被爆・終戦80周年 核兵器廃絶と原子力の平和利用の討論を超えて

  by tomokihidachi  Tags :  

[筆者コラージュ作成]

 2025年8月15日に日本は終戦80年を迎えた。それを控えた同年8月6日および9日に被爆80周年広島・長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典を両催した。
 被爆者の生存者の平均年齢は86歳を超え、高齢化と減少が進む中「被爆の実相を後世にどう伝えるか」という大きな課題が浮かぶ。世界ではロシアによるウクライナ侵攻で核兵器の恫喝が続き、イスラエルによるガザ地区武力攻撃やイスラエルのイラン攻撃、そこへ便乗した米国が行った核施設攻撃の繰り返しでパレスチナ問題が改めて混迷を極める。
 今、再び国際情勢は「核兵器のない世界」に逆行している。
 そんな中、昨年(2024年12月)ノルウェーのオスロで「日本原水爆被害者団体協議体(被団協)」がノーベル平和記念賞を受賞した。長年、被爆者の声や核兵器廃絶への声を国内外で発信し続けてきたことが認められた。
 原爆資料館の入館者数(昨年度)は226万4543人(前年比28万2761人増)過去最多を更新。そうした中2025年3月には『核兵器禁止条約』第三国締約国会議が開かれた。
 核禁条約とは開発・実験・保有・使用などあらゆる活動を禁止するもの。だが、核保有国は一国も参加していない。唯一の被爆国である日本も署名も批准もせず、オブザーバー参加でさえ見送り続けている。
 被爆者からは失望の声や疑問が聞かれた。

被爆者サーロー節子さん
「どこの政府よりもこの問題を熟知しているはずの日本が顔を横にして出てこないのは本当に情けないと思う」。

 核使用の危機がかつてないほど高まる中、被爆者が訴え続けてきた「核兵器は使われてはならない」という「核のタブー」を維持し続けていくために被爆80周年となる今年は被爆地「広島」「長崎」を改めて考えるべき時を迎えた。

◆広島市政記者会見

ーまず日本の核政策について石破総理に伺う。先の参議院選では日本の核武装、核共有に言及する候補者もいました。総理ご自身も就任前に核共有や核の持ち込みの検討の必要についても唱えられている。非核三原則の見直しにも関わる問題だと思う。日本の核武装や核共有に関する総理のご見解を伺いたい。

石破総理「政府として非核三原則を政策上の方針として堅持していて、これを見直すような考え方はしていない。非核三原則を堅持した上で米国の『拡大抑止』に関わる意思決定のプロセスについて米国と意思疎通を行う重要性がある。つまり私どもとして核兵器を持つつもりも全くない。持たず・作らず・持ち込ませずの三原則を踏襲する。周りが核保有国に取り囲まれている我が国だ。懲罰的抑止力、あるいは報復的抑止力を我が国は有していない。抑止力には「懲罰的」&「報復的」抑止力と「拒否的」抑止力の2つの分類の抑止力がある。私どもとしては『拒否的抑止力』の向上には努力している。『報復的抑止力』や『懲罰的抑止力』に関しては一層強くなるということは、現時点で極めて重要だと認識している。核抑止力を含む米国の拡大抑止についての信頼性。これを強化していくという方策については不断に検討していく必要がある同時に「核兵器のない世界」に向かって努力することは矛盾することではない。究極的に核兵器のない社会の実現を目指すことに変わりはない。その意味で核兵器保有国と非核兵器保有国が広く参加する「核兵器のない世界」へ向けた唯一の枠組みであるこれが「NPT体制」であり「ヒロシマ・アクション・プラン」に基づき現実的で実践的な取り組みもして参りたい。」

ーー併せて核兵器廃絶に具体的にどう取り組むかもお聞かせください。

石破総理「核共有というのは、言葉が何か「所有権」を持つとか誤解されている向きもあるが、それは非核三原則との関係でそのようなことを全く考えているわけでは全くない。NATOにおける核兵器保有国はアメリカ・イギリス・フランスの3カ国のみだ。そうではない国々がどのようにしてリスクを共用するかということについて議論がなされていると承知しているところだ。」

