『メトロイドプライム4 ビヨンド』レビュー:過去作を超える体験を見せてくれた良作

「待ちに待った」という言葉がこれほど相応しい作品もないだろう。なにせタイトル発表からは8年、前作発売日からカウントすると18年もの間待ったのだから。そう、『メトロイドプライム4 ビヨンド』だ。

筆者は本作の発売が楽しみなあまり、発売日発表と同時に「amiibo(アミーボ)」とセットで予約、今か今かと発売日を待ち続けた。そしてようやくプレイ、クリアできたので、その感想をお伝えしたい。なお、ネタバレはしないので、未プレイの人も安心して欲しい。

探索体験にフィーチャーしたファーストパーソン・アドベンチャー! 「メトロイドプライム」シリーズ

『メトロイドプライム4 ビヨンド』は、任天堂のファーストパーソン・アドベンチャー、「メトロイドプライム」シリーズの最新作。一人称視点で遠距離武器を主体とし、敵と戦うというルックから、一見、ファーストパーソン・シューター(以下、FPS)に思える。しかし、ファーストパーソン・アドベンチャーというジャンル名は、本シリーズの内容をこの上なく正確に表現した言葉だ。

確かにFPSも本シリーズも、一人称視点で遠距離武器を主体とし敵と戦う。ただし、戦闘の性質は大きく異なる。

一般的なFPSでは、「敵を狙う」ことと、「敵から身を隠す位置取り」が重要となっている。一方本作では、「敵に対して有効なアクションをとること」が重要。

本作では、敵の弱点を見事撃ち抜いたとしても、適した武器でなければダメージを与えられない。いや、それ以前に攻撃可能なタイミングでなければ、弱点が露出しておらず、ダメージを与えられないことが基本。このため本作の戦闘は、「敵の攻撃を回避する」→「敵が隙や弱点を見せる」→「敵を撃つ」というかたちで、タイミングごとに最適解が存在しており、「発見、即射撃」というFPSとは決定的に立ち回りが異なるのだ。

つまり戦闘のメインは「敵を狙う」以上に、「今とるべき行動は何か?」を見つけ出し、実行すること。「敵を狙う」ことについては重要でないとまではいかないものの、「必要となるアクションのうちのひとつ」くらいの位置づけと言えるだろう。

また、そもそも「メトロイドプライム」シリーズのメインは戦闘ではなく「探索」にある。そして、本シリーズのベースとなった2Dアクションアドベンチャー「メトロイド」のメインも「探索」だ。

2Dアクションアドベンチャーとしての「メトロイド」シリーズは、マップを探索して新たなアイテムを発見、それによって主人公の能力が強化され、さらに探索範囲が拡大していく……という「メトロイドヴァニア」ジャンルを生み出した画期的な作品。「メトロイドプライム」シリーズもこうした「メトロイド」の楽しさを踏襲しており、「探索」の楽しさをプレイするうえでの下敷きとしているのだ。

このため「メトロイドプライム」シリーズの基本も、マップを探索して新たなアイテムを発見、それによって主人公の能力が強化され、さらに探索範囲が拡大していく……という点にある。戦闘においても、「今とるべき行動は何か?」を探り、発見するという要素が重視されているのはこのためだ。

ただ、そうだとしたら「メトロイド」シリーズと「メトロイドプライム」シリーズの違いは何か? それは、ファーストパーソン=一人称視点の採用による、「自分ごととして体験する臨場感のある探索」だろう。

「メトロイドプライム」シリーズを象徴する要素が、バイザーだ。本シリーズの画面は、主人公サムス・アランがかぶっているバイザーを通して世界を映し出したものとなっており、バイザー上にさまざまな情報が表示される。

通常時に表示されている情報は、残り体力や残弾数といった基本ステータス。しかしボタンを押すことで、バイザーの表示が探索用モードへと切り替わり、ボタン操作によって周囲の詳細な情報を取得可能となる。バイザーのモードを切り替えることで、攻略のための情報を獲得し、次の空間へ進むための手掛かりや、敵を倒すための糸口をつかむのだ。

この「バイザーを使い、探索を進めていく」という要素が、本作に強いワクワク感をもたらしている。なにせ舞台は未知の惑星。未知の植物、未知の動物、未知の文明がそこここに存在しているのだ。

こうした要素を探索によって少しずつ解明し、惑星の秘密へと迫っていく……。ワクワクしないわけがない!

しかも、一人称視点だから、「プレイヤー自身が未知の惑星の謎に迫っている」という感覚が強い。だからこそ、2Dの「メトロイド」シリーズと別の独立したタイトルとして、「メトロイドプライム」シリーズが継続しているのだろう。

何を超えた(=ビヨンド)のか!? 本作独自のシステムが持つ魅力

シリーズ最新作となる本作は、「ビヨンド」というサブタイトルを謳っている。「ビヨンド(Beyond)」とは日本語で、「超える」ということ。では本作は、これまでの「メトロイドプライム」シリーズのどんな要素をどう超えてきたのだろうか?

