戦後の体制を覆した1日の閣議決定が日本を揺るがしたことは記憶に新しい。気になるのは世界の反応だが、国によってオンライン新聞の反応は大きく違う。
例えば事細かに、連続して動向を追うのはアメリカの『Washington Post』紙だ。1日には憲法解釈のニュースを述べつつ、「安倍首相の行動は驚くべきものではない(The move by Abe isn’t a surprise)」参照(1)としながらも、現在では日朝関係も含めて記事がいくつも乱立し、いかにこの東アジアの最大の同盟国の動向がこの新聞社の視点で重要であるかを物語っている。
欧州はアメリカほど執拗ではないが、確かに取り上げられている。これから取り上げる欧州のオンライン新聞で共通するのはデモ参加者や反対のプラカードの絵が記事に貼付けられていること、それから日本国憲法の簡単な略歴、それから国民の反応などが順を追って述べられているということだ。
まず第一にフランスの大手『Le Monde』紙を見てみると、「日本が平和憲法を修正する道を開いた(Le Japon ouvre la voie à la révision de sa Constitution pacifiste)」(2)と題し、報道している。この記事の他とは違う点は、国民の反応を描写した部分にデモ参加者のプラカードに載っている言葉を引用して紹介しているところだ。その言葉とは「私たちの子供や兵士が死ぬところを見たくない(Je ne veux pas voir mourir nos enfants et nos soldats)」(2)というものだ。結果としてみて見ると、やや中立に近いがやや否定的な書き方をしているように感じる。
次に、ドイツの新聞を持ち出すが、前述のLe Mondeと比べるまでもなく、すこぶる否定的だ。ドイツの『Frankfurter Allgemeine』紙では今回の出来事を「安倍が平和主義から離反(Abes Abkehr vom Pazifismus)」というタイトルをつけて日本に住む記者が報じており、その名前から、すでに同紙が極めて否定的な視点を持っているとうかがえる。この記事によれば「同国のリーダーの尽力が憲法で定められた平和的提案を消滅させ、日本社会をまっぷたつに割った」(3)とタイトルに続けられている。この記事では新宿の焼身自殺事件にも触れる他、高齢者の不安というセクションも設けて、日本国民がいかにこの歴史的転機に不安を感じているか伝えている。また、安倍首相がこの計画について国会で十分に議論していなかったという声も取り上げており、記者は全体的にネガティブな見解をしていることが分かる。
3番目に、ムーミンの作者トーヴェ・ヤンソンの故郷である北欧、フィンランドの首都ヘルシンキに拠点を持つ『Helsingin Sanomat』紙を紹介する。この新聞の記事のタイトルは上記の西欧の2紙とは違って比較的明るい印象を受ける。もちろん前者がマイナス過ぎたせいもあるかもしれない。記事のタイトルは『日本が同盟国も守るために武力を承認した(Japani sallii armeijansa puolustaa myös liittolaisia)』(3)だった。しかし、かといって決して日本のこの動きに賛同する訳ではなく、「毎日新聞の火曜日の調査によると71%の日本人がこの憲法解釈の変更により同国が戦争に巻き込まれるのではないかという不安持つ」(4)などのデータを取り入れて、必ずしもこの提案が日本国民に賛同されて実行に移されたわけではないと示唆している。近隣の同盟国が攻撃されたときに日本も軍事行動がとれるようになるというプラス面から切り込んでいったのは同紙だけであるが、かといって強烈に否定的であるようには記事から感じない。データなどに基づいた中立的な記事という印象を受けた。
次に欧州から離れて、中国に言及する。残念ながら筆者は中国語が読めないのでエスペラント語の記事を参考にした。『China Radio International』(5)のエスペラント語版は穏やかで、特に激しく日本を政府を非難しているような描写は見られない。朝日新聞の記事の言葉であるという「日本の政治の極めて危険な動き(ke tio estas ekstreme danĝera precedenco de la japana politiko)」という言葉を紹介しつつも「日本は国際社会、とりわけ近隣諸国に対して”不戦”の誓いと平和宣言に基づいた憲法第九条を維持していく(Japanio konservas la 9an artikolon de la konstitucio surbaze de sia ĵuro “ne militi” kaj ankaŭ de sia paca manifesto al la internacia komunumo)」という言葉も載せている(5)。中国の記事は厳しい評価をするのではと思っていたが、そうではなかったのが意外だった。
最後に親日国として有名なトルコもあたってみた。大手メディア『Hürriet』では見落としたのかはわからないが、今回の憲法解釈変更に関係する記事が見当たらなかった。もしあったら申し訳ない。
しかし、国際欄の見出しの一角を占めていたのは”あの”日本人だった。その日本人は今話題沸騰中(?)の野々村竜太郎議員である。しかも、見出しは『日本の政治家、子供のように泣きわめく(Japon politikacı çocuk gibi ağladı)』で、こんなニュースがアナトリア半島で多くのトルコ国民に閲覧されているのを考えると大変恥ずかしい。ビデオがインターネットで拡散されたことによりブームになっていることが報じられている。雰囲気をよく見てもらうため今回、彼の写真が載っている国際欄の一面を転載した。しかも、写真ではわからないが、国際欄の一面を見ると彼の写真だけ動くように設定されている。それ故に、もし彼の記事を見ようとしなくても、彼の写真を表示するだけでgifが動いて、彼が泣くシーンが再現されるようになっているのだ。筆者がみたときは5番にカーソルを合わせると、サルコジら大物政治家のスキャンダル写真に並んで、野々村議員の泣きわめく写真が表示された。もちろん、記事本文にビデオがセットされており、事のいきさつとともに、野々村議員がわんわんと泣き叫ぶ姿がトルコ国民にも”楽しめる”ようになっている。ちなみに、彼に関する記事が載っていたのは今のところ、今回調べた6紙中、トルコだけだった。不幸中の幸い、か?
以上、6カ国のオンライン記事を閲覧してみたが、どうだっただろうか。一応申し上げておくが、これはあくまでその国の全てのメディアを代表しているわけではないことをご理解頂きたい。新聞によっては違う見方があり得るだろうし、今回の紹介した記事が偶然そうだった、というだけのことだ。そして、国ごとでこれだけ違うのだから日本国内では言わずもがな、である。どれだけ新聞によって見解や見方が違うかというのを楽しめてもらえば幸いだ。
-参考資料-
(1) Lemote, D. “Japan flexes its muscles, shifts its defense policy with Pentagon support” Washington Post, 2014/07/01
(2) Le Monde, Asie-Pacifique “Le Japon ouvre la voie à la révision de sa Constitution pacifiste” 2014/07/01
(3 )Gemis, C. “Japan protestiert: Abes Abkehr vom Pazifismus“, Frankfurter Allgemeine, 2014/06/29
(4) Paakkanen, M. “Japani sallii armeijansa puolustaa myös liittolaisia“, Helsingin Sanomat, 2014/07/01
(5) Rongkan, Y. “Mediatoj kritikas nuligon de malpermeso al rajto pri kolektiva sindefendo“, China Radio International(Esperanto Lingve), 2014/07/02
(6) Hürriet.com.tr “Japon politikacı çocuk gibi ağladı“,2014/07/03
Hürriet.com.trの写真は(6)から転載。
『日本国憲法原本「上諭」』の写真はwikipediaより転載。