◆平和祈念式典で長崎市の鈴木史朗市長による平和宣言

◆長崎市政記者会見

ーー国指定地域外で長崎原爆に遭った被爆体験者については昨年12月から被爆者と同等の
『医療費助成事業』が行われ一定の救済が進む一方で被爆体験者が長年求めている『被爆者健康手帳』の交付が実現していない。長崎には被爆体験者を含めて黒い雨や灰に遭ったという被爆者援護法が定める「3号被爆者」に該当する証言が数多くあるが、被爆者の認定にはつながらず黒い雨被爆者の認定が進む広島との格差が解消されないままだ。しかし昨年9月には長崎地裁が長崎で黒い雨が降ったとされる地域にいた人たちを被爆者と認める司法判断も示した。「被爆者」同様「被爆体験者」も高齢化している中、被爆体験者を被爆者と認める政治決断をする考えがあるか?伺いたい。

石破総理「被爆体験者の方々に対して『被爆者健康手帳』を交付すると過去最高裁判決があったことはご承知の通りだ。客観的な記録などに照らして困難ではあるが80年前長崎での原子爆弾による被爆体験者の方も含めて多くの方々が悲惨な体験をされた、この事実を次世代にも伝えていかなければならない。昨年の今日、8月9日に(当時の)岸田総理から厚労省に対して合理的な解決策として指示をされた。つまり昨年12月より新たに『第二種健康診断特例区域治療支援事業』がスタートしたところだ。幅広く一般的な疾病について被爆者の方々と同等の医療費助成これは大変大きな政策変更だったと思う。被爆体験者の方々が大変なご苦労をされたこと。そして今もご苦労されながら暮らしておられること。現在ご高齢になっておられること。こういうことも踏まえた措置、政策変更だ。今後ともこのような対応を着実に実施して参りたい」

ーーまた現在、核の威嚇を伴うロシアのウクライナ侵攻や事実上の核保有国イスラエルと核開発を進めるイランなどとの戦闘。米国によるイラン核施設への攻撃など核を巡る世界情勢は緊迫化している。核兵器の存在によって核兵器使用のリスクは増しており、被爆者団体などは「核抑止論は破綻している」と訴えている。唯一の戦争被爆国の首相として核なき世界への道筋を具体的に描くため核兵器禁止条約へのオブザーバー参加や批准、署名に踏み出す考えはあるか?

石破総理:「核兵器の廃絶に向けてどうするのか?という問いだと受けとめる。いわゆる核禁条約へのオブザーバー参加について。私どもが目指していかねばならないのは我が日本国の独立と平和そして国民の生命・身体・財産。これを必ず守っていかねばならない。これが我が日本国が国民に対して負っている責任だ。もう一つは本日、思いを新たにしたところだが核廃絶を唯一の戦争被爆国である日本が世界に向けてあるいは現在の未来の
そして過去の国民に対して負わねばならない責任だ。この二つをどのように両立させていくか?どちらも我々が果たしていかねばならない責任だと確信している。従って核兵器国を巻き込んで議論をしないと核の廃絶はできない。核の削減もできない。核を持っている国を交えてそういう議論をしていかねばならない。それはご理解いただけると思う。核を持っている国も持っていない国も参加をする仕組みというのは「核兵器不拡散条約(NPT)」体制のほかはない。我々として核保有国も参加しているNPTの中において核の削減、究極的には核廃絶する。この体制の下で「ヒロシマ・アクション・プラン」に基づき進めて参りたい」と答弁した。

2025年2月10日に「(社)核兵器をなくす日本キャンベーン」と「核兵器廃絶日本NGO連絡会」が「国会議員討論会 被爆80年核兵器をなくすために」を主催した。出席者とそれぞれの講演の公開映像には当日、変更があった。また同年8月5日にも同団体が毎年開いてきた同様の「軍縮」を主題とする国会議員討論会が共催された。

<出席者>2025年2月10日会合
日本原水爆被害者団体協議会(被団協)代表委員 田中熙巳氏、「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」 国際運営委員 川崎哲氏。
仏領ポリネシア(マオヒヌイ)国会議員ヒナメラ・クロス氏。「ドイツ連邦議会議員(緑の党)マール・スペラーバーグ氏。オーストリア外務省(軍備管理・不拡散局長)アレクサンダー・クメント氏。
公明党(党首)斉藤 鉄夫氏。立憲民主党(代表代行)長妻 昭 氏。日本維新の会(広島4区)空本 誠喜氏。国民民主党(長崎県連代表)西岡 秀子氏。日本共産党 委員長 田村 智子氏。れいわ新選組(共同代表)櫛渕 万里氏。社民党(党首)福島 みずほ氏。
外務省(不拡散・科学・原子力課)課長 横田 直文氏。

