あるシリア人の戦争から生きて逃げ延びた決定的な要因とは?”地獄”の沙汰も…

  by sesshii763  Tags :  

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今年の四月まで『江口夏実』の漫画を原作としたアニメ『鬼灯の冷徹』が放映されていた。地獄を舞台にした漫画だが、おどろおどろしくない遊び心に富んだギャグアニメだったと記憶している。そしてオープニングも登場人物がずらっと並び、楽しそうに主題歌を合唱するという微笑ましいものだった。そのオープニングテーマの名前は『地獄の沙汰も君次第』だった。

しかし、実際に現実世界の生き地獄に暮らしていた人間は「地獄は自分次第」と楽観的なことは考えない。むしろ日本語の「地獄の沙汰も金次第」がその苦労を表現するに的確だろう。例えば、シリアのアレッポから全てを捨てて逃げてきたイブラヒムの故国からの脱出には金と運の良さが大きな分かれ目を作った。その中で資金は特に大きな役目を果たしてきた。その点について、この参照記事(1)は次のように言う。

お金があればあるだけ生き延びれるチャンスが多くなる(Wer mehr hat, der hat höhere Chancen zu überleben)

イブラヒムは家族とシリアのアレッポの北部、『カフル・ハムラ(Kafr Hamra)』に住んでいた。自動車を販売し、地元では名前も知られていたらしい。高価な車を乗り回し、子供の教育にお金をつぎ込んでいた。しかし、もう彼の手元に当時の財産は何もない。在りし日の生活は戻ることはない。

2012年、故郷が戦場になった。政府軍と反政府勢力の戦闘が彼の町まで広がったのだ。家族は地下に非難し、イブラヒムが代わりに食べ物を買いに行った。こんな隠遁生活が一ヶ月ほど続いた。そして、2012年の終わり頃、彼は故国を捨てることを決意した。母と姉と妻と子供達を連れて、まずボートで港町カラタシュ(Karataş)に不法入国し、安全なトルコのガジィアンテプに逃げることにしたのだった。そのトルコ南部の町は彼らの町から180キロほどの距離で、そこを経由してヨーロッパへと落ちのびるようと考えた。

しかし、この旅はうまく行かなかった。キプロスを目前にしながら、警察から逃げようとした密入国の手引き者がイブラヒムたちが乗った舟の方向を変えようとして、最悪なことに舟が転覆してしまったのだ。

彼らは入念に次の計画を練った。しかし、金が問題だった。そのため、イブラヒムは自分の車を売った。戦前に買ったときは六万五千ユーロ(約九百万円)もした高級車が二万ユーロ(約二百八十万円)で買い叩かれた。しかし、家族全員分としてはまだまだ十分とは言えなかった。例えば、三歳六ヶ月の息子のための偽造パスポートの値段は一万ユーロ(約百四十万円)だった。偽造業者はパスポートを大人も子供も年齢で値引きするようなことはしなかった。

イブラヒムと妻のサハルは飛行機での逃亡を試みた。業者に頼んでカイロ経由でヨーロッパに行けるパスポートを用意してもらったが、途中で二人は捕まってしまった。

だが、彼らは運がよかった。イブラヒムは彼らの身柄を拘束した警察を説得し、”地獄”のシリアではなく、隣国のトルコに送ることにさせた。そのため、サヘルはイスタブールからベルリンでドイツに入国、イブラヒムはイスタンブールからキエフ経由でドイツ中部のフランクフルトでドイツにやってきた。そうして、紆余曲折あったものの、二人は今南ドイツのバイエルンの小さな町、グラフラート(Grafrath)で生活している。こうして、この二人のシリア人夫婦はドイツで”難民“となったのだ。

(1)によれば、これまで4万人の避難民がこの夫妻のようにドイツを避難場所にしているらしい。そして、ドイツだけにとどまらなければ、全世界に戦火を逃れて逃げ出したシリア人の総計はおよそ二百八十万人だと見積もられている。

そういえば、NPO法人『難民支援協会』によれば2012年に日本に2,545人が難民申請を申し込んだとされる。しかし、同協会によればそのうちの18人しか受け入れられなかったと報告している(2)。本日の『朝日新聞』朝刊の2面にある駒井知絵さんのインタビューによれば去年難民として受け入れた人数は6人で、認定率は0,2%にも届いていないそうだ(『朝日新聞』2面、下段7〜8行目)。これらのことから、日本では外国から助けを求めて日本にやってきた人たちをほぼ拒否している姿勢が窺える。

シリアでは地獄の沙汰も金次第だったが、難民申請者がいかに苦しんでいても、結局助かるかどうかは地獄の沙汰も逃亡先の国次第なのかもしれない。

 

参照&オリジナルテキスト:

(1)Süddeutsch.de 『Aus der Hölle in bayrische Kleinstadt

(2)NPO法人『難民支援協会

(3)「ひと」『朝日新聞』朝刊2面, 下段7〜8行目(2014/07/01)

せっしーと申します。海外のへんぴなところのニュースを拾い読みするのが好きです。また、言葉の勉強を趣味としていて、同時に語学書のレビューもしています。 語学書のレビューはこちらから:http://houtobyoudou713.wix.com/kotobakoarchive アメブロでもブログしています(語学、哲学中心):http://profile.ameba.jp/rafgeymirid/

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