筆者が思う、本作の「ビヨンド」な点は3つある。
一つ目は、「探索」の深掘り。
二つ目は、コントロールビームを使った新たな戦闘体験。
そして三つ目は、世界観の拡張。

一つ目の「探索」の深掘りで最も貢献しているのは、グラフィックの大幅な強化だろう。前作「メトロイドプライム3 コラプション」はWii向けのタイトルなので、前作と比べればビジュアルの美しさは圧倒的。だが、グラフィックが美麗だから、それイコール魅力的だと言いたいわけではない。

魅力的なのは、ハイレベルなグラフィック表現を使って、未知の惑星の生態を生き生きと描いているからだ。本作は「探索」がメインのゲームであると書いた。ただ、「探索」をメインに据えるためには、「探索したい!」と、思わずプレイヤーの好奇心が刺激されてしまう、そんな舞台が必要だろう。

この点で本作の舞台は、「あの建造物はなんだ?」「この植物はなんだ?」「この生物は?」と思わず感じてしまう魅力を持っている。なぜなら高品質なグラフィックによって、生物や植物の生態が臨場感を持って描かれているからだ。

グラフィック表現に加えて、「探索」の深掘りに貢献しているのが、オープンなフィールドとして表現された「ソルバレイ」の存在。これまでの「メトロイドプライム」シリーズでは、密林や洞窟、遺跡のような、ある程度閉じられた空間が舞台となっていた。ただ閉鎖的な空間と言うだけでなく、移動可能な場所が制限されており、どこにでも自由に行けるわけではない。

しかし本作には、自由に移動可能なだだっ広い砂漠「ソルバレイ」が登場する。

だだっ広いと書いたものの、「ソルバレイ」は、いわゆる「オープンワールドゲーム」のフィールドほど広いわけではない。しかし、開放感を味わえるだけの広さが用意されており、ところどころに遺跡や、朽ちた人工物といったものが存在する。この広大な空間を、バイク型のマシン「ヴァイオラ」を使って自由に移動することができる。

主人公のサムス・アランは「ヴァイオラ」に搭乗したまま敵を攻撃したり、バイザーで探索したりすることが可能。攻撃については「ヴァイオラ」独自のアクションが用意されており、複数の敵を一気にロックオンして倒したり、バイクによるスライディングで範囲攻撃をしかけたり……といった爽快アクションが体験できる。

広大な空間の中をバイクで高速移動しながら「探索」するという要素は、これまでの「メトロイド」にはなかった点で、「探索」の新たな楽しさをもたらしていると感じた。とは言えその一方で、「ソルバレイ」は本作に課題も残した。この点については、後ほど触れたい。

では次に新要素・コントロールビームによる新たな戦闘体験に触れてみよう。コントロールビームとは、本作の新要素である「サイキック」の一種で、チャージビーム発射後にビームの挙動をコントロールできる。

ビームのコントロール中はサムスの操作が不可能になるものの、時間の流れが極端に遅くなる効果も持っているため、サムスが敵に攻撃されてしまう可能性は低い。また、コントロールビームは時間内であれば複数の敵を攻撃可能。このため、コントロールビームを使って戦況を確認しつつ、複数の敵にまとめてダメージを与えることができる。

扱うのに慣れが必要だが、通常攻撃と上手く連携できるようになれば、華麗な立ち回りが可能。この楽しさは、間違いなく本作の魅力のひとつだ。

世界観の拡張という点で挙げておきたいのが、ライバルとして登場するハンター・サイラックスや、仲間として登場する銀河連邦兵士の存在だ。サイラックスは、ニンテンドーDS向けに発売された「メトロイドプライム ハンターズ」で初登場した賞金稼ぎ。一方、銀河連邦兵士は、ニンテンドー3DS向けに発売された「メトロイドプライム フェデレーションフォース」で登場した、銀河連邦所属の一般兵たちだ。

これまで「メトロイド」シリーズも「メトロイドプライム」シリーズも、サムスは単独で行動しており、基本的に孤独だ。このため、キャラクター同士の因縁などによって世界観が広がっていく……という楽しさに乏しかった(ただし、それが良さでもあることはあえて強調しておく)。しかし本作ではサイラックスや、仲間として登場する銀河連邦兵士といった存在が加わったため、これまでのシリーズよりも、世界観・ストーリーが立体的な印象となった。

特にオープニングでスペースパイレーツが銀河連邦の研究所を強襲するシーンは魅力的。サイラックスとの戦いによってサムスは本作の舞台・ビューロスへと飛ばされてしまうのだが、多数のキャラクターが登場する研究所内の描写があるからこそ、ビューロスへ飛ばされた直後の孤独感が際立っていると感じた。

今後超えるべき課題と期待したい可能性

ここまで本作の魅力について語ってきたが、その一方で本作には、今後超えるべき課題が明確に存在している。その課題とは、「ビヨンド」な点として挙げた「ソルバレイ」の探索だ。