[©️「(社)核兵器をなくす日本キャンペーン」]

れいわ新選組(共同代表)櫛渕 万里氏
「核軍縮を促進させるためにまず一点目は『核兵器不拡散条約(NPT)第6条』の完全なる履行を求めること。そして二つ目は『核の先制不使用(NFU)』政策に日本は賛成表明すること。アメリカはNFUを認めていないが中国は一貫してこの政策を宣言している。三つ目は『核兵器禁止条約』に少なくとも『オブザーバー参加』をすること」だと論点整理した上で、櫛渕氏は未来を見据えて「核禁条約のオブザーバー参加については被爆80年核軍縮を進めるためにも私は国会の責任や民主主義そのものが問われていると思う。国民の世論の6割以上が核禁条約そのものにも賛成している。日本の国会が被爆者や「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」の人たちの声を直接、委員会で聞いてそしてそれを国会決議に変えて政府に国会の意志としてオブザーバー参加を求める。そうした民主的なプロセスが被爆80年に必要だと私は思う」と提言した。

[©️「(社)核兵器をなくす日本キャンペーン」]
一方、「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」 国際運営委員 川崎哲氏は「やはり核兵器の「非人道性」ということを核兵器廃絶の議論の中心に置くことが国際的にも共通認識になっている。一つは核被害者援助に関する提言案。核の被害者.として核実験の被害者も含むという提言。この核禁条約のもとに、核被害者の援助や環境修復を促進していく。そのために『国際信託基金』を創ろうという議論も出てきた。核被害者のコミュニティーを参加させてしっかりと確保する。そのための様々な支援やそのための通訳体制を創る。あるいは国際信託基金から直接被害コミュニティーに還元させていくという提言」とした上で「もう一つは核兵器禁止条約の普遍化のための提言案。普遍化とは条約に加わる国を増やすと同時に条約に関する理解を世界的に促進していくことだ。日本は核抑止に基づく安全保障モデルを取っているが、大変リスクが高い。代替案として「北東アジア非核兵器地帯」を促進していこう。あるいはそれを支える「3C」安全保障。⑴共通の(Common)安全保障 ⑵協力的(Cooperative)安全保障⑶包括的(Comprehensive)安全保障など、当面の課題は「緊張緩和(デタント)」への独自策、二国間の合意、多国間の合意だ」と力強く問題提起した。

[©︎(社)核兵器をなくす日本キャンベーン」「国会議員討論会 被爆80年核兵器をなくすために」]
 仏領ポリネシア(マオヒヌイ)国会議員ヒナメラ・クロス氏は
「私は6年前の辛い出来事をきっかけに活動家になった。家族のがんや病気に加え、自分が白血病と診断された時、私は24歳の若い母親だったが、それは単なる不運ではなかった。フランスが1966年から96年にかけて行なった193発の核実験の結果だった。核被害者への正義を求めるため、私は反核活動家になった。真の変革には政治的な行動が必要だと思い、現在私は活動家であり政治家でもある。仏領ポリネシアの国会議員を約2年務めている。」と自己紹介した。その上で「私の最初の立法活動は核兵器禁止条約を支持する決議案の提出だった。決議は57名の議員の全会一致で採択された。私の国にとって歴史的で象徴的な瞬間だった。世界に対して明確なメッサージを発信したのだ。フランスがこの条約を拒否しても、ポリネシアの人々は核軍縮真実と正義のために立ち上がる。
クロス氏は「一つの私の家族のエピソードをお伝えする。息子は8歳で化学療法で苦しむ私の姿を目の当たりした。ある日、彼は言った。『ママ、僕がパリに核爆弾を落として復讐してあげる』彼の言葉に私は打ちのめされた。計り知れない悲しみを覚えた。核実験の真実を伝えようとして彼の心に怒りと憎しみを植え付けてしまったことに気づいたのだ。それは私が子どもたちや世界の人々に伝えたいことではない。」
「私は繰り返し同じ質問を受けた。『日本が核禁条約に参加しないことをどう思いますか?』」と。正直、どう答えていいか分からなかった。核禁条約の普遍化を強く支持するが、フランスは核禁条約と関わることを拒否している。
闘いは過去に関してだけでなく、子どもたちと次世代のためにより安全な未来を築くことだ。核抑止力が安全をもたらすことは決してない。異論がある人もいるだろうが、抑止力とは私たちを守るものではない。私たちを脅かすものだ。世界で唯一の真の安全とは、『核兵器のない世界』だ」と主張した。

