虚無感が残る ニューヨークの美術館閉館

  by あおぞら  Tags :  

 写真の Museum of American Finance は、ウォール街にあった『アメリカ金融美術館』であった… そう、過去形である。アメリカには”博物館”という英語がないようで、日本ならばきっとこの類は『美術館』とせず『博物館』と呼ぶことだろう。

 余談だが、英語にない『博物館』は、美術館とカウントされるようである。事実、映画『ナイトミュージアム』のロケ地として有名なアメリカ自然歴史博物館は、英語だと『American Museum of Natural History』である。こちらには象を含む動物の膨大なはく製が多く展示されており、これらが目玉で圧巻である。巨大な建物に鉱物などの自然科学や博物に関する標本や資料を展示している。日本人の感覚だと完全に博物館、ただ、それもアメリカでは”美術館”扱いである。

 さて、逸れた話を本題に戻して、ニューヨークという都市は生き残るのが難しい大都会である。この街は『世界の首都』と豪語するアクの強い土地柄だ。競争が夥しくレストランにしても開店して集客が見込めないと、その店舗はやがてもぬけの殻になり、『FOR RENT』の看板が貼られる現金な街、ニューヨーク。

 冒頭のウォール街にあった『アメリカ金融”博物館”』は、数回訪れたことがあった。ニューヨーク銀行と言うかつてあった銀行の本店がこの博物館と化した。金融に関する展示は、アメリカの金融の歴史から始まり、展示物は紙幣や、株式相場等で、階段を上がる小さい2階部分スペースも含めた全2フロアーのみで、数回訪れ、その数回とも人はごくわずかと言った感じだった。

 この博物館はほどなくして閉館した。表向きには『改装中の為一時休館』となっていたが、結局、再オープンすることなく博物館の幕は閉じた。

 博物館を作るのに相当の資金を投じ、当然、州や市の自治体も多くの税金を投入したことだろう。しかし、オープンしておそらく5年ももたなかったのではないだろうか。

 昨年も好きな美術館が閉館した。ビジネスで言うと廃業だろう。『ルービン美術館』はヒマラヤンアートに特化した美術館で、多くの仏像が展示されていた。ヒマラヤ周辺国の仏像が国々により特徴が違うのが興味深かったし、報道カメラマンが撮影したヒマラヤやチベットの写真展は圧巻だった。チェルシー地区というボヘミアン的な場所に位置し、この美術館は元々バーニーズ・ニューヨークというスタイリッシュなデパートが入っていた建物なので、美術館中央の美しい螺旋階段はその名残だったのかもしれない。

 行ったことのないヒマラヤを感じ取れる不思議空間で大好きな美術館だった。私はアメリカ美術館協会のメンバーなので会員証を提示すれば友人も無料で入館できるので、数人の友人をご案内したものだった。友人たちは特別感のあるその美術館を楽しまれたようだった。

 ルービン美術館は2004年にオープンし、創立20周年記念の節目の年2024年に閉館の運びとなった。そんなことなど露知らぬ私は、過日、徒歩でこの美術館まで40分近く歩き、美術館を目の前にして閉じられていることに愕然とした、もう一度、愕然とした。

 この美術館で大好きだった寺院の内部が再現された空間があった。まるで寺院を訪れているようで並べられた一列の椅子に腰をおろし、厳かな祭壇を見つめ、心の葛藤をよく吐露していたものだ…

 大都会の喧騒の中、この美術館はオアシスだったし、また、その祭壇は別格であった。ただ、救いはその祭壇はブルックリン美術館に移築されたようだ。ブルックリン美術館前に咲く桜木は日本を彷彿させるので、4月の上旬辺りに”聖地巡礼”し、現状のご報告をしよう。

 人は動く、人は離れる、それがニューヨークだが、美術館や博物館までもが時間や莫大な資金を投入された後に、無残にも閉館してしまうこの虚無感をどう説明しよう。美術館も弱肉強食といえるのか、ニューヨーク?

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