狙われた!台湾「半導体」資源争奪から貿易外交で「戦」の芽を摘め   

  by tomokihidachi  Tags :  

[©︎存立危機事態問題で露呈した「自民党外交」の劣化、日中外交”チキンレース”終息のカギは《過去》にある<東洋経済オンライン>(2025年11月20日)]

女性初の日本総理 高市早苗政権に交代してから中国の習近平国家主席の間で鍔迫り合いが起きている。
事の発端は2025年11月7日の衆院予算委員会で立憲民主党の岡田克也常任顧問の質疑による。
 岡田氏は高市氏が1年前の自民党総裁選挙で「中国による台湾の海上封鎖が発生した場合を問われて、存立危機事態になるかもしれないと発言した」ことを問い糺し、対して高市氏が「台湾有事について、いろいろなケースが考えられる」として「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースだ」と答弁した。
 「存立危機事態」とは、それまで我が国が脅威に対峙する「個別的自衛権」のもと武力行使を発生していたものが、2014年に「集団的自衛権」閣議決定以降、我が国と密接な関係施行後は我が国と密接な関係にある他国に武力攻撃の脅威が迫っている時にも日本は存立危機事態と判断し武力行使が可能になった、安保法制に続く一包化された「戦争パッケージ法」である。

 石破茂前政権時に「国家安全保障戦略」として、「安保関連三文書」「国家防衛戦略」と「防衛力整備計画」を新たな国防政策として2026年末に前倒しで改正する検討に入っていた。
日米同盟は同盟強靱化予算を掲げており、第一期目の米国ドナルド・トランプ大統領はこの時すでに「不満」を口にして在日米軍駐留経費の我が国について大幅増設を要求してきた。
 その後の第二次トランプ政権下では2025年4月にトランプ氏と赤澤亮正経済再生担当大臣と会談した際にも在日米軍駐留経費に改正案を明示せよと改善策を要求した。
 さらに翌5月にも米国安全保障会議(NSC)が日本の内閣官房国家安全保障局(NSS)に対して日本側負担の増額を要求してきた。
 既に日本政府は米軍住宅など「提供施設整備費(FIP)」を数百億円規模に上積みする方向で検討に入ったとの報道もある。現行の「在日米軍駐留経費」負担に係わる特別協定は2027年3月が期限だ。
 高市氏の答弁について中国外務省の林剣報道官は、11月10日の記者会見で、高市氏が台湾有事について「存立危機事態」に該当する可能性があるとの発言に「中国の内政への乱暴な干渉で『一つの中国』原則に深刻に背くとし、日本側に「強い不満と断固とした反対」を表明して強い抗議を行なったとあからさまな不快感を示した。
 
だが有事の際に「脅威忌避」で可能な限り平和裏に治めたい手がかりはないものか?実は2025年5月5日に米議会下院の公聴会「米国と中国共産党間の戦略的競争に関する特別委員会」が開かれている。外交・軍事の専門家が、中国による台湾侵攻の抑止における日本などの同盟国の役割について証言したことに注目してみよう。
前国防副長官カート・キャンベル氏がこの議場で指摘したのは、中国による台湾の封鎖を思いとどまらせるにはどのような策を講じるべきか?と問われ「米台の戦力強化に限らず、台湾の封鎖を実行した場合、米国のみならず他の国々からも最も厳しい金融上の措置が取られると中国の認識が抑止力の根源になるだろう」との見識だ。これを踏まえて「戦力については何よりも潜水艦戦力が重要だ。AUKUS(米英豪安全保障協力)を通じた米英豪の海中における共同作戦実行能力の強化により今後、10年から20年間、中国に対する優位性を維持できるなら台湾の封鎖は非常に困難になる」と分析した。

一方、日本にはまた「QUAD」なる日米豪印による戦略対話がある。安全保障や経済について協議する枠組みがある。だが米側がより選択するのは「AUKUS」の方ではないか。キャンベル氏は「極寒のウクライナで冬に暖房が使われる天然ガスがお幅に不足した後、日本、韓国、台湾が米国から供給される天然ガスを即座にウクライナに融通したことを踏まえ、インド太平洋とヨーロッパの繋がりを過少評価すべきではない」と警鐘を鳴らした。
 
他方、民主主義防衛財団シニアフェローで元第5空母打撃群司令官のマーク・モンゴメリー氏は「液化天然ガス(LNG)」の輸送が最も重大な脅威に直面するとの見解を示した上で、事態に先立ち台湾の海軍と共にLNG(輸送)の船団護衛及びその訓練を実施しながらそれに台湾と同様に脆弱な日本も巻き込む必要がある」との資源外交のためならいかなる妥協も辞さない中国の強欲さと戦争が表裏一体になっていく傾向にこそ刮目すべきなのだ。