「(社)核兵器をなくす日本キャンベーン」
「ドイツ連邦議会議員(緑の党)マール・スペラーバーグ氏
会場でビデオメッセージを寄せた。

「まず日本被団協のノーベル平和賞受賞に心よりお祝い申し上げる。このことを踏まえ、石破首相が核禁条約の締約国会議に日本がオブザーバー参加することを真剣に検討すると表明したことに全面的な支持を表明する。各国政府が歴史から学び核兵器の悲惨な影響を警告した被爆者。とりわけ日本の被爆者の経験とたゆまぬ努力を認めようとする意思の証だ」と冒頭切り出した。
そして「2021年以来、ドイツはアンナレーナ・ベアボック外相のリーダーシップの下、同条約の締約国会議にオブザーバーとして参加している。自由民主党、社会民主党、そして我が『緑の党』で構成されてきた連立政権内での交渉の結果であり、私たちはこの条約に、より深く関与することを強く提唱してきた。世界的な軍備管理がますます圧力に晒され、核のリスクがかつてなく高まっている今、核禁条約は軍縮に必要な勢いを与えるものだ。ドイツはまだ同条約に加入していないが、その議論に積極的に参加することで現在98カ国となる締約国・署名国と関わりを持ち、核軍縮に関する議論の形成に貢献している。
 我が国の政府が核禁条約の会議に参加するのは、耳を傾け学び、橋をかけようという意思の表れだ。ドイツは依然として『北大西洋条約機構(NATO)』の『核共有(ニュークリア・シェアリング)』に参加しているが、核禁条約やその目的を無視しているわけではない。締約国会議での我が国の発言は、政策が同条約と異なる部分を明らかにしつつ、共通の土台も確認している。特に軍縮のための人道的アプローチを進めるためだ」とした。
 その上で「重要な連携できる分野の一つが『核問題における正義』だ。核禁条約が定める被害者援助と環境修復の条項は極めて重要だ。ドイツでは既に核兵器の使用や核実験がもたらす人道上の影響に対処するために核禁条約の締約国とともに取り組むことを約束している。これは現在、条約に加入しているかどうかに関わらず、具体的に貢献できる分野だ。重要なのはノルウェーやベルギーなど他の米国の緊密な同盟国もオブザーバー参加していることだ。これは核禁条約との関与が国際安全保障協力を傷つけるものではないことを示している。むしろNATO加盟国であるドイツがこのような立場を取ることで、核禁条約の締約国と他のNATO加盟国との橋渡し役となり国家間の合意を促進する重要な役割を担うことができる」と解説した。
 さらに「ドイツは日本と同様、攻撃的な核保有国が周辺に存在するという現実に直面している。ロシアの核兵器は欧州における我々にとって安全保障上の大きな脅威だ。しかしこのことで核兵器のない世界という超的な目標が揺らぐことはないし、核禁条約との関与が妨げられることもない。むしろ核禁条約の会議にオブザーバーとして参加することで、国際法、ひいては我々の共通の安全保障の強化に貢献する。特にロシアや北朝鮮のような国々が国際システムを脅かしている現在、これは重要なことだ」という現状を踏まえ「核禁条約は核兵器のない世界という全ての国が積極的に議論すべき共通の目標を明確にしている。最初の核実験と核兵器使用から80年が経つ今でも軍縮を達成する方法についての見解は分かれている。しかし核禁条約の下で対話に参加することは、この分裂を克服するための重要な一歩だ。我が「緑の党」はこうした議論へのドイツの参加を引き続き提唱していく。核禁条約そのものへの参加はまだ遠いことのように思えるが、最終的な核廃絶という私たち共有の目標に向けた国際的な努力に積極的に関与し議論に貢献することは、これまでの私たちの政権における重要な成果だ」と意欲を滲ませた。

<出席者>2025年8月5日会合
日本原水爆被害者団体協議会(被団協)代表委員 田中熙巳氏。
「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」事務局長 メリッサ・パーク氏。
オーストリア外務省(軍備管理・不拡散局長)アレクサンダー・クメント氏。
国連事務次長(軍縮担当上級代表)中満 泉氏。
自民党(「核兵器廃絶推進議員連盟」会長)寺田 稔氏。公明党(党首)斉藤 鉄夫氏。立憲民主党 本庄 知史 氏。日本維新の会(広島4区)空本 誠喜氏。国民民主党(党首)玉木雄一郎氏。日本共産党 (委員長)田村 智子氏。れいわ新選組(共同代表)櫛渕 万里氏。社民党(党首)福島 みずほ氏。

