7月17日に太田出版から『同人王』という漫画単行本が発売された。これが先鋭的な漫画読みの間で話題を集めている。
もともと『同人王』はweb漫画として、2006年から2010年まで2ちゃんねる系Web漫画サイト『新都社』で連載されていた作品である。連載終了後、あまりの面白さに、漫画編集者竹熊健太郎の主催するWeb漫画サイト『電脳マヴォ』にて再掲載された。そして同レーベル初の単行本として出版されることになった。著者の牛帝もweb漫画家であり、メジャーでの単行本の出版はこれが最初になる。
主人公である根本タケオは、体力もなく、人付き合いも苦手。漫画を描くことだけに活路を見出す少年だ。しかしタケオの描く漫画は、絵もストーリーもまるでダメ。漫画の才能を完全否定されてしまう。窮地に立たされたタケオが選んだのは、同人誌即売会でエロ同人誌を売りさばく同人漫画家のトップ=同人王であった。ところがそのエロ同人漫画の世界においてさえ、タケオは己の才能の無さを思い知らされることになる。
『同人王』は『まんが道』のような漫画家漫画の同人サークル版である。主人公は同人漫画作家としてのまんが道を歩んでいく。同人王に成り上がると意気込んでエロ同人誌を印刷し、コミックマーケットのような同人誌即売会で販売するタケオ。しかし同人漫画の世界も甘いものではなかった。売上ゼロという非情な結果が待っている。しかも無料でも要らないと突っぱねられてしまうのだ。どん底に落ち込んだタケオは這い上がれるのだろうか。この後も片時も目の離せない展開が待っている。
著者の牛帝の絵柄は、プロらしく洗練されたものではない。しかしそれもマイナスになっていない。もともとがweb漫画で発表された「同人漫画家同人漫画」であることも相まって、この手作り感のある絵柄が、かえって生々しい効果をあげている。主人公のタケオが漫画の腕前をあげると共に、漫画それ自体もなんだか手慣れたものになっていくという立体的な構造にもなっている。そうであれば、著者である牛帝と、主人公のタケオを重ねあわせるなという方が無理な話だ。こういう効果を狙って描いたわけでもないだろうが、この迫真のドキュメント性に、ついつい引きずり込まれて、気がつけばラストまで一気に読んでしまうのだ。
Web漫画の魅力は、現行の商業漫画では実現が難しい著者との距離の近さだ。そして加工されていない漫画のナマの面白さだ。『同人王』とは飾りのない抜き身の漫画なのだ。『同人王』を読み、うっかりひきこまれ、もどかしくも先のページをめくるうちに、漫画という表現文化の原点に立ち返っている自分を発見する。
『まんが道』『サルでも描けるマンガ教室』『バクマン』など、漫画家漫画の名作の系譜がある。その最新の名作として『同人王』が連なるのは間違いない。
※画像は電脳マヴォより引用させていただきました。
電脳マヴォ
http://mavo.takekuma.jp/
たけくまメモ「祝・出版記念座談会『同人王』と僕らの時代」
http://memo.takekuma.jp/?p=5570