「ソルバレイ」が、「新たな探索」の楽しさをもたらしたことに間違いない。ただその一方で、「新たな探索」の楽しさがやや中途半端なものになっているようにも感じた。というのも、「ソルバレイ」はオープンワールドほどには広くなく、オープンワールドのような自由な探索要素もさほど多くないからだ。

確かに移動は自由にできる。しかし、パズルを解くために必要な能力を手にしていなければ、探索したところで重要なアイテムが手に入るわけでもない。

このため実際にプレイすると、「広大な空間を自由に探索している」という感覚はあまりなく、むしろ「シナリオの都合でご都合的に移動させられている」という感覚に陥ってしまう。

とは言え、これには理由がある。

オープンワールドゲームが「広大な空間を自由に探索」できるのは、探索要素と、シナリオ的に達成しなければならない目標とが、強く結びついていないためだ。たとえ「探索しない場所」があったとしても、目標は達成可能。だからプレイヤーは、「探索する場所」と「探索しない場所」を自由に決めることができる。

しかし「メトロイドプライム」シリーズの探索は、手に入れたアイテムと目標達成が完全にリンクしている。細い通路に入るためには「モーフボール」が必要だし、硬い壁を破壊するには「ミサイル」が必要……といった具合に。このため、「探索しない場所」があればアイテムは手に入らないし、アイテムが手に入らなければ、シナリオは進行不能になってしまう。

これは、どちらがいい、悪いという話ではない。オープンワールドゲームが「自由に探索することで、自分だけの物語を作り上げる」楽しさを目指しているのに対し、「メトロイドプライム」シリーズは「アイテム入手によって、新たな道が切り開かれる」楽しさを目指している。つまり、スタイルの違いなのだ。

「メトロイドプライム」シリーズの探索設計を前提にすると、「ソルバレイ」で自由な探索を実現するためには、「手に入ったらお得だけど、手に入らなくても進行に支障はない」程度のアイテムしか設置することができない。すると結果的に、探索しても「驚くような発見は少ない」となってしまう。

また本作において「ソルバレイ」は、ダンジョン間を繋ぐハブのような役割を果たしている。このため、オープンワールドゲームのように広大なマップにしてしまうと、移動の手間が増えてしまう。だからこそ、オープンワールドゲームのような広大さは持たせなかったのだろう。

このため、オープンワールドゲームのような「自由な探索」をイメージして「ソルバレイ」をプレイすると楽しさに乏しく、スケール観も小さい……というネガティブな感想を抱くことになってしまう。

ただ見方を変えれば、「ソルバレイ」は、「メトロイドプライム」シリーズの作法を守っているとも言える。オープンワールド的な開放感を持っているが、キッチリ「メトロイドプライム」シリーズの枠の中で成立させているのだ。

それだけに「ソルバレイ」は、人によって「シリーズの感触を守ってくれて嬉しい」となる可能性もあるし、「ただマップが大きいだけで、新作ならではの独自性が低い」と感じる可能性もある。もちろん、「オープンワールドゲーム的な手触りを期待したのに、ガッカリ」と感じる人もいることだろう。なんとも悩ましく、難しいポイントだ。

それでも視点を本作から今後の「メトロイドプライム」シリーズへと移せば、「ソルバレイ」は新たな「探索」の可能性を指し示したとも言える。

自由に移動可能なフィールドを舞台に、「自由な探索」を楽しむというコンセプトは、個人的には悪くないと思う。もちろん、今回はパズルをプレイ可能なタイミングが固定され過ぎているし、自由に体験可能なイベントも少ない。ただもし、より自由度の高い探索が可能になったとしたら……?

もちろん、「自由度の高い『メトロイドプライム』」は、人によっては「認められない」と感じるかもしれない。しかし、上手く調整することができれば、シリーズはより高みへと「ビヨンド」できるのではないだろうか?

そして、本作の未来に明るいものを感じさせてくれるのが前述したサイラックスや銀河連邦兵士の存在だ。「メトロイド」シリーズはサムス・アランの孤独な探索が魅力となっており、仲間とともに戦うというシチュエーションはこれまで少なかった。しかし今回、サイラックスや銀河連邦兵士たちが明確なキャラクター性を持って登場したことで、「メトロイド」の世界観が広がったように思う。

ということは、続編の選択肢もぐっと広がり、作りやすくなった……に違いないのではないだろうか。実際に本作は物語的に、続編を意識しているように感じられる。できれば今後、サイラックス以外のハンターや、今回登場した銀河連邦兵士以外のキャラ、もちろん新たなスペースパイレーツについても登場が期待できるし、より世界観の広がった「メトロイドプライム」作品を出してほしいという期待も大きくなる。

ただ、いくらなんでも8年は長い。なるべくなら、次作「メトロイドプライム5」はもっと早いスパンで出してほしい。

(文/田中一広)

ガジェ通ゲーム班

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