映画『狂熱のふたり~豪華本「マルメロ草紙」はこうして生まれた~』 浦谷年良監督インタビュー「放り出されていた“宿題”がようやく着地した」

  by ときたたかし  Tags :  

作家・橋本治さんと画家・岡田嘉夫さんが、既成概念を打ち壊して身を投じた前代未聞の豪華本「マルメロ草紙」。その制作過程をつぶさに記録した秘蔵映像を映画にまとめた『狂熱のふたり』が公開となります。

橋本、岡田というふたりの奇才の妥協のない“戦い”は8年間にも及び、その軌跡を日本のエンターテインメント界におけるメイキング・ドキュメンタリーの先駆者・浦谷年良さんが追い、映画として完成。すでに両氏がこの世を去った今、浦谷監督に公開を迎えた心境をうかがいました。

『狂熱のふたり』は、橋本、岡田というふたりの奇才が時に互いを挑発しながらアイデアを出し合い、そこに装丁家・編集者・製版オペレーター・印刷技術者・製本職人たちも加わり、それぞれのクリエイティヴ魂を全開で、橋本の耽美小説、そして岡田流アール・デコの挿絵からなる豪華本「マルメロ草紙」の表現を深めてゆく過程を収めているもの。

「とにかくふたりの仕事がこういう形で観ていただけることはラッキーででした」と浦谷監督。「作業が終わって取材を受けることを予想した時に、橋本治との長い付き合いがいろいろと思い出されてきて。生きている間に完成したかったなという想いもあります」と感慨に浸る。橋本氏は2019年、岡田氏は2021年に映画の完成を待たずにこの世を去っている。

一般にドキュメンタリー映画となると、対象となる人間のインタビューで構成されることが少なくないが、浦谷監督は「橋本治という作家のことを映像に残すことは難しい」と当初は考えたという。しかし、「本を作ることに向かって一直線の情熱が見えるから、いい状態でした」と奇才たちの現場を述懐する。
「小説を描いている姿を撮ると言っても、それをどういう風に撮るかが重要になるかと思いますが、橋本治の小説という文章と、岡田さんが描く絵。これが五分五分でぶつかっていって、どっちか主で従か分からないような、そういう本は今までなかったと思うんです。文章があって、上手い挿絵がある絵本のような絵が中心のものはあるけれど、五分と五分で渡り合うとうものはなかった。その過程が撮れたことはよかったですね」。

密着は8年間にも及び、それを84分間という時間に凝縮して見せる。この豪華本は、2013年に集英社から定価35,000円。限定150部で刊行された。

そして令和になり悲願の公開を迎え、「何らかのカタチで映像に残したかったんです。放り出されていた宿題がこういう形で着地出来て良かったです」と浦谷監督は胸を撫でおろす。

「天才のビジュアルですからわたしにも分からないことが多いわけですが、カメラが彼らに付いて行くと、情熱だけではなく技術のことも感覚のこともある種見えてくる。そこがよく伝わる作品になったことがよかったなと思っています」。12月7日(土)ポレポレ東中野ほか全国順次公開。

(C) テレビマンユニオン

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo