鹿児島ウイスキーのウマさを探りに『菱田蒸溜所』を探訪! 蒸溜所の数がこれほど多い「納得の理由」とは

  by 中山秀明  Tags :  

ジャパニーズウイスキーのプレイヤーが増える中、特に元気な地域が鹿児島。蒸溜所の数が北海道と並ぶ多さで、有名どころでは嘉之助(かのすけ)蒸溜所(日置市)やマルス津貫(つぬき)蒸溜所(南さつま市)など、新旧ともに層も厚い県です。

▲本稿の主役は、2022年設立の『菱田蒸溜所』。この銘柄は、2025年度の『東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)』で金賞とベストコストパフォーマンス賞を同時受賞(ニューボーンスピリッツの部)

これほど蒸溜所の数が多い背景のひとつに「芋焼酎づくりが盛んなため知見や設備も潤沢」という点が挙げられますが、理由はそれだけではありませんでした。比較的に新しいつくり手である、『菱田蒸溜所』(曽於郡大崎町)の見学レポートで、その理由をお伝えします。

湧き出る名水と温暖な気候に恵まれた鹿児島

いきなり答えをいってしまいますが、「蒸留所の多さの理由」としてその他3つ挙げるなら、水と、温暖な気候と、“麦焼酎も得意”だから。そして、そのうえで各蒸溜所の職人がこだわりを付与したり、ブレンディング(ヴァッティング)で調和させたり、ストーリー性を磨いたりして、より個性が輝かれるのです。ひとつずつ解説していきましょう。

まず、鹿児島の水は全国的にみても実に豊かで質が高いといえます。北東部ではミネラル豊富な霧島山系の水に恵まれ、他の地域でも県特有の『シラス台地』が天然のフィルターとなってクリアな水を湧出。また、実は鹿児島は雨が多いうえ、地質的に保水力が高いため、湧水地点が非常に多い県でもあるんですね。姶良(あいら)郡には、湧水町というまちがあるぐらいですし。

▲こちらは平成の名水百選に選ばれた、志布志(しぶし)市の『普現堂(ふげんどう)湧水源』

鹿児島が温暖な気候であることに関しては、異論ないでしょう。温暖だとウイスキーに欠かせない樽熟成がパワフルに進み、香りや味わいも深く濃厚になりやすいのです。

そして“麦焼酎も得意”という点。鹿児島の焼酎といえば芋焼酎なのですが、原料のさつまいもは1年中収穫できませんし、米や麦より水分が多く長期保存に不向き。そこで、オフシーズンには麦焼酎をつくる蔵元が、昔から多かったのです。麦焼酎が親しまれる、大分県の蔵元と提携するケースもありました。で、ウイスキーの原料といえば麦ですから、扱いにも慣れているということです。

独自の『早垂れ蒸溜法』はウイスキーづくりにも優位だった

筆者が訪れた『菱田蒸溜所』もまさに、麦焼酎も得意な焼酎蔵『天星(てんせい)酒造』が母体(同一の場所で蒸溜)。2021~2023年の『TWSC』では芋焼酎の『天星宝醇 赤』が最高金賞に輝き、3年連続の快挙から殿堂入りを果たした名門です。

『天星酒造』の強みのひとつが、『早垂れ蒸溜法』という独自製法。少々専門的なのでざっくりいうと、蒸溜により時間をかけて流れ出る液体の、ベストな部分のみを採取する技術です。これはおいしいウイスキーに必要な『ミドルカット』とほぼ同じ技術であり、『菱田蒸溜所』の優位点といえるでしょう。

そんな『天星酒造』が『菱田蒸溜所』のウイスキーづくりを始めたのは2022年の11月。企業グループ内での兄弟関係にあたる、『長濱蒸溜所(『AMAHAGAN』で有名)』(滋賀県)の知見を得るなどしてスタ―トしており、製造責任者の中原優(ゆたか)さんは同蒸溜所出身です。