ところが今年8月5日にも毎年開かれている「核兵器廃絶日本NGO連絡会」「(社)核兵器をなくす日本キャンベーン」が共催した「国会議員討論会被爆80年 日本はどのように核軍縮を主導するかー「核兵器のない世界」に向けた転換点を作るためにー」では少数与野党の議論に画期的な変化が見られた。

[©️「(社)核兵器をなくす日本キャンペーン」]
自民党 寺田 稔 氏(自民党内・被害者救済と『核兵器廃絶推進議員連盟会長』)は「核兵器保有国の各国代表と核廃棄プロセスをぜひ、ルーティン化させてきたい。米国は僅かながら(核兵器保有量が)減っている。すでに冷戦時代に造られたウラニウム型原子爆弾は陳腐化したものは全て廃棄され存在していない。これは廃棄するものと新規のものを造らないということ。『核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約・FMCT)』を早期締結することが肝要だ。核兵器禁止条約についてもこの核廃棄プロセスがルーティン化することが見えれば、当然我が国としてもオブザーバーではなく、正式参加をしていくべきだと考えている」と切り出した。「そのためにも核兵器保有国との対話を深め、核兵器の『非人道性』また「核禁条約」第6条や『核被害の実相』の発信、その意味でカザフスタンの『信託基金』といった取組みにも全面的に支援していく」と具体的な提言を行った。

 

[©️「(社)核兵器をなくす日本キャンペーン」]
 また社民党の福島みずほ党首はこの寺田氏の放った提言に対し「毎年8月5日にこうした会議を開いているが、自民党の寺田議員が核禁条約にオブザーバー参加ではなく【正式参加をすべきだ】と断言したのは初めてのことだ。やはりここで一歩前進したと思う」と驚きを隠せなかった。一方で福島氏は現在の国家安全保障の在り方に強い危機感を抱いている。「去年、自衛隊と米軍がまさに台湾有事を想定した機上訓練で、自衛隊が米軍に対して『核兵器の威嚇をせよ』と何度も何度も迫って最終的には米国がそれを飲んだという事態が起こっていた。80年の節目に軍拡から軍縮へ。核兵器を使うなどと絶対にあってはならない」と極めて強い危惧を示した。 

[©️「(社)核兵器をなくす日本キャンペーン」]
ノーベル平和賞受賞団体(2017年)のICAN事務局長メリッサ・パーク氏は「核兵器禁止条約(TPNW)」の再検討会議は来年11月に開催される核兵器の廃絶、被害者援助、環境の修復に関する国際会議の『場』となる予定だ」とICANの今後の軍縮活動予定を述べ「日本がTPNWへのオブザーバー参加をすることで『日本は軍縮に真剣であり、正義を示す姿勢を示す』ことになる。一部の米国の同盟国、私の母国のオーストラリアも近いうちに加入する意向があり、現時点ではオブザーバー参加をしている。ニュージーランドやフィリピンなど他の米国の同盟国もTPNWの締約国だ。これらの諸国でも『核兵器は廃絶されなくてはならない』と主張している。実際にフィリピンもTPNWに加入した2年後に米国との大規模な貿易協定が締結されている」と米国と同盟国でも核禁条約に加入している「具体例」を挙げている。
 その上で「現在の『核の抑止』や『サイバーアタック』のような事件で、何か誤解があることで核兵器がいつでも使われる危険性がある。「核が安全である」という間違った理想論で被爆者の方々が訴え抜いてきたこととは真逆の発想では『真の安全保障』はあり得ない」と極めて強い警鐘を鳴らした。

[©️ピースデポ新代表鈴木達治郎氏]
◆解説長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)客員教授 鈴木達治郎氏
核兵器廃絶を目指す「核兵器禁止条約」も、核不拡散条約も、原子力平和利用の権利は否定していないので、核兵器廃絶を巡る議論の中で、原子力平和利用そのものを否定するのではなく、原子力平和利用が核拡散につながるリスクについて議論すべきだと思う。日本における原子力発電への回帰については、その政策そのものの合理性について議論すべきだ。

◆鈴木氏<詳述>:
原子力平和利用と核拡散のリスクについては、最も重要な課題は核兵器の材料である核分裂性物質、特に高濃縮ウランとプルトニウムの取り扱い、さらにその物質を生産できるウラン濃縮と再処理技術が焦点になる。

