「おはようございます!」
まだ漆黒の闇につつまれた奈良旧市街に活気づいた声が響く。
2月4日早朝、『春鹿』の銘酒で名高い今西清兵衛商店には『立春朝搾り』を出荷するために百人を超える酒販業者がつめかけていた。
『立春朝搾り』とは一年でもっとも寒さの極まると言われる立春の朝に搾った酒。
日本版ボジョレー・ヌーボーとでも言えばわかりやすいだろうか。
この酒をいち早く飲み手まで届けようという一連は日本酒界の一大イベントになっているのだ。
今西清兵衛商店 今西清隆社長
「春らしい香り高くやわらかいイメージのお酒ができました。
今年は去年より1000本ほど多く、12000本以上の立春朝搾りを出荷させていただきます。
生産量は年々増えてますが一晩で瓶詰できる量としてはもう目一杯になってきましたね。
縁起物としての認知度が高まってきていて、数多くの酒販店の方にお越しいただき有難く思っています」
大丸松坂屋百貨店 西野京子さん
「長年お願いしていましたが今年からようやくうちでも取り扱えるようになりました。舌の肥えた大勢のお客さまに春鹿の立春朝搾りをお届けすることができて嬉しいです」
酒販業者はこの日、単に商品を引き取って帰るだけではない。
12000本のボトルに”たすき”と呼ばれる立春朝搾り専用ラベルを貼り、ダンボールに梱包する作業をしなくてはならないのだ。
百人以上の人が作業台に向かい何時間もの間、黙々と手を動かす光景は壮観である。
作業が終わり、蔵元振る舞いの朝食で一息ついた後は大阪の今宮戎から招いた宮司による祈祷。
皆が神前に頭を垂れ祝詞が読み上げられる中、それぞれの想いにふける。
日本においては古来より酒と神事は不可分な関係だが、実際にそれらの関わり合う姿を間近に見ると筆者自身、酒飲みとしてなんともおごそかな気持ちに包まれていった。
今西清兵衛商店 今西清悟会長
「僕は昭和29年に国税庁醸造試験所に入って、”指導する”という名目で東北の酒蔵を何年もまわって酒造りを勉強させてもらったんです。
それまで「売れる酒=うまい酒」やと思ってましたけど、東北の酒に触れてほんまの酒のうまさに気付かされました。さらにショックやったのは宮城の青葉城(仙台城)にある石碑を読んだ時。
「江戸時代に伊達政宗が奈良の杜氏を士分で取り立てて酒を造らせた」
という内容やったんですけど、当時は奈良の酒こそが”南都諸白”と呼ばれて日本に冠たる酒やったんですね。
それがいつの間にか負けてしまっている。
実家の春鹿に戻って自分の蔵のレベルを高めて、どうにかもう一度奈良の酒を日本最高の酒にしてやろうと決意しました。
あれから何十年も経ちましたが今年の立春朝搾りを飲んで、僕の考えてきたことは間違ってなかったと確信します。日本人はなにごとでも早く結果を見たいせっかちな気質やないですか。
酒なら新酒。それが美味く造れてもう言うことなしですよ」
年を経るごとに人気も質も高まってゆく春鹿の立春朝搾り。
来年以降もその発展をお知らせしていきたいと思う。
ちなみに奈良の中心街からほど近い今西清兵衛商店にはお酒が試飲でき、こだわりの酒器やお菓子などが購入できるショップが併設されている。奈良にお越しの際にはおススメのスポットだ。
営業時間/AM8:15~PM17:15(※事前にご確認ください)
http://www.harushika.com/fs/harushika/c/kurashop/
※今回の取材はインターネットラジオ『BS@もてもてラジ袋』(http://www.moteradi.com/)の主宰者で市民生活専門家の戸田健太郎さんにご協力いただきました。