王妃失脚をねらうフランス宰相リシュリューが二人の不倫関係をフランス国王ルイ13世に暴こうとする物語なのですが、これがまた史実らしい。国王ルイ13世はどうも同性愛だったようで、どうしても王妃に冷たい。そこで満たされぬ王妃は、大使とした渡仏してきたバッキンガムと恋仲になったようです。フランスからの退去を命じられたバッキンガム公爵は、帰国後、宰相としての権威とイギリス国王チャールズ1世への影響力を利用して、フランス国内での新教徒の反乱を同じ新教国として軍事支援する名目で、宣戦布告。軍事力でフランスに乗り込んでアンヌ王妃との恋を成就させようと目論んだ、という学説もあります。作戦準備中に公爵は暗殺されてすべては終わってしまうのですが、この「史実」の方がものすごいような気もしますね。

<どこでも買える文庫本「三銃士」>

原作「三銃士」はどこの書店でも複数の出版社から刊行されています。映画化のたびにカラーの帯を巻きかえていますね。ただ、それは上下2巻本ですが、本当は「鉄仮面」(1998年デカブリオ主演で映画化)も含めて11巻ほどの長さです。

もちろん飛行船での空中戦や火炎を吹く銃器など登場しませんが、読み始めると止まらない冒険活劇小説です。楽しくて頭の中が3Dになります。ぜひ、この映画を機会に、原作も手にしてみて下さい。

画像は”三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船”公式サイト・スクリーンショット

30年のサラリーマン生活後、心理カウンセラーとしてNPO法人東京カウンセル設立、無料のメール・カウンセリングを行っています。「無料」そして「匿名メール」という気楽さから、多種多様な年齢層の恋愛問題から精神疾患まで、現代の「悩み」「トラブル」「精神医療の実態」全般に精通しています。日々の事件報道も、関わる個人の心理に踏み込んで行くと、物事の真相が理解でき、また悪いことも善いことも、共感の中に消化できるものです。少し違った視点からの記事をアップしていきたいと思います。

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