世界では、高濃縮ウランの平和利用は限定的であり、その在庫量も減少しているが、プルトニウムは平和利用とされている在庫量が増加し続けている。分離プルトニウム(再処理後回収されたプルトニウム)の在庫量を減少させていくことが、核不拡散、核セキュリティの観点から重要であり、日本の政府もそれを認めている。問題は、核燃料サイクルを続ける限り、すなわち『再処理』を継続する限り、プルトニウム在庫量の削減は難しいということだ。
使用済み燃料はプルトニウムを資源と考える国は、ごく少数(日本、フランス、中国、ロシア)であり、再処理は経済合理性もなく、廃棄物処理にも有益ではない。プルトニウムの在庫量を削減するためにも、合理的な原子力政策にするためにも、核燃料サイクルは見直しが不可欠だ。この点についてのさらなる国民的議論が必要がある。
使用済み燃料はプルトニウムを資源と考える国は、ごく少数(日本、フランス、中国、ロシア)であり、再処理は経済合理性もなく、廃棄物処理にも有益ではない。プルトニウムの在庫量を削減するためにも、合理的な原子力政策にするためにも、核燃料サイクルは見直しが不可欠で、この点についてのさらなる国民的議論が必要だ。

◆鈴木氏:<核燃料サイクル再考:原子力政策の負の遺産>
原子力推進の人たちの間でも、核燃料サイクルは『合理性がない』という合意形成されている。むしろ「経済性」「核拡散」「核セキュリティー」において『不利だ』と結論付けられている。それでも『核燃料サイクル政策(全量再処理)を変更できない理由』として、大規模プロジェクトの制度的・社会的・障壁・慣性が大きいとし、理由を指摘した。
この政策の犠牲者は国民と国際社会である。政策変更に伴うコストや損害をできるだけ低くし、その方が社会にとってプラスであると認識でき、段階的には核燃料から脱却できる方法が必要だ。そのためには使用済み燃料貯蔵容量の確保、独立した第三者組織による再評価、全量再処理から移行するための法改正、意思決定プロセスの改革、立地自治体、債務負担への対応が必要とされた。
これまで意思決定に関わってきたのは、事業に関与する組織組織や個人だったが、唯一の例外が福島第一原子力発電所直後の「国民的議論」だった。政府内では決められなかった『原発ゼロ』という政策を決定することができた。すでに日本には60~70年代に国内石炭産業の撤退という巨大な産業撤退を政府の支援で実行した実績がある。核燃料サイクルからの撤退もやる気になればできるだろう。

◆現在、世界の核保有9カ国の核弾道数は約1万2340発。その維持費・管理費など合わせると年間1002億ドル(約14.8兆円)だというICANによる調査がある。
 
◆核抑止(デタランス)とは…?
 圧倒的破壊力を有する核兵器を互いに持つことで使命を思い止まらせること。
長崎県核兵器廃絶研究センター(RECNA)鈴木達治郎 氏
 「残念ながら核抑止というのは、その(核使用の)可能性をゼロにはできない。」
「この80年間、使われなかった幸運が続く保証は全くない。」

核が80年間使われなかった意味が改めて問われている。

tomokihidachi

2003年、日芸文芸学科卒業。マガジンハウス「ダ・カーポ」編集部フリー契約ライター。編プロで書籍の編集職にも関わり、Devex.Japan、「国際開発ジャーナル」で記事を発表。本に関するWEBニュースサイト「ビーカイブ」から本格的にジャーナリズムの実績を積む。この他、TBS報道局CGルーム提携企業や(株)共同テレビジョン映像取材部に勤務した。個人で新潟中越大震災取材や3.11の2週間後にボランティアとして福島に現地入り。現在は市民ライター(種々雑多な副業と兼業)として執筆しながら21年目の闘病中。(株)「ログミー」編集部やクラウドソーシング系のフリー単発案件、NPO地域精神保健機構COMHBOで「コンボライター」の実績もある。(財)日本国際問題研究所「軍縮・科学技術センター」令和元年「軍縮・不拡散」合宿講座認定証取得。目下プログラミングの研修を控え体調調整しながら多くの案件にアプライ中。時代を鋭く抉る社会派作家志望!無数の不採用通知に負けず職業を選ばず様々な仕事をこなしながら書き続け、35年かけプロの作家になったノリーンエアズを敬愛。

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