ちなみに『菱田蒸溜所』がある大崎町は、前述『普現堂湧水源』の志布志市の隣であるうえ、菱田は昔から県内でも随一の軟水を誇る“菱田の地下水”として有名。また大崎町はウナギ養殖日本一であり、これもクリアで豊富な湧水ありきです。

さらに『菱田蒸溜所』では温暖な気候をより生かし、一部の木樽を縦置きのパラダイス式(パレット式)にすることで、熟成力を活性化。同方式は省スペースで多くの樽を保管できるメリットもありますが、横置きのダンネージ式やラック式より液漏れしやすく、長期間の熟成には不向きとされます。

▲後述する熟成庫にて。パラダイス式で熟成された樽がズラリ

蒸溜設備は、単式蒸溜釜と連続式蒸溜機両方の機能を併せもつ『ハイブリッド式蒸溜器』を採用。こちらも専門的な話ですが、基本的に単式蒸溜釜はモルトウイスキー、連続式蒸溜機はグレーンウイスキーをつくる蒸溜設備で、各原酒を調合するとブレンデッドウイスキーとなります。

焼酎蔵の副産物がもたらす野生の恵みも味の個性だ

つまり、『菱田蒸溜所』ではこの1基でシングルモルトウイスキーも、シングルグレーンウイスキーも、ブレンデッドウイスキーもつくれるということですね。そして、同蒸溜所が焼酎蔵であることの副産物が麹(こうじ)菌や酵母の作用。

並行している焼酎づくりにより、原材料の糖化に使った麹菌や野生の酵母がわずかでも蒸溜所内に棲んでいるため、それが原酒に個性を与えてくれる。そう、『菱田蒸溜所』の髙屋総一郎さんが教えてくれました。

▲営業部長代理の髙屋総一郎さん

焼酎に樽熟成は必須ではありませんが、ウイスキーには絶対欠かせません。ただ、それまでの焼酎蔵では貯蔵するスペースに限界があります。そこで新たに設けた熟成庫が、志布志市の『田之浦(たのうら)エイジングセラー』。

ここは2014年に閉校した田之浦中学校を改修したもので、校舎も体育館もフル活用して熟成などを行っています。ゆくゆくは校舎の一部をビジターセンターにする計画で、セミナールームのような部屋も設けられていました。

熟成の若さを感じさせない『菱田蒸溜所』のリッチな味!

見学のラストでは、ウイスキー(厳密には、熟成年数が定義を満たしていないため『ニューボーン(ニューメイク)』というくくり)のテイスティングもさせてもらえました。

『TWSC』でW受賞の起居を果たした『菱田蒸溜所 ニューボーン Prelude2』は、同一蒸溜所のモルトとグレーンによるシングルブレンデッド。まず、熟成年数の若さを感じさせませんね。ナッティなまろやかさと、モルティな深いコクがあってバニラ的な甘みもリッチ。余韻にはドライマンゴーのような南国フルーツの果実味があり、確かに素晴らしい完成度です。

▲『菱田蒸溜所 ニューボーン Prelude2』。販売先は蒸溜所限定で5500円

もうひとつは、初のシングルモルト(同一蒸溜所のモルトのみをヴァッティング)『菱田蒸溜所 ニューボーン Prelude3』。モルトらしいどっしりした厚みと、ペドロヒメネスのシェリー酒樽で熟成させた、濃厚かつ艶やかなコクが印象的。こちらは南国プラス、干しブドウ的な果実味と、安納芋を香ばしく焼いたようなキャラメルタッチの甘みもイイですね。

▲『菱田蒸溜所 ニューボーン Prelude3』6050円

『菱田蒸溜所』のニューボーンは、大崎町のふるさと納税の返礼品にもなっており、在庫があれば希少な銘柄も入手できます。同町産ウナギとのペアリングもオススメですよ。ぜひお試しを!

(執筆者: 中山秀明)

中山秀明

ライター、編集者、フードアナリスト。食関連の専門家として、メディアで解説することもたまにあります。グルメからのつながりで、酒、旅、調理家電、タバコなどを取材、執筆することも。