デスバレー動く石の謎
デスバレー(Death Valley)は、アメリカ合衆国カリフォルニア州のシエラネバダ山脈東部に位置する国立公園である。デスバレー国立公園は、その大部分をカリフォルニア州インヨー郡、一部をネバダ州が占めている。
デスバレー国立公園の総面積は13,158平方キロメートル(長野県とほぼ同じ)であり全米の国立公園中、最大である。デスバレー国立公園はアメリカの国立公園の中で最も暑く、最も乾燥した地域であり、さらに海抜0m以下の地点を含んでいる(バッドウォーター、海抜下86メートル)。
デスバレーには、不思議な動く石(The Racetrack)が存在する。The Racetrack はデスバレー国立公園内の北部にある。「Racetrack」とは競技場、あるいは何かが動いた跡、という意味があるが、ここでは文字通り石が自然に動いた跡を見ることができる。
ウベヘベクレーター(Ubehebe Crater)からオフロードに入り、30マイルの道程である。普通車でも行けなくはないが四輪駆動車が無難である。この場所は、直径3キロくらいの湖が干上がったプラヤとよばれる湖底である。プラヤに車を乗り入れることは禁止されているのでそこに車を停め、15分~20分程度、距離にして2キロくらい歩くとあちこちに漬物石大の石がころがっている。見るといくつかの石は引きずったような跡を伴っている。
動く石の存在は古くから知られていたが、実際に動く瞬間を見たり撮影に成功した例はないので決定的な解明されていなかった。いったいどうやってこれらの石たちは、移動したのであろうか?
今回、スクリップス海洋研究所のリチャード・ノリス(Richard Norris)氏とインターウォーフ(Interwoof)のジェームズ・ノリス(James Norris)氏が発表した写真と気象学上の新たな証拠によって、動く石の謎にようやく最終的な結論が下された。石の動く理由、それは複数の条件がかかわっており、そのどれが欠けても、たとえ10年経っても動くことはなかった。
ゴルディロックス現象
それによると、デスバレーの石は、水や氷、太陽、風といった要素が繊細に組み合わさることによって動く。彼と従弟のジェームズ・ノリス氏は、複数の石灰石の塊にGPS発信機を取り付けて、動いた距離や方向を記録し、特注の測候所から得たデータと照らし合わせた。
氷が表面を覆いミニチュアの氷河のように石を運ぶという従来の説明と異なり、新たな証拠では、薄い浮氷が割れて石に積み重なることが示された。これによって十分な摩擦が生じ、泥に覆われた池の表面を動くと考えられる。石はまるで海面の氷を割りながら進む砕氷船に見えるが、この場合、船を動かすのは氷の方である。
だが、条件がちょうど良くなければ石は動かず、ノリス氏はこれを“ゴルディロックス現象“と呼ぶ。氷が厚すぎたり、晴れすぎていたり、風が安定して吹いていないと何も起こらない。
加えて、溜まり水がなくてはならない。年間の降水量が50ミリ以下のデスバレーでは、それさえ珍しい現象である。
「氷が割れて石を押し進める現象は、サスカチュワンやオンタリオで毎年見られるが、暑く乾燥したデスバレーでは想像しがたい」とノリス氏は言う。
この奇妙な現象が見られる場所は“レーストラック・プラヤ”と呼ばれ、10年以上石が全く動かないこともあるという。したがって、研究者らが動く石の証拠を記録し、昨年の冬には石が実際に動く様子を目撃できたことは素晴らしい偶然である。
「プラヤ一帯に、パチパチと弾けるような音が鳴り響きました。一瞬静かになったかと思うと、次の瞬間には弾ける音がして、次々に氷が割れていきました」とノリス氏は語る。
その日地面に刻まれた跡はやがて凍結し、次の降雨がかき消すまで、今後10年以上はあり続けるだろう。
デスバレーの歴史
デスバレー(Death Valley; 死の谷)という地名は、ゴールドラッシュさなかの1849年、カリフォルニア州にある金鉱地へ向かっていたグループが近道をしようとしてこの谷に迷い込み、数週間さまよった末にメンバーの数人が酷暑と水不足によって命を落としたことに由来している(ただしデスバレーで命を落としたのはそのグループのメンバーだけであり、それ以外に死者が出た記録はない)。
19世紀末から20世紀初頭にかけてのデスバレーでは、局所的なゴールドラッシュが幾度となく発生し、いくつもの街が生まれては消えた。その一方、ホウ砂の採掘は唯一長期間安定した利益をもたらし、この地域で採鉱されたホウ砂は石鹸や工業加工品を製造するために使われた。
「トウェンティ・ミュール・チーム」は、採掘されたホウ砂をデスバレーから搬出した輸送隊として有名であり、数々の書籍、映画、テレビ番組、ラジオ番組の題材として取り上げられた。
1933年に現在のデスバレー国立公園地域の一部がアメリカ合衆国によってデスバレー国定公園として保護地域に指定された。その後1994年に国定公園から国立公園へと格上げされるとともに保護地域も拡大され、現在のデスバレー国立公園地域全体が保護対象となった。
画像 Photo by Marc Kjerland https://www.flickr.com/photos/marckjerland/4556987302/in/photostream/