中国の狙いは台湾世界一位のシェア半導体

そして発端は軍事の問題から始まったものの実のところ中国から台湾で狙われているのは世界シェア1位の「半導体」という天然資源問題である。

これらは単なる天然資源の収奪が問題であるというよりも、独占的使用が政治権力上も絶大な意味を持つような、単一の天然資源への依存度の高い経済構造こそが、武力紛争の構造的温床なのだ。

 世界の「半導体」封止・検査業界で首位の座に位置しており、AI 需要に牽引され、先進封止の割合は年々上昇している。出荷市場は主に北米市場が中心だ。封止・検査業界では封止の売上が大部分を占めている。台湾の封止・検査生産能力は世界で第1位である。先進封止の割合は年々上昇しており、出荷先は主に米国の顧客が中心だ。

一方、韓国の「半導体」の中でも、サムスンやSK Hynixのような巨人企業がAI部門によって引き起こされた重力の中心に移行することを迅速に実現してきた。その国内投資とパートナーシップは、それら巨人企業を安全保障するために築かれてきたのだ。そのパートナーとは「AI未来共同英韓ヴィジョン」を形成する上で鍵を握る役割を果たしてきた。

韓国は「半導体」産業に豊富な歴史があり、今や「AI」のグローバルリーダーになるべくいかにこれを活用するかを決めなければならない。比較すると、英国はAIのスタートアップや革新、ディープテック研究の豊富な歴史をもち、今や大いなる「半導体サプライチェーンのレジリエンス(強靭性)」に従事しなければならない。両国は結びつきを深め、技術競争を強化するためにそれらの要求に扉を押し開けているのである。

 世界を俯瞰して米国の「半導体・科学法」にも視座を移そう。2022年10月にバイデン政権下では対中先端半導体製造・スーパーコンピューター関連輸出規制の強化がなされた。狙いは「対中関係の歴史的転換」と「地政学的な歴史の転換点」のみならず、世界の「半導体産業」と「半導体バリューチェーン」の中心にある諸国にとっても転換点だった。目論見としては同規制が米企業のみを競合上の不利にさせない点にあった。半導体製造装置の製造や輸出規制の厳格化と拡大は「過度に広範で一方的な管理は、海外顧客に対外投資を促し、国家安全保障を促進することなく、米国の半導体エコシステムを害するリスクがある」と「米半導体産業協会(Semiconductor Industry Association :SIA)」は声明を出した。

【米国】

【中国】

【欧州連合(EU)】

【韓国】

[©︎Semiconductor Supply Chains, AI and Economic Statecraft : A framework for UK-Korea strategic cooperation(April. 2024)]

中国式・武力紛争と表裏一体の「資源争奪」外交

翻って中国は「一帯一路」巨大経済圏構想に始まり、強気な資源外交を展開してきた。たとえばスリランカに多額の援助を行なった。その債務の返済が難しくなると2017年に同国のハンバントタ港の99年間にわたる運営権を貸し出した。ハンバントタ港は中東やアフリカの資源の大量輸送などに用いるシーレーンの要衝に一致する。中国は軍事力を使うことなく重要な港を自由に利用する権利を手に入れたことにいなる。このように「借金のカタ」と引き換えに商業の要衝を入手することは「借金の罠」という。
 アフリカでも同様の手法を取り、インドシナ半島では中国が鉄道綱などのインフラ整備に助力する代わりにメコン川やプラマプトラ川の上流にダムを引いて水資源を掌握した。これによって下流域の諸国で水不足が深刻化している。
 またかねてから新疆ウイグル自治区では人権弾圧問題が取り沙汰されてきたが、弾圧を引き起こしているのは、同自治区に原油や天然ガスが埋蔵されておりパイプラインの通り道になっていることが大きいのではないかと見られている。

「資源紛争」とは、外交交渉、国際法に基づく仲裁、共同開発、政府開発援助(ODA)を通じた協力といった外交的手段によって解決または管理される。
「平和学」においてスタンフォード大学のジェームズ・フィアロン教授が提唱した「合理的戦争原因論」を引く。3つある原因のうち⑴の「価値の不可分性」が適している。「国有の領土」など分割できないものを巡る争いが該当する。例えば隣国2国同士をそれぞれの属性的な理由で土地を分けることができない以上、どちらがその土地を保持するかを巡る争いは、交渉ではなく戦争による解決しかないという結論に陥りやすい。
 水面下で進んでいた天然資源をめぐる大国の思惑が表面化し、戦争の終結や戦後復興に影響を与える重要な要素になりつつある。

