変圧器と言って何を思い浮かべるだろうか。変圧器とは電圧を変える装置だ。海外旅行に持っていく電化製品用の小型の変圧器。電柱に乗っている柱上変圧器、変電所や工場の中にある大型の変圧器。その変圧器の中を見る機会を得た。
一般の家庭にきている電気は交流100ボルトだが、家の前の電柱に張られている電線は6600ボルトで、それを柱上変圧器で100ボルトに変圧して送電している。見る機会を得たのは柱上変圧器そのものではないが、6600ボルトを200ボルトと100ボルトに変換する変圧器で柱上のものとほぼ同じものだ。
変圧器の中身は基本的に銅線をぐるぐる巻きにしたコイルで、それらがオイルの中に沈んでいる。なぜオイルの中に沈んでいるのかというと、熱を持つので冷却のためと、電気的な絶縁のためだ。
そして中のオイルはこのようなものだ。若干古いタイプなので中のオイルには微量なPCBが含まれているということで、触るのは遠慮しておいた。ちなみに電力会社の変圧器はPCBが入っているものは現在存在しないということなので安心してほしい。
これから行われるのはオイルの絶縁試験。基本的にオイルは絶縁物なのだが電圧が上がるとオイルの中を電気が走ってしまう。その電圧が規定以上になっているのかを試験するのだ。
絶縁試験をする前に、空気の絶縁破壊試験を見せてもらった。空気も絶縁物なのだが、高電圧だと空気中にも電気が流れてしまうことは雷などで経験的に知っている方も多いだろう。しかし目の前で空気中を電気が走るのは見たことがない。普段は絶縁物なのに電圧が高いため電気が流れてしまうことを絶縁破壊という。なのでこれは絶縁破壊の実験ということだ。
電極を25ミリメートル離して電圧を上げていく。2万5千ボルトを超えたところでバチッという音とともに赤い火花が走った。この電圧は新幹線の架線電圧と同じだ。ちょっと怖い。
さらに電極を離して実験を続ける。電極の距離が離れるともっと電圧を上げないと絶縁破壊は起きない。2万5千ボルトを超え3万ボルト手前でジーッという音が聞こえ始め、バシッという爆音とともに今度は青白いせん光が走った。まさに雷である。
このことから、新幹線の架線電圧くらいになると触らなくても近づいただけで空気中を電気が走ってしまうということだ。恐ろしい。
今度は先ほど採取した変圧器のオイルの絶縁試験を見せてもらった。
さすがに液体中を電気が走るのは想像がつかない。電圧を上げていく。2万ボルトからスタートして3万ボルトを超え、さらにコールが続く。3万5千ボルトを超え3万9千ボルト付近でポンッという音とともにオイル全体が光り、オイルが波立ち、容器の外に黒い煙が立ち上る。透き通った液体中にはオイルが燃えた黒い物体が煙のごとく漂う。この変圧器は6600ボルト入力だが2万ボルト以上で絶縁できていれば合格ということなので、3万9千ボルトまで耐えたこのオイルは合格だ。こうして空気の絶縁破壊の実験とオイルの絶縁試験は終了した。
絶縁破壊する瞬間の写真を撮影するのは困難を極めるので、毎秒30フレームで撮影した動画を1フレームずつ切り取っていったのだが、その瞬間はわずか1フレームにしか映っていなかった。つまり少なくとも30分の1秒以下の一瞬の出来事だったということになる。
普段何気なくコンセントに差して使っている電気だが、目に見えないものだけに、このように目に見えてしまうとちょっと怖い。しかし安全に効率よく送電するために定期的にこのような試験をしているのを見て安心もした。
専門家の話では「電気を知らないと何に気を付けていいのかわからない面もあるでしょうけど、せめて洗濯機や電子レンジのアース線(緑色の電線)だけはきちんとアース端子につないでください。漏電による感電死亡事故を劇的に減らすことができます。」ということだった。
アースを確実に取ることにより仮に漏電していても、漏電電流の大半はアース線を通って大地に流れるので人体への影響は少ないのは中学校で習ったオームの法則でなんとなくわかる。しかし死亡事故と聞けば尋常ではない。洗濯機や電子レンジの漏電くらいで死んでしまうのか?教えてもらったところによると、家庭の交流100ボルト周波数50ヘルツ(西日本は60ヘルツ)の場合、人体に10ミリアンペアを超える程度の電流が流れるだけで自分の意志で筋肉を動かせなくなるので手が離れなくなり、感電時間が長くなるので結果的に危険だということだ。仮にぬれた手でアース線をつないでない状態で感電した場合の人体の抵抗値は800オーム程度だそうだから、I=V/Rというオームの法則から100ボルト÷800オームとなり、流れる電流は0.125アンペア、つまり125ミリアンペア流れることになる。妙な表現だが、十分死亡する電流が流れることがわかる。
ちなみに人体の抵抗値の違いから、一般に男性に比べて女性の方が3分の2程度の電流で感電被害が大きくなる。また、8月は夏季で発汗が多くなる季節であることから接触抵抗値が下がり感電した際に多くの電流が流れ死亡事故が多くなるということだ。
家庭の文明の利器だけではなく、最近は自動車さえも動かすのに欠かせない電気。使用方法を誤らずに便利に安全に使用したいものである。
※写真はすべて著者撮影