平和学の5つの道筋から「貿易ネットワーク」構築へ

[©︎iSTOCK]
 貧困が紛争を引き起こす主因になっていることは定説だが、「平和」への共通する道筋は概して5つ存在する。
⑴懲罰 ⑵執行 ⑶調整 ⑷インセンティブ ⑸社会化だ。
 中でも「執行」は武装した「平和維持部隊」や「非武装」の調停委員会、そして協議を円滑に進めたり合意の実施を促したりする第3者の存在がある。国連平和維持部隊に対して熱心な支持者たちは公平な英雄と見做す。逆に懐疑論者は、どんな国にも同じ「破綻国家救済キット」を与える「平和維持・人道主義複合体」だと彼らを揶揄する。だが、どちらも間違っていない。しかし日本のエネルギー自給率は、2025年時点で「経済協力開発機構(OECD)」の約15.3%(2023年度)で20%に届いていない。先進国最低レベルだ。この低い自給率は、大部分の化石燃料を輸入依存していることが一因ではないか。
 平和を維持しようと努める指導者に対して世界が、援助や、雇用、名声などの報酬を約束することは可能だ。最も紛争が起こりやすいのは、不平等で抑制の働かない社会において平和は通常、権力者間の取引から生まれる。つまりは短期的にはエリートにとって権力や利権が不平等である方が好都合な時があると言える。

東京外国語大学大学院総合国際学研究院の篠田英朗教授は著書「アフリカにおける天然資源と武力紛争-「内戦の政治経済学」の観点から-」で次のように分析している。
「天然資源で利益を得るためには、紛争地帯外のいわゆる先進工業国の人々などに、天然資源を売っていくことができなければならない。したがって武力紛争を助長する要因になっているにもかかわらず、天然資源を購買しようとする先進国の人々がまずもって存在していなければならず、そうした人々と現地勢力との取引を可能にする貿易ネットワークが存在していなければならない。つまり天然資源に依存する諸国から天然資源が流れ込んで行く先進国の側に、国際的に認知されない形であれ何であれ、天然資源を動かしていく経済構造・経済ネットワークが存在していなければならない」。
 
 米中超大国の思惑で代理戦争の様相を表すウクライナ・ガザ・台湾有事危機。今が最も日本を取り巻く世界の「安全保障環境」の環境が最も危険な情勢だと認識しているか?
「タカ派路線」で突き進むことを自他共に認める「安倍チルドレン」初の女性首相誕生。
「女性が『指導者』になれば戦争は減るか?」というクエスチョンに対して、例えば「選択バイアス」が挙げられる。総裁選挙に立候補して有権者の偏見を乗り越えた女性は男性と同じくらいマッチョだ、としたら?当然男性と同じ暴力を行使しやすいことになる。かつて「鉄の女」と呼ばれたイギリスの元主首マーガレット・サッチャー氏に対して人々から向けられた非難に類するものだ。インドの元首相インディラ・ガンディー氏も同様のレッテルを貼られた時があった。欧州委員会委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエン氏やイタリアのジョルジャ・メローニ氏など国家の長を頂く女性国家元首がいる。だが、ジェンダーと戦争の体系化で解釈することは危険だ。
 日本初の女性首相、高市政権で強気な外交が、世界に「平和貢献」の「橋」をかけられる末端の役割を務めていけるそんな調停役になれるだろうか? 
 

tomokihidachi

2003年、日芸文芸学科卒業。マガジンハウス「ダ・カーポ」編集部フリー契約ライター。編プロで書籍の編集職にも関わり、Devex.Japan、「国際開発ジャーナル」で記事を発表。本に関するWEBニュースサイト「ビーカイブ」から本格的にジャーナリズムの実績を積む。この他、TBS報道局CGルーム提携企業や(株)共同テレビジョン映像取材部に勤務した。個人で新潟中越大震災取材や3.11の2週間後にボランティアとして福島に現地入り。現在は市民ライター(種々雑多な副業と兼業)として執筆しながら21年目の闘病中。(株)「ログミー」編集部やクラウドソーシング系のフリー単発案件、NPO地域精神保健機構COMHBOで「コンボライター」の実績もある。(財)日本国際問題研究所「軍縮・科学技術センター」令和元年「軍縮・不拡散」合宿講座認定証取得。目下プログラミングの研修を控え体調調整しながら多くの案件にアプライ中。時代を鋭く抉る社会派作家志望!無数の不採用通知に負けず職業を選ばず様々な仕事をこなしながら書き続け、35年かけプロの作家になったノリーンエアズを敬愛。

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